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ep.31 似た者同士


 威吹に連れられるまま、死局の中を進む。


 どうやら私を捜索するため、特別警備課は結構な人員を割いていたらしい。

 疲労を滲ませた隊員たちは、私を見るなり目を潤ませている。


 相当な苦労だったのだろう。

 進むほどげっそりしていく隊員とは異なり、威吹の足取りはしっかりしたものだ。


 前よりも成長した威吹を感慨深い気持ちで眺めていると、何やら騒がしい音が聞こえてきた。

 音の先には、落ち着くよう宥める隊員たちと、邪魔だと言わんばかりに眉を吊り上げる美火。


 そして、凍りつくような空気を纏わせる、霜月の姿があった。


「霜月」


 威吹に頼まれるよりも早く、霜月の名前を呼ぶ。

 月の如き金が、蜂蜜のような重さを増した。

 色付く世界に、時が止まったかと思うほどの衝撃を覚える。


「……むつき、……睦月」


「うん。ただいま」


 いつもはかなり加減してくれていたんだな、なんて。

 抱きしめる腕の強さに、霜月の温かさを感じた。


「美火もただいま」


 霜月を貼り付けたまま、美火の頭を撫でる。

 くしゃりと顔を歪めた美火だが、私の服を掴むと、隠すように俯いてしまった。


 どうしたものかと辺りを見るも、隊員たちは硬直しており、とても使えそうにない。

 唯一動けそうな威吹を手招くと、照れた表情で近寄ってきた。


「上司の所に行くから、ここはお願いしてもいい?」


「あ、はい! 大丈夫です!」


 周りを見渡した威吹が、察した様子で頷く。

 直視し難いのか、威吹は霜月をちらりと見た後、斜め上に視線を彷徨わせていた。


 巻き付いていた霜月の手を取り、もう片方で美火の手を握る。

 こうしてしまえば、あとは簡単だ。


 大人しく引率される霜月と美火を連れ、私は上司の元へと向かった。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 自室に戻り、並んでソファーに腰掛ける。

 お茶でも淹れようかと立ち上がったものの、霜月に引き留められ、そのままソファーに座り直した。


 私が魔界に送られてから、霜月は想像以上に荒れていたらしい。

 上司が不在だったため、止められる者も居らず。


 隊員たちが何とか宥めようとするも、美火まで加勢したことで、明鷹は私の発見が最優先だと捜索に回ったようだ。

 威吹が焦っていたのは、攻防のため残った隊員たちの気力が、底を突きそうだったからだろう。


 ひとまず美火に留守を頼み、事の経緯は上司が戻ってから確認することにした。

 今の私が優先すべきことは、隣にいる霜月を落ち着かせることだ。


「あのね、霜月──」


 開きかけた口を閉じる。

 重なった視線から、霜月の切情が伝わってきて。

 思わず、滑らかな頬に手を当てていた。


 霜月の手が、上から覆ってくる。

 寄せられた頬と、一回り大きな手のひらに挟まれ。

 私の肌に、無いはずの体温が移っていくような気がした。


「睦月は俺がいなくても生きていける。でも……俺は睦月がいないと生きていけない」


 空気が、喉の奥で詰まっている。

 呼吸の仕方を忘れるほど、霜月の言葉は真っ直ぐだ。

 真っ直ぐ、心に突き刺さってくる。


「大丈夫だよ。ちゃんと戻って来たでしょ?」


 ──ずっと傍にいると、約束してあげられたらいいのに。


 私は霜月に、約束さえ残してあげられない。

 それがどうしようもなく不甲斐なくて。

 けれど同時に、これ以上なく嬉しかった。


「もしいつか、この世界から私が消える日が来たとして──」


 あくまで仮定の話だ。

 負けるつもりなんて毛頭ない。

 それでも、私が霜月にあげられる一番の贈り物やくそくは、これしかないと思うから。


「その時は、私と一緒に死んでくれる?」


 輝きの増した金と、血色の戻った頬。

 死を贈り、生に満ちるなんて。

 死神とは全くもって不思議な存在だ。


 だけど、私もまた死神なのだと理解して、自然と笑みが浮かぶ。

 握られた手が優しく引かれる。

 手のひらに触れる吐息。


 二度目の口づけは、以前よりも幸福に溢れたものだった。




 ◆ ◇ ◆ ◇




 【 お知らせ 】


 サポーターの方に向けて、限定ノートを更新しました。


 最近、海外のハリポタカフェに行ってきまして。

 その影響もあり、死神の猫メンバーで組み分けをしたらどうなるのかな(˙-˙ )?

 と思い、ざっくり載せてみることにしました。


 せっかくなら、本編では書けないノートならではの試みをしてみたいなと。

 もし問題があった際はすぐに削除しますので、そちらだけご承知ください。


 いただいたギフトは全額、私の愛猫に使っております。

 読者の皆さまも、+でサポーターになってくださっている方々も、いつも本当にありがとうございます。


 これからも物語を楽しんでいただけると幸いです。



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