威吹に連れられるまま、死局の中を進む。
どうやら私を捜索するため、特別警備課は結構な人員を割いていたらしい。
疲労を滲ませた隊員たちは、私を見るなり目を潤ませている。
相当な苦労だったのだろう。
進むほどげっそりしていく隊員とは異なり、威吹の足取りはしっかりしたものだ。
前よりも成長した威吹を感慨深い気持ちで眺めていると、何やら騒がしい音が聞こえてきた。
音の先には、落ち着くよう宥める隊員たちと、邪魔だと言わんばかりに眉を吊り上げる美火。
そして、凍りつくような空気を纏わせる、霜月の姿があった。
「霜月」
威吹に頼まれるよりも早く、霜月の名前を呼ぶ。
月の如き金が、蜂蜜のような重さを増した。
色付く世界に、時が止まったかと思うほどの衝撃を覚える。
「……むつき、……睦月」
「うん。ただいま」
いつもはかなり加減してくれていたんだな、なんて。
抱きしめる腕の強さに、霜月の温かさを感じた。
「美火もただいま」
霜月を貼り付けたまま、美火の頭を撫でる。
くしゃりと顔を歪めた美火だが、私の服を掴むと、隠すように俯いてしまった。
どうしたものかと辺りを見るも、隊員たちは硬直しており、とても使えそうにない。
唯一動けそうな威吹を手招くと、照れた表情で近寄ってきた。
「上司の所に行くから、ここはお願いしてもいい?」
「あ、はい! 大丈夫です!」
周りを見渡した威吹が、察した様子で頷く。
直視し難いのか、威吹は霜月をちらりと見た後、斜め上に視線を彷徨わせていた。
巻き付いていた霜月の手を取り、もう片方で美火の手を握る。
こうしてしまえば、あとは簡単だ。
大人しく引率される霜月と美火を連れ、私は上司の元へと向かった。
◆ ◆ ◇ ◇
自室に戻り、並んでソファーに腰掛ける。
お茶でも淹れようかと立ち上がったものの、霜月に引き留められ、そのままソファーに座り直した。
私が魔界に送られてから、霜月は想像以上に荒れていたらしい。
上司が不在だったため、止められる者も居らず。
隊員たちが何とか宥めようとするも、美火まで加勢したことで、明鷹は私の発見が最優先だと捜索に回ったようだ。
威吹が焦っていたのは、攻防のため残った隊員たちの気力が、底を突きそうだったからだろう。
ひとまず美火に留守を頼み、事の経緯は上司が戻ってから確認することにした。
今の私が優先すべきことは、隣にいる霜月を落ち着かせることだ。
「あのね、霜月──」
開きかけた口を閉じる。
重なった視線から、霜月の切情が伝わってきて。
思わず、滑らかな頬に手を当てていた。
霜月の手が、上から覆ってくる。
寄せられた頬と、一回り大きな手のひらに挟まれ。
私の肌に、無いはずの体温が移っていくような気がした。
「睦月は俺がいなくても生きていける。でも……俺は睦月がいないと生きていけない」
空気が、喉の奥で詰まっている。
呼吸の仕方を忘れるほど、霜月の言葉は真っ直ぐだ。
真っ直ぐ、心に突き刺さってくる。
「大丈夫だよ。ちゃんと戻って来たでしょ?」
──ずっと傍にいると、約束してあげられたらいいのに。
私は霜月に、約束さえ残してあげられない。
それがどうしようもなく不甲斐なくて。
けれど同時に、これ以上なく嬉しかった。
「もしいつか、この世界から私が消える日が来たとして──」
あくまで仮定の話だ。
負けるつもりなんて毛頭ない。
それでも、私が霜月にあげられる一番の
「その時は、私と一緒に死んでくれる?」
輝きの増した金と、血色の戻った頬。
死を贈り、生に満ちるなんて。
死神とは全くもって不思議な存在だ。
だけど、私もまた死神なのだと理解して、自然と笑みが浮かぶ。
握られた手が優しく引かれる。
手のひらに触れる吐息。
二度目の口づけは、以前よりも幸福に溢れたものだった。
◆ ◇ ◆ ◇
【 お知らせ 】
サポーターの方に向けて、限定ノートを更新しました。
最近、海外のハリポタカフェに行ってきまして。
その影響もあり、死神の猫メンバーで組み分けをしたらどうなるのかな(˙-˙ )?
と思い、ざっくり載せてみることにしました。
せっかくなら、本編では書けないノートならではの試みをしてみたいなと。
もし問題があった際はすぐに削除しますので、そちらだけご承知ください。
いただいたギフトは全額、私の愛猫に使っております。
読者の皆さまも、+でサポーターになってくださっている方々も、いつも本当にありがとうございます。
これからも物語を楽しんでいただけると幸いです。