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ep.24 交換条件


 次々と襲ってくる使い魔を、睦月は死神之大鎌デスサイズのみで処理していく。

 夜空色の刃が、目にも留まらぬ速さで魔獣をただの肉塊に変えた。


 コアのある位置を的確に切断し、再生さえも許さない。

 そんな睦月の姿を見て、観覧席では驚きの声が上がっていた。


「すげぇな嬢ちゃん。能力頼りかと思いきや、物理もいけんのか」


 感心した様子のアヴァリーに対し、レインは沈黙を貫いている。

 睦月たちから片時も目を離さないレインを見て、アヴァリーはひっそりと笑みを浮かべた。


 魔界にも関わらず、睦月の動きはそこらの悪魔を凌駕している。

 本来の力を発揮できるインヴィーに対し、睦月は弱体化された状態だ。


 インヴィーもまだ本気を出していないとは言え、明らかに異質な光景だった。


 切断した魔獣の首を、睦月は死神之大鎌デスサイズの峰で弾いていく。

 勢いよく放たれた頭部は、他の使い魔を円盤の外へと吹き飛ばした。


 飛行手段を持たない魔獣は、落下していくしかない。

 しかし、インヴィーからすれば、役立たずが居なくなったところで問題はないのだろう。

 むしろ、邪魔者が減ったと言わんばかりの顔をしている。


 大量に召喚された使い魔は減ることなく、インヴィーを直接叩こうにも、先に使い魔を何とかしなければならない状況だ。

 召喚陣は現世の時よりも強力で、召喚されるスピードも桁違いになっている。


「プーパ、振り落とされないように捕まってて」


 使い魔を牽制するため炎を吐いていたプーパは、睦月の言葉に口を閉じると、肩にしがみついた。


 突如、足元に大きな亀裂が入った。

 広々とした円盤が分裂し、床が盛り上がっていく。

 崩れていく足場に気づいた使い魔たちは、互いに蹴落とし合いを始めた。


 しかし、円盤が完全に無くなったことで、一匹残らず城下へと落ちていく。


「まさか足場を壊すなんて。なかなか大胆じゃない」


 余裕の表情で口を開いたインヴィーは、睦月を見て笑みを深めている。

 宙に浮かぶ睦月たちの足元に、壊れた円盤の欠片が集まりだした。


「これは自動修復なのよ。とは言え、召喚する度に落とされるのは面倒ね」


 上空に、巨大な陣が現れた。


 最初に見えたのは鉤爪だ。

 鋭く尖った爪と、円盤の半分ほどもある体。

 最後に現れた翼を広げると、睦月たちが立っている場所を覆い尽くしてしまいそうだった。


 甲高い鳴き声を上げた魔獣は、睦月に向けて急降下してくる。

 咄嗟に口元の魔法陣へ火を吹いたプーパは、炎で魔獣の翼に穴を空けた。


 覆い被さるように落ちてくる巨体を避け、翼の穴からするりと抜け出た睦月は、落下していく魔獣の背を蹴り上空へ身を踊らせた。


「ありがとうプーパ」


「ふん! ゆだんはきんもつですよ!」


 素直じゃないプーパの態度に、睦月の表情が僅かに緩む。

 ふわりと髪を靡かせ、睦月は空中で姿勢を立て直した。

 円盤に立つインヴィーと視線が合うも、見下される形が不快だったのだろう。


 機嫌が急降下していくインヴィーの前で、使い魔は再び翼を広げた。

 死神之大鎌デスサイズを構え直した睦月の周りを、びっしりと毒の玉が取り囲んでいる。


 同じ手を使うほど、インヴィーは安直ではない。

 睦月が空間能力を持っていることも、既に知っているはずだ。

 それなら何故──。


 違和感を覚える睦月の目に、使い魔が嘴を開くのが映った。

 睦月が警告を口にするよりも早く、耳をつんざくような音が辺りに響き渡る。


 超音波のように広がっていく音に反応し、毒の玉が破裂しだした。

 観覧席にいたレインが不快そうに耳を抑え、ビベレがその場にひっくり返る。


 降り注いでくる毒液を亜空間に仕舞い込む睦月の肩から、何かが滑り落ちる気配がした。

 目を回したプーパが、地面に向けて落下していく。


 手を伸ばした睦月の眼前に、毒でできた剣が振り下ろされた。

 咄嗟に死神之大鎌デスサイズで受け止めた睦月だが、インヴィーに阻まれ、プーパを助けることはできない。


 剣を受け止めた際に飛び散った毒が、睦月の頬をじゅわりと焼いている。

 落ちていくプーパを、インヴィーの使い魔が鉤爪で引っ掛けるのが見えた。


「レインの使い魔が気になる?」


 艶やかに微笑んだインヴィーが、剣を押す力を強めてくる。

 剣から流れ出した毒が、死神之大鎌デスサイズを伝い睦月の腕まで流れていく。


 煙を発しながら焼けていく腕を見て、インヴィーは恍惚とした表情を浮かべた。


「綺麗な手がただれちゃったわね」


 哀れむような声とは反対に、インヴィーは優越感に浸っている。

 燃え盛っていた嫉妬の炎が、少しずつ鎮まっていくのを感じていた。


「もし負けを認めれば、レインの使い魔は助けてあげる。タイムリミットは……そうねぇ。ひよこちゃんの腕が腐り落ちるまで──とかどうかしら?」



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