思わぬところから上がった声に、レインは呆然とした。
何故プーパが参加を表明しているのか。
予想外の出来事が続き、レインは言葉を失っている。
「へえ……。自ら犠牲になるなんて、
おかしそうに笑うインヴィーに、レインの表情が歪んだ。
「おいプーパ! 勝手なことをするなとあれほど……!」
「ごしゅじんがそのむすめにきょうりょくしているのは、せいやくしょがあるからです。でも、ごしゅじんがむりをしてまできょうりょくしたのは、ぷーぱたちがいるからです」
ずけずけとものを言うプーパにしては、随分と控えめな話し方だった。
レインの驚く顔が、プーパの目に映り込んでいる。
プーパはとっくに気づいていた。
レインが無理をしてまで何かをする時は、いつだって自分たち部下が関わっていることを。
そしてずっと願っていた。
レインの役に立つ機会が、どこかでやって来ることを。
「ぷーぱもごしゅじんのちからになれます。みじゅくなぷーぱをごしゅじんがひろってくれたときから、ぷーぱはずっとごしゅじんのことがだいすきです」
「……お前は、僕の好みに合わせてくれてただけだろ」
未熟なんかではないと頭を撫でるレインを、プーパは嬉しそうに受け入れている。
「行ってこいプーパ。誓約書の破棄がかかってるんだ。任せたぞ」
「はいごしゅじん!」
息をついたレインが、プーパを送り出す。
小さい歩幅で睦月の傍まで近寄ったプーパは、当然のように何かを待っている。
睦月が手を差し出すと、プーパは腕を伝い、肩の上へと移動した。
「いいですかむすめよ。このしあい、けっしてまけはゆるされません。ぷーぱがきてやったからには、しょうりあるのみです!」
「そうだねプーパ。勝ちにいこう」
耳元で騒がしく話すプーパだが、今の睦月にとっては激励のようにも聞こえてくる。
睦月の返事に、プーパが鼻を鳴らした。
「相変わらず自信過剰ね」
「必ず勝つと約束したので」
こんな状況でも感情一つ読み取れない睦月に、インヴィーが目を細めた。
「いいわ。その自信、粉々に砕いてあげる」
突然、上階の内装が変化を始めた。
透明な壁や天井が剥がれ、床が横に動き始める。
床の形は円盤のようになっており、しばらく移動すると、空中でぴたりと停止した。
魔王城と離れたことで、最上階らしき場所から、円盤の上が見下ろせるようになっている。
「ルールは特にないわ。勝者は全てを手に入れ、敗者は全てを失う。簡単でしょう?」
微笑むインヴィーと対峙し、睦月は
周囲に結界は張られていないが、ここは魔王城だ。
魔王が許可しているのであれば、気にする事もないだろう。
元いた場所は空洞になっており、新しい床と座席が用意されている。
魔王は上から、将は横から観覧できる仕組みのようだ。
険しい顔をしたレインと、プーパを心配そうに見守るビベレ。
そして、睦月をじっと眺めるアヴァリーの姿が見えた。
「試合が始まれば、そっちまで手が回らない時もあると思う」
「ふん! ぷーぱならよゆうです。はやくおわらせますよ!」
危険だと思えば、離れてても構わない。
暗にそう伝える睦月に対し、プーパは心配不要だと息巻いている。
「そろそろ良いかしら?」
準備が整うまで待っていたのだろう。
声をかけてきたインヴィーを、睦月は真っ直ぐ見返した。
「大丈夫です」
インヴィーにとっては、位がかかった勝負だ。
睦月を叩き潰すのは、試合の中でと決めているらしい。
何より、この勝負を見ているのは──レインたちだけではない。
城の最上階にちらりと視線を向けた睦月は、開始の合図と共に降ってきたインヴィーの使い魔を、真っ二つに切り裂いていた。
◆ ◇ ◆ ◇
【 おまけ 】
「なあレイン」
「……なんだ」
「死神の嬢ちゃんよぉ、なんでインヴィーには丁寧語なんだ?」
「知るかそんなこと。そもそもあいつ、僕にはタメ口だからな」
「あー、まあそうだよな」
「どうせ、暗黒将だからとかそんな理由だろ」
(俺様も暗黒将なんだよなぁ)