「何でお前らが一緒にいるんだ」
アヴァリーと共に合流した私を見て、レインが眉を
「そう言うなよ。俺様が付いてったから、すんなり戻れたんだぜ? なあ嬢ちゃん」
同意を求められ頷く。
分断の原因を作ったのはアヴァリーだが、こうしてすぐに戻れたのも、アヴァリーの道案内があったためだ。
嘘は言っていない。
レインは怪訝そうな顔をしていたが、これ以上聞いても無駄だと諦めたのだろう。
早く行くぞとばかりに足を進めている。
「ここを抜ければ、上階までの転移陣がある。魔王のいる場所は最上階だが、上階に着けばいくらかマシになるはすだ」
上階は魔王の住居に近いため、暗黒将であっても勝手は許されないらしい。
レインはインヴィーと遭遇することを危惧していたが、上階に辿り着けば、ひとまず安心できると考えているのだろう。
アヴァリーの話していた通り、最初の一匹を除き、魔獣がこちらに近づいてくることはなかった。
◆ ◆ ◇ ◇
上階はガラス張りのような造りをしていた。
魔界を一望できる高さと、吹き抜けの天井から見える薄暗い空。
四方を透明な壁で覆われた空間は、大広間の何倍もありそうな広さをしている。
「魔王への謁見は、暗黒将を通して伝える決まりだ。どの将に当たるかは運もあるが、今回はこいつがいるからな」
他の将に頼むまでもない。
レインは親指でアヴァリーを示すと、魔王の元に向かうよう圧をかけている。
「その件なんだけどよぉ。ちっとばかし状況が変わったんだわ」
「は?」
「悪りぃな、レイン」
訳が分からないままアヴァリーを見るレインだったが、急速に変わっていく空気を感じ黙り込む。
突如現れた気配は、私たちがよく知る悪魔のもので──。
「助かったわ、アヴァリー。このまま魔王様に会われてたら、少し厄介だったもの」
「インヴィー……」
苦々しげに呟くレインを一瞥すると、インヴィーはこちらにゆっくりと歩を進めてくる。
「会いたかったわひよこちゃん。現世では世話になったわね」
艶やかな笑みの下では、猛烈な憎悪が燃えている。
インヴィーからは敗北の屈辱と嫉妬。
そして、強い執念を感じた。
「……ここは魔王様の
「その魔王様から許可をいただいてきたのよ」
レインが牽制するも、インヴィーに動じた様子はない。
先手を打ったのだと微笑むインヴィーは、状況が掴みきれていないレインを見て口を開いた。
「下剋上の仕組みは知っているわよね? 魔王様に挑めるのは暗黒将のみ。そして、暗黒将に挑めるのは貴族である悪魔と──」
「貴族に準じた実力を持つ悪魔……」
「その通りよ」
インヴィーが何を言いたいのか理解したのだろう。
レインの視線が私の方を向く。
「魔王様に囲われれば、手が出しづらくなる。だから先に申請しておいたの。
「……こいつは貴族でも悪魔でもない。死神だ。そもそも、暗黒将から勝負を仕掛けるためには、他の将の同意が必要なはずだろ」
「そうね。暗黒将は挑まれる側の存在であり、挑むことはほとんどないわ。もし私たちから仕掛ける場合は、半数を超える将の賛同を得なければならない決まりよ」
くすりと笑みを溢したインヴィーは、分からないのとでも言いたげにレインを見つめている。
「半数を超える賛同。つまり、私を含め残り三つの同意が必要ね。一つはグォーラ、もう一つはスーリアから貰ったわ」
グォーラの名前があるのは当然だ。
あれだけ使い魔に手を出され、賛成しない
ただ、スーリアの名前が出てきたのは予想外だったのだろう。
レインは頭が痛そうに額を押さえている。
「そして最後の一つは」
インヴィーの視線が、レインの隣に向けられた。
「アヴァリー。お前、まさか……」
「まあそういうこった」
まるで何でもないことのように、アヴァリーが肯定を返している。
旧友の裏切りを知り、レインの顔に怒りが満ちた。
「そういう訳だから、覚悟はいいかしら……ひよこちゃん?」
逃走は不可能だ。
インヴィーに呼ばれ、こちらからも距離を詰める。
「おい、ここは魔界だぞ! いくら何でも無茶苦茶だ……!」
引き留めようとするレインを見て、インヴィーが唇に指を当てた。
「確かに、魔界において私の方が有利なのは認めるわ。それなら、こういうのはどうかしら? ハンデの埋め合わせとして、レインの使い魔を一匹参加させるの」
巧いやり方だ。
インヴィーは、反対するなら犠牲を払えと言いたいのだろう。
私を助けるために部下を犠牲にするか、このまま黙って見過ごすか。
レインに選ばせようとしている。
「お前……!」
「やめとけレイン。犠牲を増やす必要はねぇよ」
アヴァリーの言葉に、レインが歯を食いしばった──その時だった。
「かんしゃしろむすめ! そのしあい、ぷーぱがさんかしてやります!」