プーパが反応を示したのは、一際大きいウツボカズラの近くだった。
「あの中にあるってこと?」
「むむ……たぶん、そこらへんにあります!」
ウツボカズラというより、ここら一帯に隠されていると捉えた方が良さそうだ。
密集する蔦によって、レインたちの姿は既に見えない。
とりあえず、プーパが言うそこら辺を探してみるしかないだろう。
迫ってくる蔦を切り裂きながら、地面にも目を向ける。
「プーパ。この下の辺り、怪しくない?」
「じめんのしたですか。あやしいといえばあやしいですね!」
肩から覗いたプーパだが、勢いのあまりずり落ちそうになっている。
しがみつくプーパを元の位置に戻し、再び地面に目を凝らした。
「奥の方に埋まってると思う」
「なぜそんなことがわかるのです」
「一言で表すなら、目が良いからかな」
視えたのはエネルギーの塊だ。
魔力の収縮した部分がこの植物の
「問題は、どうやって地上にあぶり出すかだけど」
「まったく。こたえはでているではありませんか。ことばどおり、あぶりだせばいいのですよ!」
耳元で、ぼっと燃える音がした。
現れた魔法陣に向けて、プーパが息を吹きかけている。
プーパの口から出た火は、目の前の魔法陣を介して、背丈の何十倍もある炎に変化していく。
燃やされた蔦は苦しそうに
「すごいねプーパ」
「えへん! ぷーぱにかかればこのくらいかんたんです!」
熱風が顔に当たっているが、我慢できないほどではない。
ふと気になったことがあり、プーパに問いかけてみた。
「火が近いけど、私まで燃えたりしないよね?」
「しつれいな! ぷーぱがそんなみすをするとでも……あ!」
髪の先端が焦げたのを見て、速攻でプーパを地面に降ろす。
そのまま
「ぶれいもの! なにをするのです!」
「ほらプーパ。次が来てるよ」
「うぐぅ……!」
プーパは悔しげに唸りつつも、迫る蔦に炎を吹きかけている。
私はと言えば、ぶら下げた
「……こっ、このくらいもやせばじゅうぶん……うぇっぷ」
疲労困憊のプーパだが、動かしすぎて酔ったのか、吐きそうな顔をしている。
主従揃って吐きそうになるとは、仲がいいことだ。
ふらつくプーパを抱き上げ、もう一度肩に乗せておく。
恨みの込もった目を向けてくるプーパだったが、背に腹は変えられないのだろう。
肩から降りることはなかった。
「邪魔なものは消えたし、早いところ
「……いっこくもはやくもどるのです。うぇっぷ」
このまま長引けば、肩で吐かれそうな勢いだ。
プーパをレインにリバースするためにも、手段を選んでいる暇はない。
燃やされた蔦の根元が、歪な形に盛り上がってきている。
地上に出ようとしているのは確かだが、このままではプーパが吐く方が早いだろう。
凄まじい音を立てて、地面が分かれていく。
平坦だった大地が上下に離れていく様を、プーパは驚いた顔で見つめていた。
燃やされた上部に続き、割れた断面から隠れていた部分が現れる。
腸のように長い消化器官の表皮には、まだ溶け切っていない魔獣の形が浮き出ていた。
「なにが……うえっぷ、おこったので……うえぇっぷ」
「口を閉じててプーパ」
どうやら、一刻の猶予もないようだ。
両手で口元を押さえたプーパが落ちないよう注意を払う。
地中に空間を創り出し拡張してみたが、成功して良かった。
裁断されたように綺麗な断面からは、這いずる消化器官が伸びていた。
所々が破れており、漏れた酸が煙を上げている。
損壊具合が酷いが、栄養になるものを取り込む使命だけは忘れていないらしい。
びたびたと伸びてくる器官の中に、収縮された魔力の塊を見つけた。
散った破片は戻ることなく、遠くまで伸びていた蔦も一斉に萎んでいった。
ジャングルのような蔦が無くなったことで、レインとビベレの無事も確認できる。
こちらを見て不満げな顔をしたレインは、まるで玩具を取られた子供のようだった。
向こうの事情はさておき、私はプーパを渡すため、足早に歩を進めていく。
結果から言うと、プーパは吐いた。
レインの肩の上で。
◆ ◇ ◆ ◇
2024年も最終日。
読者の皆さま、本年度は大変お世話になりました。
嫌なことはプーパのように吐き出して、すっきりとした新年を迎えられるよう願っています。
いつも物語を見守ってくださり、本当にありがとうございます。
読者の皆さまと、来年の空でもまたお会いできますように。