「お前、魔王に会ったらどんな話をするつもりだ?」
「魔界から出たいって話だけど」
「何の見返りもなしに、出してくれるわけないだろ。今のお前は、魔王からすれば鴨が葱を背負ってやって来るようなものだぞ」
「たとえ方が可愛いね」
さすが可愛いもの好き。
私の返事に顔を歪めたレインは、聞いて損したと言うように視線を逸らしている。
「真面目な話をするなら、見返りはあるよ。ただ、魔王が乗ってくるかは五分五分ってところかな」
「半分は賭けの域だろ。まあ、僕はお前がどうなろうと誓約書さえ破棄できればいいけどな」
鼻で笑うレインの後ろで、プーパが地面から生えた芽を突ついている。
「そういえば、何で僕の領地にいたんだ? お前をここに送ったのは、インヴィーの
「理由は私も知らない。持ち主によって、送られる場所も変わる仕組みなの?」
「
魔界は荒廃した土地ばかりかと思っていたが、そうでもないらしい。
徐々に増える植物を、観察しながら進んでいく。
「
「精霊も連れて来られることがあるんだ」
「実験用やら鑑賞用やら、あとは食用とかか……? 感覚的には、貴族の娯楽に近いのかもな」
時間も富も有り余った結果だと話すレインは、私を見て何やら訝しげな顔をした。
「だから、死神が魔界に来るのは相当珍しい。お前がインヴィーを拒絶した結果、力が反発して別の場所に落ちたと考えるのが自然なんだろうが……。疑問なのは、何故僕の領地に落ちてきたかだ」
「偶然じゃないってこと?」
「いや、所有者の元を外れた場合、落ちる位置はランダムになる。それこそ運だな」
運で場所が変わるのなら、レインのところに落ちたのも偶然だと思うのだが──。
どうやらレインには、他にも気にかかる要素があるらしい。
「とは言え、僕の領地と魔王城にはかなりの距離がある。インヴィーの領地ともな。たとえ運だとしても、所有者と遠くなるほど確率は下がる仕組みなんだよ」
「つまり私は、SSRを引いたってことか」
「数値で言えばURだな」
幼い頃、陽向がスマホゲームと呼ばれる類で遊んでいるのを見たことがある。
試しに引いてみてと差し出された画面に指を当てると、虹色に発光したカードがずらりと並んでいく。
唖然とした表情から一変、陽向は満面の笑みで抱きついてきた。
その時の私は、どうして陽向がこんなにも喜んでいるのか分からず、ただ首を傾げていたものだ。
「とにかく、お前にも理由が分からないとすれば、相当運が良かったんだろうな」
レインはそれ以上考えるのを止めたらしい。
近づく魔王城を前に、憂鬱そうな顔をしている。
──運が良かった、か。
自分でも運は良い方だと思う。
おみくじでは大吉しか出たことがないし、くじ引きをすれば、一等か欲しい物ばかりが当たっていた。
燕や時雨と出かけた時も、運の良さに驚かれたくらいだ。
だとしても──本当に運だけで、ここまで都合よく進むものだろうか。
晴れない思考のまま歩く私の背後で、突然プーパの悲鳴が上がった。
「びゃー! ごしゅじんー!」
「だから勝手に離れるなと言っただろ……!」
「プーパさまあああ!」
周囲の植物が一斉に育ち始め、地面に亀裂が入っていく。
蔦に巻き取られたプーパが宙吊りで暴れる中、レインは額に手を当て唸っていた。
地面の下からウツボカズラのような植物が姿を現し、プーパを食べようとしているのが見える。
「ビベレ! 辺りの蔦を何とかしろ!」
「承知しましたレイン様!」
ビベレの体が巨大化していく。
大蛇となったビベレは取り囲む蔦を食い千切り、体内にある亜空間へと呑み込んでいる。
『石化しろ』
レインの声に反応し、ウツボカズラの動きが止まった。
鮮やかな色を無くしていくウツボカズラは、やがて灰色の石に姿を変えた。
「ごしゅじんー!」
蔦が砕けたことで、拘束を逃れたプーパがレインにしがみつく。
「……グォーラの植物だ。近くにある物を無差別に取り込み、栄養に変えていく。まさかこんな所にまで生やしてるとはな」
除去しても切りがない。
次から次へと伸びてくる蔦は、岩陰にいた魔獣を突き刺すと、そのままウツボカズラの中に放り込んでいる。
まるでジャングルかと疑うほど、気づけば辺りは蔦だらけになっていた。
「武器はあるのか」
「大丈夫。それより、どう対処すればいい?」
印が使えない以上、
けれど私には、
昇格試験のため、練習を積んだ場所。
転幽があれもこれもと詰め込んだ空間の他にも、武器のある扉は存在していた。
夜空色の
黒と銀の縁取りが、流れ星のように光を放った。
形は
取り出した