「……スーリアは
「そうおっしゃらずに。私の蟲は優秀ですよ。媚薬の他に、痛覚遮断効果のあるものまで色々と揃えていますから。苦しみを感じず、最高の快楽を楽しむことができます」
なるほど、想像にもモザイク処理が必要な光景だ。
おそらくレインは、実際の惨状を見たことがあるのだろう。
同じ悪魔が吐き気を
「死神は体温がないですから、きっと新しい蟲の育成にも役立つでしょうね」
「相変わらず悪趣味だな」
「なんとまあ。悪趣味だなんて。レインの方が、よほど悪魔らしくない
嫌悪感を露わに吐き捨てたレインへ、スーリアは不思議そうな表情を浮かべている。
「能力よりも見た目の可愛いさを取るなんて、悪魔らしからぬ性質ですよ。それに比べ、私の蟲は能力に適した姿をしています。実に合理的な形ではないでしょうか」
レインが可愛いもの好きだなんて驚き──でもないな。
プーパやビベレだけでなく、レインの城にはファンシーな姿の悪魔が多かった。
むしろ、納得する気持ちの方が大きいかもしれない。
「死神のお嬢さん。もし私の姿が気に入らないなら、性別を変えましょうか? 死神や天使は、好んだ相手と反対の性別を選ぶ傾向にあるようですから」
「反対の性別……?」
「なんとまあ。ご存知ないのですか。宝月が男ばかりなのは、以前の王が女神だったからですよ。反対に、太陽跡は女しかいません」
死神が生前の記憶に基づき、性別を選ぶことは知っていた。
しかし、高位になるほど人間味は薄れていくため、性別への
思えば、出会った月は全員男性の姿をしていた。
太陽跡はどちらも女性。
死界で会った王の側近も、全員女性の姿をしている。
いくら高位の神が性別に拘らないとしても、こんなに揃うことはないはずだ。
そう考えると、スーリアの話は辻褄が合っている。
「申し出はありがたいけど、好みじゃないのでお断りします」
スーリアは綺麗だ。
肉体的な色気というより、内側から滲み出るような魅力がある。
──でも、好みではない。
別に男女どちらの姿であろうと、好みは好みだ。
変わることはない。
つまり、逆もまた然りという訳で──。
「僕は今、お前のことを少しだけ見直した」
レインが賞賛の込もった視線を向けてくる中、スーリアは大して気にした様子もなく、「そうですか」と口にした。
「適当に人間でも誘惑してきます。気が変わった際は、いつでも声をかけてください」
「絶対にないから早く行け」
「なんとまあ。強情ですね」
かけていた眼鏡を下にずらすと、スーリアはレインを見て微笑んだ。
「それではまた」
戦いよりも色事に興味があると聞いていた通り、スーリアが何かを仕掛けてくることはなかった。
スーリアのいた場所を睨みながら、レインは「またなんてない」と溢している。
「はあ、とりあえず進むぞ」
げんなりした様子のレインが、プーパを腕に抱えた。
そのまま乱雑に撫で回すも、プーパは嬉しそうな顔で受け入れている。
「思ってたよりも優しかったね」
「……お前の感性、どうなってるんだ?」
隣から不可解な物を見るような視線が突き刺さる中、魔王のいる城へと再び足を進める。
私が優しいと言ったのは、何も態度についてではない。
スーリアが私に向ける目は、欲こそあれど無機質だった。
けれど、レインの時は違う。
はっきりと色が灯っていたのだ。
もしかすると、大人しく去ったのもレインがいたからでは──?
そんな事を考えているとは露知らず、レインはプーパの頬を何度も横に引っ張っていた。