──私の生まれた星は、滅びる運命にあったらしい。
転幽の言葉を思い返しながら、与えられた部屋のベッドに横たわる。
星空を切り取ったかのような天井を眺め、時間と共に流れていく光を見ていた。
死界の王は、元々滅びる予定だった星を何らかの理由で手にしようとした。
しかし、星の所有者である神と交渉していた最中、突然別の神から妨害を受け、星を奪われてしまう。
結果的に星は救えたが、王はそのまま消息を絶ち、死界の玉座は空白となった。
その後、略奪を仕掛けた神は自らを王と名乗り、現在まで死界を治めている。
これが、転幽から聞いた事のあらましだ。
今の王がそのような行為に走った理由も、本来の王がどうなってしまったのかも分からない。
ただ、何より気になったのは、滅びの運命にある星をどうして欲したのかだ。
転幽は、普通に戦えば王が入れ替わることなどなかったと言った。
つまり、星を諦めれば
わざわざ終わりかけの星一つのために、創造した世界を手放すだろうか。
考えれば考えるほど分からなくなってくる。
ベッドから起き上がり、亜空間から取り出した靴を履く。
着替えいらずの能力は本当に便利だと思う。
子どもの頃は、着物やかっちりとした服を着せられることも多かった。
時間のかかる着付けも、この能力があれば一瞬だったのに。
なんて言いたくなるくらいには、日々の着替えは私にとってそこそこ面倒な部類だった。
リビングに入ると、こちらに気づいた霜月の表情が明るくなる。
今まで一緒に暮らしてきたこともあり、いきなり個々の部屋を与えられたところで、それじゃあ別で暮らそうか──とはならなかったのだ。
「戻ってたなら、呼びにきてくれてもよかったのに」
霜月は、ほとんどの時間を私の傍で過ごしている。
どの部屋でも好きに出入りしていいと伝えていたが、寝室だけは自分から訪れることがなかった。
「睦月が休める場所も、必要だと思うから」
意外な返事に、霜月の目をまじまじと見つめる。
たしかに、死界では一人になることの方が珍しい。
仕事部屋には美火がいるし、何処かへ行く際は霜月と一緒だ。
与えられた空間の中で、宙の見える部屋は私のお気に入りだった。
横になり星を眺めていると、騒がしかった思考が凪いでくる。
でもそれは、より大きな存在が居なかった時の話で──。
「霜月の傍にいる方が安らぐよ」
霜月は一瞬動きを止めた後、ぶわりと頬を染めていく。
真っ赤な顔で言葉に詰まる霜月だったが、濃縮した蜂蜜のような瞳には、私への思いが溢れている。
はにかんだ笑顔は甘さを含み。
まるで、中毒性を孕んでいるかのようだった。
◆ ◆ ◇ ◇
「現世に?」
「そう。調べたいことがあって、一度向こうに戻れないか考えてたんだ」
寝室で横たわる私の上に、見覚えのある花が舞い落ちてきた。
桜色の花弁は触れた瞬間、形を失ったように消えていく。
──会いに来て。
一言だけの手紙には、理由も場所も書いてはいない。
けれど、行けばきっと分かるはず。
そんな確信があった。
かつて、真っ白な死神が口付けた位置に指先を当てる。
朧月に会い、欠けたピースを手に入れなければならない。
たとえこの行動が、新たな厄災を引き寄せるのだとしても──。
◆ ◇ ◆ ◇
暗闇を照らすは証明なり
第四証 Fourth Sacrifice 盤上の支配者
証をここに。