「お帰り〜。遅かったね、常闇」
上司の姿を見るや否や、明鷹は気安い態度で話しかけている。
気配を全く感じない登場に、威吹はお化けでも見たかのような表情だ。
「私の留守中に部下の引き抜きとは。呆れたものです」
「やだな〜。ただの冗談だよ、冗談」
「それにしては、随分と気に入ったようですが」
上司の圧を感じ、明鷹からふざけた雰囲気が抜けていく。
「そりゃちょっとは良いなと思ったよ。でもさ、いくら僕でも、常闇のところから引き抜いたりしない。僕が無謀なことをしない主義だって、知ってるでしょ?」
糸が張り詰めるような空気の中、最初に断ち切ったのは上司の方だった。
「まあ良いでしょう。それで、いつまでここに居るつもりなんです?」
「いやぁ、実はまだ返事待ちでさ〜。僕としても早く連れて行きたいんだけどねぇ」
視線を向けられた威吹が硬まっている。
もし死神でなければ、今頃身体から大量の汗が吹き出していたことだろう。
「……何で、俺なんですか?」
緊張した面持ちの威吹だが、声には落ち着きが感じられた。
明鷹を見据える目は、真っ直ぐ前を向いている。
「そうだねぇ。伸び代があって、センスもいい。育て方次第ではかなり化けそう」
理由を並べ立てていく明鷹の視線が、威吹のものとかち合う。
「何より、君の存在は追い風になる。そう
風を受けて飛び上がる鷹の目には、少し先が見えているのかもしれない。
威吹の本質を見抜く鋭利さには、風格さえも感じられる。
「行きます」
はっきりとした声だった。
「俺、特別警備課に入ります。……いえ、入らせてください」
迷いも、戸惑いも、全てが
ただ前だけを向き続ける威吹の顔には、強い決意が表れている。
「そう来なくっちゃ。これからよろしくね、威吹」
「よろしくお願いします」
挑戦的なようで、それが期待だということも分かっているのだろう。
威吹を見留めた明鷹の目は確かなようだ。
もしかしたら、認められる日もそう遠くないかもしれない。
「じゃ、僕は行くよ。用も済んだし、あまり遅くなると叱られちゃうからさ」
明鷹は威吹を手招くと、出口の方へ向かっていく。
「あ、睦月さん! 頼まれてた服もう少しで仕上がりそうなんで、
「うん。また連絡入れるね」
外出の許可を求めようと上司の方を見るも、口を開くより早く「どうぞ」と返される。
上司の許可も得られたし、霜月については聞くまでもないだろう。
いつだって答えは、分かりきっているのだから──。