君だったんかーい。
警備課に着いてすぐ、上司が言っていた「拾ってきて」の意味を理解した。
「睦月さん!」
案内された部屋に入ると、そこには先客がいた。
私を見るなり明るい表情になった
「威吹くんも来てたんだね。今から聴取?」
「いえ、俺はさっき終わりました。ここで待ってるように言われてたんですけど、睦月さんたちが来るからだったんですね」
おそらく、上司が手を回したのだろう。
現場にいた私が事情聴取に呼ばれるくらいだ。
当事者である威吹が、呼ばれていないはずがない。
威吹は霜月の方にも手を振っているのだが、霜月は相変わらずの塩対応だ。
手を振り返すどころか、視線さえも合っていない。
ただ、そんな霜月の態度も、威吹は全く気にならないようだった。
「すみません、お待たせしました……!」
二人の様子を微笑ましい気持ちで眺めていると、慌てた声と共に、一人の男性が室内へ入ってきた。
「お呼びだてして申し訳ない。どうぞかけてください」
私と霜月を見るなり、男は椅子に座るよう勧めてくる。
ちょうど威吹の隣が空いていたため腰掛けると、そのまた隣に霜月が腰掛けてきた。
他にも座る場所はあるのだが、わざわざ私の隣に座った霜月を見て、男は不思議そうな顔をしている。
「あ、俺は外した方がいいですよね?」
気を遣って席を立とうとする威吹を、警備課の男が引き留めた。
「お二人さえよろしければ、特に部屋を移る必要はありませんよ。当時のお話を伺いたいだけですので」
機密に触れるような話ではないし、あの日のことは威吹の方がよく知っているはずだ。
男の態度からしても、私たちが今回の脱走とは無関係だと分かっているのだろう。
こちらを気にしている威吹に、「このままでいいよ」と返すと、ほっとした様子で座り直していた。
霜月とのアイコンタクトも上達したもので、イエスかノーかくらいの判断であれば、容易くできるようになった。
塩対応の多い霜月だが、威吹にはかなり優しい方だと思う。
近くに寄るのを許すのも、面倒そうだが、決して不快には思っていないところも。
霜月にとって、威吹が他とは違う存在なのだという証拠だ。
私がこっそり笑ったことは、きっと霜月にバレているだろう。
霜月の何とも言えない表情を見て、余計に笑みが溢れてしまった。
「ええと、それではですね……」
男の声に、視線を戻す。
警備課の制服はボタンが多く、首元がかっちりとしている。
男の制服は、そんな首元のボタンが一つずつずれていた。
今回のことで、忙しくしているのかもしれない。
「そちらの方からあらかた事情は聞いているのですが、事実確認のため、当時あったことを教えていただけますか?」
とりあえず、威吹の話と照合するためにも、私目線の話が聞きたいのだろう。
確かあの時は、飛んできた
覚えていることを順番に語っていく。
話すごとに、居た堪れない様子になっていく威吹と、冷たい空気を漂わせている霜月。
警備課の男も、
「そうでしたか……。それは災難でしたね」
話し終わると、男は目に浮かんだ涙を指で
「データベースによると、死神になったばかりのようですね。候補生と違い、スカウトされる死神は初めから実力のある者ばかりです。貴女のような事例は珍しいのに、さらにこんな事にまで巻き込まれるなんて……」
「そんなに珍しいんですか?」
「ええ。普通なら候補生として送られてもいいレベルですよ。死んで早々、知識や力もないまま本業になるなんて……。苦労してるんですね」
いや、そもそも私、死んでないです。
涙
威吹の視線が突き刺さって痛い。
「まあ、そうですね」
死神歴だけで言えば成り立てほやほや。
いわば、生まれたばかりの赤子のようなものだ。
あながち間違いでもないだろう。
「聴取は以上です。お時間を取らせてしまいすみません」
初めから私たちは被害者側だ。
そんなに込み入った話をするつもりも無かったのだろう。
警備課の男は、「もうお帰りになって結構ですよ」と話しながら、出入口のドアを開けてくれた。