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ep.15 死神王の使い


 上司を見る女性の顔には、どう考えても好意的とは言い難い感情が浮かんでいる。


「おや、この件で私が出向く必要はなかったはずですが」


「今回の件でなくとも、王からの呼び出しには応えるべきです。幹部ともあろう者がそんな──」


、をお忘れですよ」


 上司の漆黒が、女性の方へと向けられる。

 闇を詰め込んだかのような瞳に、女性の表情が硬さを増した。


「無礼な……。この死界において、王は絶対的なお方です。まさかそれを、忘れたわけではありませんよね?」


「そうですねぇ。死界と天界における王とは、創造主であり、唯一神を指す言葉ですから」


 女性の顔が忌々しげに歪んでいく。


 今の発言が、何か気に障ったのだろうか。

 むしろ、王を褒めるような言葉にも聞こえたが、女性にとってはそれさえも気に入らなかったようだ。


「とにかく、今すぐ部屋を移ってください。これ以上、王をお待たせすることのないように」


 それだけ言うと、女性はきびすを返して去っていく。

 部屋を出る時、一瞬だけ向けられた女性の視線。


 交差する視線の先で見えたその顔は、隠しきれない憎悪に満ちていた。




 ◆ ◆ ◆ ◆




「あいつ、よくもあんな目で……!」


 女性が出ていったドアを、もの凄い剣幕でにらんでいる美火は、まるで毛が逆立った猫のようだ。

 シャーシャー言わんばかりに怒る美火を見て、何だか気持ちが和んでしまう。


 いつのまにか近くに移動していた霜月は、ぴたりと隣に張り付き、冷たい目で入口の方を見ている。


「仕方ないですね。少し席を外します」


 やれやれと言わんばかりに立ち上がると、上司は美火たちに指示を出していく。


「留守を頼みましたよ、美火。ナツメグは変わらず、今の仕事を続けておくように」


「分かりました」


「……はい」


 ナツメグは先ほどと同じ場所で、静かに佇んでいる。

 あまり話さず、反応もしないナツメグは、女性が入ってきた時も微動だにしなかった。


 あの女性は誰なのか。

 死神のデータベースにアクセスしてもヒットしない。

 おそらく、立場上の制限がかかっているのだろう。


 ──死神王について検索。


 【死神王】

 死界の最高権力者。

 圧倒的な力を持つ神であり、死神にとって絶対的な主でもある。


 人物検索ではなく、辞書ならどうかと試してみたが、書いてあるのは普通のことばかりだ。

 死神王とは、いったいどんな存在なのだろう。


「睦月。警備課へ行った後、もう一度ここに戻って来てください。話しておく事があります」


 上司の言葉に了承を返す。


「霜月、警備課には一緒に行くように。ああそれと、──ついでに拾ってきてください」


「分かった」


 拾うって、いったい何を?

 主語の抜けた会話が成立している不思議。

 首を傾げる私をよそに、上司は霜月の返事を聞くと部屋を出ていった。



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