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ep.14 死局


 死界の中心部は、相変わらず多くの死神が行き交っている。

 色々な空間が繋がっている死界だが、死局のある空間エリアは中心部だけであり、ここだけでもかなりの広さを所有していた。


 空間を渡ったり転移を使うことで、現世でいう世界一周以上の距離を、ほんの僅かなものに縮めているのだ。

 やはり、神の住む世界はスケールが違う。


 そもそも、死界に果てはあるのだろうか。

 空間を繋げば、永遠に広がっていきそうな世界だ。

 どこまでもめぐる世界。

 ふと、上司の言葉がよみがえってくる。


「警備課に向かうの?」


「先に上司のところへ行くつもりだ。事情聴取と言っても、睦月が何かしたわけじゃない。急ぎなら、警備課むこうから来ればいい話だ」


 いや、その通りではあるのだが、これでも私は新人の身。

 そして、霜月もまた新人のはず……なのだ。

 人間社会における立場や権力は、面倒で理不尽なものも多かった。


 もしかしたら死界では、私が思うより新人の待遇が悪くないのかもしれない。

 まあ、万が一何かあっても、上司の陰に隠れておけば大丈夫だろう。


 可愛い部下のためなら、きっと盾くらいにはなってくれるはずだ。

 たぶん。


 死局の前に転移して来たことで、以前はあまり見られなかった外観が目に映り込んでくる。

 見るからに巨大な造りをしているが、中にはその何十倍も広大な敷地が広がっているのだ。


 死神がそうであるように、外見と中身が比例しないのは、死界では普通のことだと言えるのかもしれない。

 あの時は美火とはぐれたことで、最終的には上司に連れられ、死局の内部に直接転移していた。


 ちなみに、内部への転移は位の高い死神が持つ特権らしく、思わず上司をまじまじと見てしまった覚えがある。

 上司からは、「穴が空きそうですねぇ」なんて、揶揄からかい混じりに返されていたが。


 中へ進もうとすると、入口横に立っていた死神がこちらに気づき、視線を向けてきた。

 彼らが着ている服は、前に警備課の死神が着ていたものとよく似ている。


 ローブをまとい、フードを目深に被った私たちを見て、彼らは何も言わず、黙って横にずれてくれた。

 霜月と共に、間を擦り抜けていく。


 死界ではローブを纏っていない死神も多いが、今までその理由を死界にいるからだと思っていた。

 しかし、どうやらそれだけではなかったらしい。


 ローブ纏えるのは、本職の死神だけという決まりがあるのだ。

 つまるところ、私たちがここをすんなり通れたのも、ローブが通行証代わりになっていたからという訳である。


 それにしても、本職の死神か。


 じゃあ、無職もいたりして。




 ◆ ◆ ◇ ◇




「睦月さん!」


 部屋に入るなりキラキラした顔で飛びついて来た美火びびは、先ほどからずっと腕に引っ付いている。

 上司と話す霜月の視線が突き刺さっているが、美火にとっては何処吹どこふく風のようだ。


「……」


「ナツメグも久しぶり」


 無言で立っているナツメグの表情は、ガスマスクに覆われている。

 けれど、漂わせている雰囲気が、以前よりも少し穏やかになったのを感じた。


「ミントは忙しいみたいだね。ナツメグは平気?」


「……ミントは、……重宝されるから」


「そうなんだ。私はナツメグも優秀だって聞いたよ」


「……分野が違う」


 おそらく、分野が違うから、今回はミントほど忙しくないと言いたいのだろう。

 情報管理課の中でも得意とする分野は分かれているだろうし、ミントは情報収集にかなり自信があるようだった。


「ナツメグはどんな分野が得意なの?」


「……僕は──」


 会話を黙って聞いていた美火が、突然何かに反応して顔を上げた。

 いつのまにか霜月と上司の会話も止んでおり、どことなく冷たい空気が部屋に漂い始めていく。


「やはり、まだここに居たんですね」


 入口から綺麗な女性が入ってくる。

 女性は上司の方を見ると、顔をけわしくさせた。


「死神王がお呼びです。すぐに部屋を移ってください」



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