死界の中心部は、相変わらず多くの死神が行き交っている。
色々な空間が繋がっている死界だが、死局のある
空間を渡ったり転移を使うことで、現世でいう世界一周以上の距離を、ほんの僅かなものに縮めているのだ。
やはり、神の住む世界はスケールが違う。
そもそも、死界に果てはあるのだろうか。
空間を繋げば、永遠に広がっていきそうな世界だ。
どこまでも
ふと、上司の言葉が
「警備課に向かうの?」
「先に上司のところへ行くつもりだ。事情聴取と言っても、睦月が何かしたわけじゃない。急ぎなら、
いや、その通りではあるのだが、これでも私は新人の身。
そして、霜月もまた新人のはず……なのだ。
人間社会における立場や権力は、面倒で理不尽なものも多かった。
もしかしたら死界では、私が思うより新人の待遇が悪くないのかもしれない。
まあ、万が一何かあっても、上司の陰に隠れておけば大丈夫だろう。
可愛い部下のためなら、きっと盾くらいにはなってくれるはずだ。
たぶん。
死局の前に転移して来たことで、以前はあまり見られなかった外観が目に映り込んでくる。
見るからに巨大な造りをしているが、中にはその何十倍も広大な敷地が広がっているのだ。
死神がそうであるように、外見と中身が比例しないのは、死界では普通のことだと言えるのかもしれない。
あの時は美火と
ちなみに、内部への転移は位の高い死神が持つ特権らしく、思わず上司をまじまじと見てしまった覚えがある。
上司からは、「穴が空きそうですねぇ」なんて、
中へ進もうとすると、入口横に立っていた死神がこちらに気づき、視線を向けてきた。
彼らが着ている服は、前に警備課の死神が着ていたものとよく似ている。
ローブを
霜月と共に、間を擦り抜けていく。
死界ではローブを纏っていない死神も多いが、今までその理由を死界にいるからだと思っていた。
しかし、どうやらそれだけではなかったらしい。
ローブ纏えるのは、本職の死神だけという決まりがあるのだ。
つまるところ、私たちがここをすんなり通れたのも、ローブが通行証代わりになっていたからという訳である。
それにしても、本職の死神か。
じゃあ、無職もいたりして。
◆ ◆ ◇ ◇
「睦月さん!」
部屋に入るなりキラキラした顔で飛びついて来た
上司と話す霜月の視線が突き刺さっているが、美火にとっては
「……」
「ナツメグも久しぶり」
無言で立っているナツメグの表情は、ガスマスクに覆われている。
けれど、漂わせている雰囲気が、以前よりも少し穏やかになったのを感じた。
「ミントは忙しいみたいだね。ナツメグは平気?」
「……ミントは、……重宝されるから」
「そうなんだ。私はナツメグも優秀だって聞いたよ」
「……分野が違う」
おそらく、分野が違うから、今回はミントほど忙しくないと言いたいのだろう。
情報管理課の中でも得意とする分野は分かれているだろうし、ミントは情報収集にかなり自信があるようだった。
「ナツメグはどんな分野が得意なの?」
「……僕は──」
会話を黙って聞いていた美火が、突然何かに反応して顔を上げた。
いつのまにか霜月と上司の会話も止んでおり、どことなく冷たい空気が部屋に漂い始めていく。
「やはり、まだここに居たんですね」
入口から綺麗な女性が入ってくる。
女性は上司の方を見ると、顔を
「死神王がお呼びです。すぐに部屋を移ってください」