「彼……? それに、月を冠するって……」
「まあまあ、とりあえずここに座って。聞きたいことも多いだろうけど、今はそんなに時間もないんだ」
隣に座るよう花弁の
「少しだけなら質問に答えるよ。もちろん、僕が伝えられる範囲でだけどね」
近くなった目線と距離。
儚い姿は、そのまま桜の中に溶け込んでしまいそうに見えた。
「まずは彼についてだけど、新月とはもう会ってるんだよね?」
「その新月って死神と、会った覚えがなくて」
朧月の顔に驚きが浮かぶ。
「そんなはずは……。いや、僕が眠ってる間に、何か想定外のことが起きたのかも」
思案する朧月だったが、突然私と向かい合うように座り直してくる。
「少し
そう言うや否や、朧月は顔を近づけ、額と額を重ねてきた。
眼前に広がる光景を見ながら、あまりの近さに呆然とするしかない。
死神は顔面偏差値が高水準だ。
そして、その中でも規格外の容姿を持つのが、霜月や上司だったりする。
単に顔が整っているのとは訳が違う二人だが、何故今その話をしたのかと言うと、目の前の死神がまさに
神秘的とも言える造形が、目と鼻の先にあるわけで──。
あまりの眩しさに、思わず目を細めていた。
◆ ◆ ◇ ◇
「ありがとう。だいたい把握できたよ」
朧月の顔が離れ、伏せられていた目がこちらに向けられる。
「どうしたの睦月? 凄く疲れた顔してるけど……」
心配そうな朧月は、原因が自分にあるとは思っていないようだ。
「あ、いきなり
「ああ、うん。それは大丈夫」
初めから距離が近い死神は他にもいたし、今更驚くほどのことでもない。
ただ、少しばかり脳内で戦いがあっただけだ。
誰かの
相手が死神というのも、何か関係していたりするのだろうか。
「常闇って名乗ってるんだね」
突然の言葉に思考が停止する。
私を見る朧月の目は、まるで桜が舞い落ちる時のような揺らめきを放っていた。
「僕の言う『新月』は、君の上司である『常闇』のことだよ。最も、どちらも敬称であり、名前ではないんだけどね」
「敬称が二つあるってこと?」
月という一文字が、やけにはっきりと浮かんでいる。
名前に月が含まれていることも、何か特別な理由があるのだろうか。
「普通は一つだろうね。ただ、今の新月には二つ必要なんだと思う」
「朧月と上司が同じ月を冠するものなら、朧月って名前も敬称になるんだよね?」
「そうなるね。それじゃあ、ここからはもう一つの質問、『月を冠するもの』について答えようか」
表情を緩めた朧月が、空を見上げる。
夕暮れの空に浮かぶ雲と、そこから
「月を冠するものはその名の通り、全員月の名を持っている。僕が朧月で、常闇が新月のようにね」
「本当の名前を名乗ったりはしないの?」
「その問いに対する答えはノーだ。僕たちは、あえて名乗らないようにしているんだよ」
朧月は指で小さくバツを作ると、私の方に向けてきた。
「僕たちの名は、特別な