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ep.6 歩み寄る光と影 ─ Ⅰ / Ⅱ


「今回のこと、本当にごめんなさい」


 テーブルを挟んだ向かい。

 申し訳なさそうに項垂うなだれる律の隣には、朽ち果てた様子の時雨が座っている。


 あの後、連絡を受け帰宅した律が、やっとのことで勝利し息も絶え絶えな時雨の首根っこを引っ掴み、そのまま私たちの元まで訪ねてきた。


 時雨はまるでしかばねのような有様で、律の腕に引きずられるがままになっている。

 とにかく中で話そうと部屋にあげ、私と霜月も席に着いたところで今に至るのだが──。


「時雨くんも反省してるみたいですし、私ももう気にしてないですから」


 何なら仕返しもきっちりしておいた。

 今にも砂になって消えそうな時雨を見る限り、効果は覿面てきめんだったようだ。


「気持ちはありがたいけど、そうもいかないわ」


「他にも問題があるんですか?」


 残念そうに首を振る律に、理由を問いかける。

 当人同士のめ事において、何か頷けない訳があるのだろうか。


「あたしたちの上司はともかく、睦月ちゃんたちの上司が納得するとは思えないのよ」


「私たちの上司、ですか?」


 美火が威吹をまる未遂みすいにした時も、上司はかなりてきと……寛容な対応をしていた。

 今回は霜月もいたし、そこまで問題視しているとも思えないのだが。


 それに、何故ここでお互いの上司が出てくるのかも分からない。


「本職の死神にはそれぞれ上司がついてるんだ。部下同士で争いが起こった場合、正式にとがめるのか、問題にしないのかどうかは、上司の判断によって違ったりもする」


 混乱する私の様子を見て、霜月が助け舟を出してくれた。

 相変わらず頼りになるパートナーだ。


「このまま事を収めるには、お互いの上司の許可が必須なの。けれど、今回のことは完全にこちらの不手際ふてぎわよ。たとえあたしたちの上司が許しても、睦月ちゃんたちの上司が納得しない限りは無理なの」


 上司の許可か。

 確かに、部下同士で問題が起きれば、後から責任を問われるのは上司になる。


「律さんたちの上司は許可してくれたんですか?」


「そうねぇ。向こうの判断に任せると言ってたわ」


「あいつと連絡がついたのか!?」


 急に声を上げた時雨は、さっきまでの様子から一変、律の方に身を乗り出している。


「ちょっと時雨。あんたいい加減しなさいよ」


「……悪い」


 律にいさめられた時雨は、再び俯くと席に戻っていく。

 そんな時雨の様子に、律が小さくため息をついた。


「ごめんなさいね。あたしたちの上司、放浪癖ほうろうへきひどくて。なかなか連絡も返してくれないものだから……」


 放浪癖のある死神。

 色んな意味でパワーワードすぎる。

 律たちの様子を見る限り、これまでも色々と苦労があったのだろう。


「とりあえず、律さんたちの上司は任せるって言ったんですよね。それなら後は──」


 霜月の方に視線を向ける。


「睦月はどうしたい?」


「私?」


 予想外の言葉に、目をまたたかせる。


 今必要なのは上司の意思だ。

 私の意思を問うことと、何か関係があるのだろうか。

 真剣な様子で見守っていた律も、少し困惑こんわくした表情を浮かべている。


「うん。睦月がどうしたいかを教えてほしい」


「私は……許してあげてほしいかな。時雨くんも充分反省してると思うし」


 驚いた顔で目を見開く時雨に、「そうだよね?」と圧をかけておく。

 時雨は一瞬硬直したあと、壊れた人形のようにぶんぶんと頭を何度も振った。



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