真っ暗な世界から抜け出すように手を伸ばす。
遥か遠くで、小さく光る金の輝きが見えた。
星のように
近づくごとにはっきりするそれは、星ではなく、
月は目の前で動きを止めると、中に何かの映像を映し出している。
そこに映っているものを見た時、私は形容し
何故ならそれは、この世界の命運を──大切な──の──から。
◆ ◇ ◇ ◇
窓のカーテンから漏れる日差しで、部屋がぼんやりと照らされている。
いつもと違う布団の感触に、ゆっくりと辺りを見回した。
隣を見ると、ベッドの上は
寝室のドアを開くと、リビングの方から食器の触れ合う音が聞こえてきた。
「おはよう睦月」
パンが焼ける匂いと、
テーブルの上に並んだ朝食に、思わず目を
「おはよう。これ、霜月が作ったの?」
「うん。簡単なものだけど」
さっくりと焼けたパンには
見た目にも完璧な朝食に、じわじわと食欲が増していくのを感じた。
「美味しそう。
「
「律さんが? 後でお礼言いに行かないと。確か律さんもこのアパートに住んでるんだよね」
言い直した霜月を見て、律の名前は触れない方が良いものだと再認識した。
律にとって本来の名前とは、もはやタブーに近いものなのかもしれない。
まあそれはそうとして、家具や家電に留まらず、まさか食材まで用意してくれていたとは。
律の面倒見の良さには驚かされるばかりだ。
「律の部屋は隣のⅠ号室。俺たちの部屋がⅡ号室で、Ⅲ号室は
「それだと
テーブルに座り手を合わせると、まずは珈琲を口に運ぶ。
ほろ苦い味が口全体に広がり、鼻から抜ける香りにほっと息をつく。
「Ⅳ号室に特定の住人は居ない。他の拠点の死神がきた時、使えるように空けてあるんだ。Ⅴ号室のやつに関しては……その内会えると思う」
つまり、Ⅳ号室は空き部屋になっていて、Ⅴ号室に関しては特定の住人が居るということになる。
他の拠点と言うからには、その場所にも人間に紛れて暮らす死神たちが住んでいるのだろう。
以前は、現世に死神がいるなんて思いもしなかった。
いや、家のこともあってか、
ただ、現世で普通に生活しているとは思わなかっただけで。
日々すれ違っていた人の中にも、もしかしたら死神がいたのかもしれない。
事実は小説よりも奇なり。
そんな言葉が頭を
「こっちに座るの?」
昨日と同じように、隣に座った霜月を見て声をかける。
四人はゆうに使える大きさのテーブルだ。
私の向かいも含め、座れる場所には余裕がある。
「ここの方が落ち着くんだ。もし
「いいえ全くちっとも邪魔じゃないです。ぜひ横に座っていてください」
霜月の目が不安そうに揺れるのを見た瞬間、先手を打たねばとばかりに早口で
私にも言葉が足りない部分は多いのだろう。
あまり人と話す方ではなかったし、何故か遠巻きにされることも多かった。
無関心にも近いその感情に、良いも悪いもなかったのだ。
まさかそれが
また落ち込ませてしまったかもしれない。
そんな気持ちで見た霜月の表情は、私が想像していたものと全く違っていた。
「なら良かった」
機嫌良く微笑んだ霜月は、そのまま何食わぬ顔で珈琲を飲んでいる。
もしかして私、
呆気に取られる私を見て、霜月はまるで
「睦月には、そうした方が良いと分かったから」
「なるほど」
霜月の
真のコミュニケーションとは、相手を学び、知ることから始まるのかもしれない。
手に取ったパンをかじりながら、私はそんな事を考えていた。
◆ ◆ ◇ ◇
けたたましく鳴ったチャイムの音に、パソコンから手を離す。
霜月の方を見ると、ちょうど上司と連絡中だったこともあり、かなり不機嫌そうな様子をしていた。
死神は、
そのため、チャット形式のものなどは、まるで会話しているかのようなスピードで進んでいく。
以前、ミントや律と連絡を取っていた時なんかは、まるでグループ通話をしているかのようなスピード感だった。
ちょっと出てくるねと言うように玄関を指さすと、霜月は少し考えるような顔をした後、静かに
このアパートは死神達の拠点であり、異物が近づいたらすぐに分かるようになっている。
霜月が頷いたのを見る限り、おそらくドアの先にいるのはここの住人か、またはその知り合いなのだろう。
「はい、どうしました──」
ドアを開くと同時に、腕をがっしりと
顔を上げた先には、