レトロが漂う服装をした少女は、ゴーグルも相まって、全体的にスチームパンクを彷彿とさせる雰囲気をしている。
上司と呼んでいたこともあり、少女が部下の一人なのは間違いないだろう。
「現世に戻す前に、一度顔合わせをしておこうかと思いまして」
「なるほどねー。てことは、霜月の横にいるのが例の死神ってわけか」
こちらを向いた少女は、私の方へ近寄ると手を差し出してきた。
「あたしはミント。そこにいる上司の部下であり、情報管理課にも所属してる」
「睦月です。情報管理課ってもしかして」
「お、ご明察。今後はあたしらが睦月さんのサポーターになるってわけ。よろしくね!」
ミントは握った手をブンブン振ると、その場から動かないもう一人に向けて声を上げた。
「おーいナツメグ。突っ立ってないで、あんたも早く挨拶しなよ」
ガスマスクを被った死神は、ミントの声に反応してゆっくりと近寄ってくる。
「……ナツメグです。……よろしく」
見た目や声の感じからして、霜月たちよりも少し年上の印象を受けた。
死神の年齢は外見と比例しない場合がほとんどなので、あくまで予想にはなるけれど。
「よろしくお願いします」
「……」
ナツメグに手を差し出すが、どこか困っているような印象を受ける。
手を
「あんた何してんの。それじゃ誤解されるよ?」
「……手袋が」
「だったら聞けばいいでしょ」
ナツメグの煮え切らない態度に、ミントは仕方ないとでも言いたげな顔をしている。
まるで、しっかり者の姉と、どこか頼りない弟のような二人だ。
「あー、睦月さん。ナツメグはちょいと潔癖症でさ。手袋をしたまま握ってもいいか悩んでたみたいなんだ」
確かに、ナツメグの手には手袋がはめられている。
特に気にしてはいなかったが、ナツメグからすれば悩ましい部分があったのだろう。
「そのままで良いですよ」
「……ありがとう」
厚手の手袋に触れるような感覚。
そして、思ったよりも力強く握られた手が印象的だった。
「今後の仕事はあたしらがサポートするからね! 何かあったらいつでも連絡してよ」
歯を見せて笑うミントの姿は、性根の明るさを示しているかのようだ。
ナツメグはどこを見ているか分かりづらいのだが、今は何となくこちらを見ているような気がした。
「ミント、調査の
「あー……それがさ、ちょいと厄介な事になってて」
上司からの問いかけに、ミントは斜め上へ目線を逸らしている。
「まだ分からないなんて、情報管理課という名前は返上した方が良さそうですね」
「そう言わないでよ美火ー。あたしも頑張ってはいるんだよ? ただ、妨害が酷いのなんのって」
「何かと
「おお、言うじゃん上司」
一応ここは死局の内部に当たるのだが、色々と危うい発言が飛び交いまくっている。
とはいえ、上司の管理する
この程度の発言であれば、大丈夫な範囲なのかもしれない。
……たぶん。
「もう現世に戻すの? 霜月も一緒だって聞いたけど」
「急ぎの案件は終わりましたし、本日中には戻す予定でいましたよ」
どうやら、思っていたよりも早く現世に帰れそうだ。
美火の悲しそうな顔には心が痛むけれど、私の家は現世にあるわけで。
仕事も残ったままだし、帰れるなら早めに帰った良いだろう。
というより、帰らないとまずい。
仕事が特殊なだけに、遅れたら厄介なのが分かりきっている。
分家の方ならまだしも、本家の方と関わるのは極力避けたいのだ。
「上司。現世に戻る前に、少し外出許可が欲しい」
「おや、何処へ行くつもりです?」
「威吹の店に行く」
威吹の店と言うことは、約束していたオーダーメイドの服を作りに行くのだろう。
「その程度であれば構いませんよ。戻る際には連絡を入れておいてください」
「分かった」
上司との会話を終えた霜月が、私の手を引いて入口の方に向かっていく。
「わぁお。やっぱ情報通りじゃん、ナツメグ」
「……」
背後からミントの驚いた声が聞こえてくる。
振り返ると、こちらに気づいたミントが大きく手を振ってきた。
「またねー!」
「……」
笑顔で手を振るミントと、小さく会釈したナツメグの姿は、閉まる扉の向こうに消えていった。