「おや、思ったより早かったですね」
見知った声が聞こえ、目を瞬かせた。
周りには見覚えのある光景が広がっている。
どうやら、常闇の所有する
微笑む閻魔に手を取られ、ぼんぼりに乗せられた所までは覚えているのだが。
またおいでと笑う閻魔の雰囲気は、どこか
ふと、手首に違和感を感じ視線を向ける。
「いつの間に……」
綺麗なブレスレットだ。
まるで魂の
真ん中にはぼんぼりを
「閻魔からの贈り物ですか」
いつのまにか傍に立っていた上司は、腕につけられたブレスレットを見て興味深そうな顔をした。
「かなり貴重な物を貰ったようですね。そのまま身につけておくと良いですよ。役に立つ日が来るかもしれません」
「そうしておきます」
この上司がここまで言うからには、相当な代物だろう。
袖を口元に当て、柔らかく笑う閻魔の姿が思い起こされ、ブレスレットの縁をなぞった。
閻魔の待つ何かが、早く訪れればいいのに。
そう願わずにはいられなかった。
◆ ◇ ◇ ◇
「閻魔とは話せましたか?」
「まあ、それなりに」
「そこそこ話せた気はするけど、自信はないと言ったところですね」
なぜお分かりに。
まさにそんな意味を内包していたわけではあるが、こうも正確に読み取られてしまうと驚きが大きい。
霜月といい上司といい、死神は人の心を読むのに
それとも──。
「そういえば、そのピアス、いつも片方だけ付けてますよね」
上司の右耳で揺れるピアスは、銀の細工の中に紅い宝石が埋め込まれている。
閻魔がくれたブレスレットのように、上司のピアスからもどこか特別なものを感じた。
「元々一つしかないんですよ」
「そうなんですね。贈り物とかですか?」
いつも
「ええ、そうですよ」
たった一言だけなのに、そこに込められた感情は、形容し難いほど重く深い。
きっと贈り主は、上司にとってとても大切な存在なのだろう。
「上司!」
部屋に誰かが駆け込んでくる。
「あ、美火」
「睦月さん!?」
私に気づいた美火が、慌てた様子で叫ぶ。
「美火。共用エリアとは言え、確認は必須です。
「はい……申し訳ありません」
上司からの苦言をきちんと受け入れる美火を見て、そこはやはり上司と部下なんだなと納得する。
いくら普段がああでも、時と場合によってはそれなりの対応をしているみたいだ。
霜月も大人しく聞き入れていたくらいだし、上司と部下という関係性は、案外しっかりと成立しているのかもしれない。
「その、実は──」
「上司」
美火が事情を話す前に、また一人部屋に入ってきた。
足早にやってきた霜月に向けて、ゆるく手を振ってみる。
「睦月?」
同じような反応を見せる霜月に、思わず笑いが込み上げてくる。
上司に至っては完全に呆れた表情で、ため息でも
霜月も美火も、どうやら私がここに居ることを知らなかったらしい。
まあそれもそうだろう。
私もさっき到着したばかりだし、まさかここに直接送ってもらえるとは思っていなかった。
閻魔は、「帰りは私が送るから心配しなくていいよ」と言ってくれていたが、そもそも選別所に行くには決められた道を通る必要がある。
だから帰りも、てっきり扉の前とかに送ってもらえるものだと思っていたのだ。
しかし、まさかの直通輸送便だったわけで。
行きと帰りでは、方法が異なっていたりするのだろうか。
そんな事を考えていると、霜月が傍に寄って来るのが見えた。
「睦月。一緒に行けなくてごめん」
「届けものをしただけだから、平気だよ」
しょんぼりとした霜月の頭を撫でていると、背後で美火の怒りをはらんだ声が聞こえてくる。
「情報管理課の対応はおかしいです! どう考えても故意としか思えないのに、原因の究明にこれほど時間がかかりますか? 情報を司る機関が聞いて呆れます」
どうやらこれは、私にも関係している話のようだ。
霜月の顔から温度が消え失せる。
緊張感の漂い始めた室内に、誰かの声が響いた。
「失礼しまーす」
「……失礼します」
頭にパンクゴーグルをつけた少女と、顔全体をガスマスクで覆った──おそらく男だろうか。
二人の死神が、室内へと入って来る。
快活そうな少女は、部屋の中央までくると手を上げた。
「やっほー。あたしらをお呼びかい上司」