またね〜と手を振る紬と別れ、美火について歩いていく。
道すがら周りを見渡していたのだが、
さっきまで西洋感があったと思えば、和の
色々な造りを一箇所に
要所要所に空間の
例えば宮殿のような造りの場所を歩いていたと思えば、次の瞬間には日本庭園のような場所に立っている。
途中で他の死神を見かけることもあったが、驚く様子の死神はおらず、各空間で馴染むように過ごしていた。
ここが死神たちの住む世界──死界なのだろうか。
「あの、美火さん。質問してもいいですか?」
「美火でいいです。話し方もいつも通りでかまいません」
食い気味に返されて驚く。
気遣ってもらえるのはありがたいし、ここは素直に受け取っておこうと思う。
「じゃあお言葉に甘えるね。ありがとう、美火」
お礼を言うと、美火はこちらを向いて照れたような顔をしたあと、小さく頷いた。
うん、可愛い。
頭の中で満点の札が上がっている。
「美火は上司に言われて、私のことを迎えに来たんだよね?」
「そうです」
「美火の上司ってどんな死神なの?」
美火はこちらを向くと、不可解な顔をした。
「上司は、
「……ん?」
いま、私たちって言った?
混乱する私をよそに、美火は目の前にある境目の前で立ち止まると、真剣な表情で口を開いた。
「ここから先は、死局のある中心部の
とりあえず、離れなければいいんだなと思い頷く。
美火は僅かに不安そうな様子を見せた後、死局のあるエリアへと入っていった。
心配しなくても、離れたりしないのに。
◆ ◆ ◇ ◇
美火を探して三千里。
離れました、見事に。
離れたというか、はぐれたというか。
少し前の私よ、美火の言うことはちゃんと聞いておいた方がいいと思います。
美火の後に続き中心部の
ラフな服装の死神よりも、少しかっちりとした服装の死神が多くなっていく。
現世ではないからか、ローブをしていない死神も多く見られた。
そういえば、霜月とオーダーメイドの服について話していた覚えがある。
──霜月は今、どこにいるのだろうか。
そんなことを考えながら歩いていたら、いつのまにか美火が居なくなってました。
周りを見渡せど、視界に入るのは通りを行き交う死神と、少し離れたところに見える大きな建造物だけだ。
おそらく、あれが死局なのだろう。
美火が、「死局の近くまで来たら転移を使いましょう」と言っていたが、その美火とはぐれてしまった訳で。
色々と詰んでいる。
紬は死局に勤める死神で、治療も死局内で行なっているらしい。
本来であれば移動する手間はなかったのだが、緊急のため家で休んでいた紬のもとへ駆け込み、今すぐ治療するよう要求したのはこちらだ。
知らなかったとは言え、敷地内にある医療空間を閉じながら、「今日からまた出勤だ〜」と呟いていた紬の顔を思い出すと、罪悪感がもの凄く
話が脱線したが、紬の家から死局へ向かうには、死局内に転移できる場所まで行く必要があったということだ。
そしてそこまでもう少しという段階で、私が美火とはぐれてしまった──という訳で。
あまり動きすぎてもすれ違ってしまう可能性がある。
見つかりやすいように、なるべく動かない方が良いだろうか。
なんてことを考えながら、同じ場所をとぼとぼ歩いていると、誰かの叫び声が聞こえてきた。
「お姉さん
「え」
鈍い音が響く。
おでこに硬いものが当たり、衝撃で尻餅をついた。
ぶつかった所に手を当てると、液体がペチャリと付着する音が聞こえる。
心の中で、紬に向けて反省の意を述べておく。
手についた赤は赤黒く変色すると、黒い霧になって消えてしまった。
死神の血液──と言っていいのかは分からないが、どうやら時間が経つと変色して、最終的には消えてしまうようだ。
人間とは違う仕組みに感心しながら座り込んでいると、誰かがこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「お姉さん大丈夫!? ってやば! 怪我してんじゃん!」
赤い髪をした少年は、私の頭から流れる血に気がつくと、ぎょっとした表情を浮かべた。
「ほんとごめん。痛かったよな」
少年は目線を合わせるように屈むと、おでこの怪我を覗き込み、申し訳なさそうに眉を下げている。
「痛みは意外と平気。それより、どうして──」
「テメェ
あまりの怒号に、周りの死神も足を止めるほどだった。
大声を上げた男は、こちらに向かって足音を立てながら近づいて来る。
「別に逃げたんじゃねぇっての。ったく、面倒なことになっちまった」
威吹と呼ばれた少年は、頭をくしゃりとかき混ぜると、私の方を向いて手を合わせた。
「ごめんお姉さん! ちょっとだけ待っててくれない? あっち片付けたらすぐ戻るからさ」
「それは大丈夫だけど……」
「ごめんな! すぐ終わらせるから!」
そう言うと、威吹は自ら男の方に向かって駆けていく。
ピリピリとした空気が強まった。
威吹も決して貧相ではないのだが、ガタイの良い男の前に立つと、体格差がよく分かる。
男は今にも掴みかかりそうな勢いで、威吹に対して怒鳴り声をあげた。