「さっきまでの威勢はどうしたんです? 随分と楽しそうにしていたではありませんか」
体を震わせ、何も言わずただ黙っているだけの悪魔に、常闇はひどく残念そうなため息をついた。
「困るんですよねぇ。生まれたばかりの
たかが虫という言葉には、さすがに悪魔も黙っていられなかったらしい。
悔しげに顔を歪めたものの、何とか取り
「な、何か誤解をされているようですね。僕はただ、そちらのお嬢さんが僕の
「誤解、ねぇ」
そう言いながら睦月の方を見た常闇は、再び悪魔へと底冷えしそうな視線を向けた。
「これが誤解で済むとでも?」
ぐったりしたままの睦月は、腕に抱えていなければ生きているかどうかも疑わしい有様をしている。
常闇の冷たく静かな怒りを感じ、悪魔は本能的に身震いした。
圧倒的な実力差。
身の危険を感じた悪魔が保身へと走ったのも、当然と言えば当然だったかもしれない。
「初めから……そう、初めから素直に渡していれば! 彼女が拒否しなければこんな事には……! それに、元はと言えば僕の
体のバランスが大きく崩れ、立っていられなくなる。
よろけた体を支えようと
「な、なにが……」
上半身を起こしつつ、足の方を振り返る。
本来なら左足があるはずの場所には、何故か地面が広がっていた。
太腿から下がごっそりと消え去った左足は、もはや
「僕の足がぁぁぁ!」
気づいたと同時に半狂乱になる悪魔を見下ろしながら、常闇は
「みっともないですねぇ、そんなに慌てて。そのくらいで死にはしませんよ」
「ふざけるなぁ! 今すぐ元に戻せ!」
常闇へと叫ぶ悪魔は、怒りで恐怖心を失っているようだ。
悪魔の前に降り立った常闇は、
「先ほどよりも活きが良いですね。やはり、玩具にするならこのくらいでないと。ですが──あまりに
右足に違和感を覚え、動きを止める。
左足と同じように、綺麗に消え去った右足の残骸。
切断面から下はどこにも見当たらない。
何かをした動作さえ見えなかった。
気づいた時には手足がなくなっている。
そんな状況に、悪魔は自身が目にしている存在への恐怖を徐々に取り戻していく。
自分はこれでも上位の悪魔なのだ。
このくらいの負傷であれば直ぐに治せるはず。
そう考えながらも、悪魔は一向に手足を修復することができないでいる。
現世とは異なり、三界の存在に死という概念があるかと問われれば難しい話だ。
しかし、悪魔は今──確かにその身で死というものを近くに感じていた。
「残りは左手だけですか。どうせなら、左手も他と同じように
今日の天気でも伝えるかのような軽い口調で、常闇は悪魔へと話しかけている。
逃げることすら不可能。
絶体絶命の状況に追い込まれた悪魔は、絶望の味を初めて知った。
たとえ現世で滅びようとも、悪魔は
しかし、相手が死神や天使なら話は別だ。
彼らは時として、自分たちを「消滅させる」ことすら出来てしまう存在。
そして今、目の前にいる死神は間違いなく