名前を、つける……?
そもそも、死神の名前を
「そういうのは上司が付けたりしないんですか? そもそも、名前ってかなり大切なものですよね」
「多いのはそういったパターンですよ。時間が押してますが、こればかりは仕方ありませんね。簡単に説明だけしましょうか」
上司が聞かせてくれた話をまとめるとこうだ。
そもそも名前には、「
真名とは生物の核、人間で言う魂に結びつくもののことで、真名を知られることは存在を
決して知られてはならないが、真名に関しては知ろうとして知れるものでもなく、たとえ本人であってもほとんどの存在は自身の真名を知ることなくその存在を終えていく──とのことだった。
対して呼び名とは、
呼び名とはいえ、名前である以上はそれなりの効力を持っており、特定の姿形を持つものは呼び名を持つことが決まりになっている。
死神になる存在は、新たに死神としての形や身分を得るため、改めて呼び名を付ける必要がある。
ということらしいのだが──。
「それだと、私も死神としての呼び名が必要になりませんか?」
「良い質問ですね。貴女は死神としての身分を得ますが、人間としての身分を捨てるわけではありません。ですので、別途呼び名が必要ということはありませんよ」
「人間としての身分を捨てない……?」
「現世では、
なかなか
正直、人間として過ごせるのはこちらとしても助かる話だ。
「死神になるためには候補生として始めるか、スカウトされるかの二通りがあります。ここら辺の仕組みに関しては、後から彼にでも聞いてください」
候補生とかスカウトとか。
死神の世界にもここと同じような仕組みがあるんだと思うと、何だか不思議な感じがしてくる。
「新人の死神は初め、グループで行動することになっています。そして、最初の仕事を成功させた際、上司や指導者、彼らをよく知る者たちから呼び名を受け取ることができるのですが──」
そこまで話すと、上司はくるりと少年の方を振り向いた。
「彼はその最初の仕事で、他の死神の
それは……そもそも私がパートナーで大丈夫なのだろうか。
思ってた以上に優秀の重みが凄い。
「それなのに何故、私がつける流れになったんでしょうか?」
「それはもちろん、彼が望んだからですよ」
思わず少年の方を振り向いた。
当然のように視線と視線がぶつかり合い、絡まっていく。
こちらを真っ直ぐ見つめる少年の目には、私しか映っていない。
戸惑いが消え失せ、心が凪ぐのを感じた。
不意に、瞳の中の私とわたしの目が合う。
「君の好きな季節はいつ?」
自然と、そんな質問を口にしていた。
確かめたかったのかも知れない。
滑り落ちるように出ていったその質問の答えを、私は既に知っているのだから。
「俺の、好きな季節は……」
君の、好きな季節は……。
「「冬」」
重なった声に、彼の目が見開かれていく。
驚いた表情でこちらを見つめる彼の瞳は、
そう、そうだった。
私は知ってたんだ。
だってその季節は───。
「それで、良い名前は浮かんだんですか?」
スコンっとした音と同時に、頭に軽い衝撃が走った。
絡まっていたモノが
「……セクハラの次はパワハラですか」
「貴女の
どうやら、落とされたのは上司の手刀だったらしい。
上司め……。
そもそも、大切な名前を付けるというのに、急かすのは理不尽じゃないだろうか。
「君の名前だけど……
「霜月……」
少年は確かめるように、名前を口の中で転がしている。
「霜が降る月って意味なんだけど、11月を表す月でもあってね。旧暦の11月は、ちょうど1月にかかる真冬の時期だから。冬が好きなのにも重なるし……どうかなって」
説明してて、だんだん恥ずかしくなってきた。
少し早口になっているのが、自分がいつになく緊張していることを教えているようで、余計に意識してしまう。
「むつきの名前と似てる」
核心を突く言葉に、心臓がドクリと大きな鼓動を鳴らす。
「それは……私の名前が1月を表す月で、同じ月名からとったものだから」
もしかして、気に入らなかっただろうか。
そう思い、ゆっくりと少年の方へ視線を戻してみた。
見えたのは、一面に広がる黒だった。
衝撃と共に、彼の腕が背中に回り込む。
包み込む様に抱きしめられた身体に、回された腕が力強く絡んだ。
「嬉しい……。ありがとう、睦月」
霜月の声は少し震えていた。
密度いっぱいに押し込まれた嬉しいや、
胸から込み上げてくる何かを押さえ込むように、唇を強く引き結んだ。
三つの音が流れるように鼓膜へと響いて、