第一話 - 蛇は目覚める
雨季の終わりを告げる風が、洛陽の宮殿を吹き抜けていった。賈南風は、母・郭槐から受け継いだ青銅の鏡を手に取り、自らの姿を見つめた。十六の春を迎えたばかりの顔には、すでに計算高い影が宿っていた。
「お前には、私以上の才がある」
母の言葉が耳に響く。
「だが、才のみでは生きられぬ。権力こそが、生きる術よ……ふふふふ」
南風は鏡を置き、窓から見える宮廷の庭を眺めた。そこには、楊皇后に仕える侍女たちが行き交っていた。皇后の威光は絶大だが、その根は意外なほど脆い。南風は薄く笑みを浮かべた。
「母上、私にはもっと大きな野望があるのよ……」
彼女は囁くように言った。
「この宮廷を、私の意のままにしてみせます」