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ep.11 - 2 "幻贖の力"と海の民

「――では、ペオ。今度は我々からのプレゼントといこうか」

「――プレゼント? まだあるの?」

「あぁ。たった一度きりだからね。見逃さないでおくれ」

「――わかった!」


 ヌプトスが指を鳴らすや否や、海中の生物たちは一斉に呼応した。無数の光が放たれ、自然が織り成す宴が幕を開けた。海中が光彩と色彩で艶やかに彩られていく。


「うわぁぁぁぁ!――シェルト! ねぇ、シェルト見て!」


 アイガが腕を広げると、周囲の発光したクラゲたちが優雅に舞い始めた。クラゲの体から放たれる蒼白い光が、水中を柔らかく照らし、幻想的な光景を作り出していく。クラゲたちはペオの前に集まり、光の道を編み上げ、回廊のようにペオを誘導していく。


「さぁ――ペオ、シェルトおいで!」

「すごい! 道になった!――シェルト、行こう!」


 ペオとシェルトが回廊を進むと、パニーとロロが発光する魚たちと共に待っていた。輝きを放ちながら、舞踊のように泳ぎ、その動きに合わせて次々と変化していく。彼らの軌跡が海中に美しい花火を描き出し、夢幻の世界となった。


「うわぁぁぁぁ!――パニーもロロもすごいや!」


 ペオとシェルトがその光景に見惚れていると、忽然としてロディが現れた。ロディは優雅に身をひるがえしつつ、ペオたちの周囲を旋回し始めた。次第に迅速さを増していき、水の渦が形成され、ついには周囲の様子が消え去った。


「――ロディ?」

「ペオ!!――手を取って!」


 水の壁から再びロディが現れ、手を差し伸べた。ペオがその手を握ると、ロディは力強く引き寄せ、二人は水流に乗って勢いよく進んでいった。


「――って、ぎゃー! 待って待って!早い早い!怖い怖い!」

「あ、ごめん――速度落とす?――どう? まだ怖い?」

「だ、大丈夫――ほんとは、こ、怖くないもん」


 視界が馴染むとともに、先ほど見逃していた鮮やかな光彩が、海の中で螺旋を描きながら広がっているのが明瞭となった。蒼の世界は、光の虹に彩られた華麗な景観に変じていた。


「うわぁぁぁぁ!――すごいね!」

「さっきからずーっと叫んでるよ――ま、お気に召したようでなにより」

「だって、ほんとに、すごいんだもん」

「まぁね。言葉が見つからないよね――ほんとにさ」


 光と色の交響が織り成す海中のショーは、一層幽玄なものへと変じていた。光の筋が交錯し、織り成す模様が次第に複雑さを帯びていった。


「――ロディは、早くても怖くないの?」

「僕? 僕はもっと早くても全然平気」

「すごいや! 僕ももっと大きくなったら、ロディよりも早く泳げるようになるかな?」

「――ペオが今よりもっと早く泳げるようになってるってことは、僕も、もっともーっと早く泳げるようになってるからね」

「――いじわるだ。僕今日誕生日なのに」

「でた、誕生日カード。ずるいぞ」


 光は水面を超え、夜空へと伸びていった。単なる美麗さにとどまらず、海中のすべての生命が一体となり、その調和が創り出した奇跡の瞬間であった。


「――なぁ、ペオ。もっと広くて、もっと自由で。それでいてもーっと楽しい世界にするんだろ?ここを」

「え!――あ、さっきのは――えっと――その」

「すっごくいいじゃん! 僕も協力するよ!」

「――へ? ロディが?」

「そ。僕が。頼りになるだろ? ペオに先越されちゃったけどさ。俺もずっと思ってたんだ――だから、これからさ。一緒に考えていこうな」



---



「終わったみたいだな」

「――ね。特に問題なさそうでよかった」


 氷上の舞台から見守っていた者たちは、海中で展開される光の演舞を目の当たりにし、儀式が無事に終わったことを悟った。


「あーあ、俺も見てみたかったなー」

「――ねー! 今日だけは、海の民になりたいよね」

「わかるー」

「全部の民になりたくない?」

「めっちゃ贅沢じゃん」

「でも、わかるー」

「――あ! ねぇ、ねぇ、もう一度、踊らない?海がすっごく綺麗だし!」

「お、いいな」

「オーラー!なんか歌える?」

「歌う―! 何がいい?」

「海っぽい曲で!」

「えー何それ!――んーじゃぁ、あ!!あの曲!」


 華麗なる光景を背景に、幕が降りるまで、氷上で本日二度目の宴が開始された。



---



「あ!帰ってきた!――って、ぎゃゃゃゃゃゃゃゃ」

「――きゃぁぁぁぁ!!」

「――うわぁぁぁぁ!!」


 海面が再び静寂を取り戻し、光の余韻が幽かに漂う中、ペオとシェルトが突如勢いよく海面に姿を現した。巨大な水飛沫が弧を描いて舞い上がり、祝福のシャワーとなって降り注がれた。氷上の者たちは歓声と悲鳴を上げ、大騒ぎとなり、先ほどまでの余韻は一瞬にして掻き消えた。


「ペオ! どうだった!?」

「――あのね! 僕、僕!」


 ペオの嬉しげな表情を垣間見た瞬間、皆一斉に儀式が滞りなく遂行されたことを察知した。海の民は、ヌプトス、アイガ、エムスタ、パニー、ロロ、ロディ、そして、本日正式に"幻贖の力"を手にしたペオ。彼への祝福は、もうしばらくの間、続くこととなった。

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