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1.新月の翌日の太陽が沈むまでの間に
(
2.太陽が沈んだ新月の夜に
3.
4.
5.手順1に戻る
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新しい朝が、カーテンを引く。波が岸を撫でては戻り、空の色と光が水面に揺れながら映り込んでいた。朝の光が部屋へと滑り込み、おはようと告げると、波音を伴奏に海鳥が唄った。
「ニミー、おはよう!」
「おはよう――ニミー」
「エル、ニウス、二人ともおっはよーう!」
草木は露をまとい、朝の光で眩しそうに目を覚ます。しずくが葉先から滑り落ち、大地へと吸い込まれていく。エルを先頭に、まだ夢の余韻を引きずるニウスが後ろを歩き、ニミーはその隣を軽やかなステップでついていく。
「ねぇねぇ、ねぇねぇ、聞いて聞いて!」
「どうしたの?」
「前よりね、もっーと大きくてね、ふわっふわにね、作れるようになったの! ふわっふわの、もっこもこだよ! すっごーく、上手くなったんだから!」
「ほんと? 早くみたいなぁ。楽しみ!」
「ぼくも――たのしみ――」
「いくよー! ちゃーんと、見ててね!」
畑に着くと、ニミーは足を止め、空に向かって掌を広げた。すると指先からじわりと白い靄が立ち上がる。ふんわりと揺れる靄は少しずつ密度を増しながら空気をまとい、掌の上で渦を巻き始めた。彼女が意識を集中させると、靄は呼応しゆっくりと凝縮し、その輪郭が次第に明確になっていく。
ゆらゆらと膨らむ靄が整うと、そこには小さな白雲が生まれていた。浮かび上がった雲はふわりと宙に浮き、ニミーの掌からするりと離れ、目の高さほどの位置に漂う。以前よりも一回り大きな雲がふわふわと漂い、ニミーは満足そうな顔を浮かべた。同じ手順で次々と雲を作り出し、彼女の周囲は雲たちで賑やかになっていく。目をこすっていたニウスも、すっかり目が覚めたようにその光景に見入っていた。
「どーだ! すごいでしょ!」
「ほんとだ!前より大きい! さすが、ニミー!」
「すごい、すごい、すごいよ!」
「でしょー! いっぱい練習したんだもんね!」
「すごいなー!かっこいいなー!――僕もやりたいなぁ」
「ニウスは飛ぶんでしょー。雲は私の専門よ!」
「――ぼく、まだ飛べないもん」
幾つもの雲を次々と浮かばせた後、ニミーは
エルとニウスも、それぞれ準備を整えていた。エルは雲の前で目を閉じ集中すると、手のひらに風が集まり、渦を巻くように雲を持ち上げ、空中へと送り出していく。足元でも小さな風のうねりが巻き起こり、彼の体もわずかに宙へ持ち上がる。不安定ながらも、体勢を崩さないよう懸命に両腕でバランスを取る姿は、気迫に満ちていた。
「じゃぁ、僕は、――うわっ。真ん中に行ってくるねっ――っちょ、あれっ」
「――わかった。僕は、また端っこかぁ」
「拗ねっないっでよっ――おっとっ。終わったら、一緒に練習しようよっと」
「――また飛べないかもしれない」
「やってみなきゃわかんっ――ないっだろっ。水やり終わったら――れ、練習するよ! じゃ、行ってっくるー」
「――行ってらっしゃい」
「ほんとに、気を付けてね―!」
エルと小さな雲の群れが、畑の中心へと吸い寄せられ進んでいく。エルが腕を大きく広げ、円を描くように動かすと、雲たちは一斉に応え収束を始めた。それぞれが間合いを詰め、ついには一つの大きな塊へと融け合っていく。
エルの仕草に合わせて、その雲は畑の上空でふわりと漂い、しっとりとした雨を畑に撒き始めた。雨粒は光を纏いながら降り注ぎ、土はその輝きを飲み込んでいく。
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一方、畑の端で、ニウスとニミーは如雨露を手にしたまま黙々と作業を続けていた。ふと、ニウスの視線がエルへと吸い寄せられる。あの姿に、憧れと苛立ちが混じり合い、瞳の奥に陰りが滲む。
少し経ってようやく自分に戻り、手元に意識を戻すが、気づけば水は一部分にばかり注がれ、畑の一角がしっとりと濡れていた。慌てて如雨露を持ち直したものの、軽くなった如雨露とは対照的に、彼の心にはずしりと重みが増していくのだった。
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雨を降らせ終えた雲がすっと形を失い、エルは風を収めて地上に戻ってきた。彼は畑全体を見渡して満足そうに頷く。
「終わったー!」
「エル―! こっちも終わったよー!」
作業の完了を祝い、三人は畑に向かって祈りを込めて、揃って大声を上げた。
「心を込めて、せーのっ」
「「「元気に育つんだよー!」」」
「「「いつも、ありがとうー!」」」