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第11話 とうとう潜入だ!

 はじめが、5歳児にしては尋常じゃないスピードで駆けていく。


 町を物凄いスピードで走り抜ける幼児に、周りの人たちは驚いて道を開けていった。

 はじめが作ってくれたその道を、俺達は駆け抜けていく。


 もう俺は、こいつらの偉人変人の世界に入り込み、抜け出せないところまで来てしまった。

 自分が自分で恐ろしい。


 だが俺の探偵の血が騒ぎ、そんな状況もどこか楽しんでいる自分がいることも自覚していた。


 次々に角を曲がりながら迷うことなく走り続けるはじめ。

 たまに立ち止り、匂いを探る様子を見せてはまた走り出す。それを繰り返していき、とある店の前で立ち止まった。


 そこには、店が潰れた跡と思われる、小さな廃墟があった。


 鍵はかかっていないようなので、建物の中へ入っていく。

 どこか古めかしい扉を開けると、ギギギっと気味の悪い音を立てる。


 出入り口付近から、細長いカウンターが奥へと続いていた。カウンターの前には椅子が整列し並んでいる。

 何かの食べ物屋だったのだろうか。


 はじめが奥へと歩み始めると、俺達もあとについていく。


「ここ、この上から匂いがする」


 部屋の奥には休憩室があり、その休憩室の一番奥には梯子はしごが立てかけてあった。


 奥の天井てんじょうを指差すはじめ。


 どうやら天井の一部をくりぬき、そこから誰かが屋根裏へ出入りしていたようだ。

 天井に隙間ができている個所がある。


 梯子を移動させ、天井の隙間に梯子の先を入れ板をずらす。

 しっかりと固定させてから、慎重に登っていく。


 そっと天井を押し上げ、暗闇の中へ顔を覗かせた。


 屋根裏は、真っ暗で何も見えない。

 懐中電灯代わりにスマホのライトを照らしてみる。


 ざっと辺りを見渡してみるが、真っ暗な空間が広がっているだけだった。


「俺が行く。何かあれば合図するから、おまえたちは登ってこなくていい」


 俺がそう言うと、梯子の下で待機する皆は素直に頷いた。


 屋根裏部屋へと足を踏み入れる。

 ほこりが舞い、少しだけ咳き込んだ。


 辺りを見渡すと、近くの壁にスイッチがあったので押してみる。すると灯りがついた。


 ほんのりと室内を照らす薄明りだったが、この屋根裏を照らすには充分だ。


 部屋を見渡すが、特に何もない。

 埃と蜘蛛くもの巣しか見えない、殺風景な部屋だった。


 もしかしてここに沙羅が閉じ込められているのかもしれないと思ったが、見当けんとう外れだったか。


 俺がふっと一息ついた、そのとき、


「ここ」


 ふと気づくと、すぐ側にはじめがいた。


「お、おい。勝手に何してるっ」


 いつの間に登ってきたんだ? こいつ?


 俺が戸惑っていると、はじめが床の隙間を指差す。

 そこには極わずかに白いものが見えていた。


「なんだ?」


 目を凝らし見つめると、それは紙のようだった。

 取ろうとするが、奥の方へ入り込みなかなか取れない。


「これを使え」


 急に暗闇から姿を現した佐々木が、先ほど鍵開けに使った針金を渡してきた。


 こいつら……人の言うこと聞いてないだろ?

 いいって言ってないのに、なんで次から次に勝手に上ってくるんだよ。


 俺は大きなため息を吐いたあと、針金を受け取る。


 なんとか紙を取り出すことに成功。

 小さく折りたたんだメモ用紙みたいなものだった。


 それを開いて中身を確認する。


 そこには、小さな文字で工場の名前が記されていた。


 これは沙羅からのメッセージなのかもしれない、と思った俺は、急いでその工場をスマホで調べる。


 しかし、その名前の工場が見つからない。もしかして、もう潰れてしまった廃工場なのかもしれない。


 どうやって場所を調べようかと考えていたその時、はじめの能力が頭をよぎった。


 はじめを見つめると、はじめはという顔で目を輝かせている。

 さすが、あの桐生が作っただけのことはある。あいつそっくりだ。


 はじめに紙の匂いを嗅がせる。


「オッケー、ついてきて」


 そう言うと、はじめは梯子はしごを下りていく。

 俺も梯子を下りて皆に合流した。


「はじめの後を追うぞ」


 俺が走りだすと、三人は何の説明も受けてないのに、張り切ってあとをついてくる。


 こういうノリの良いところが、こういうときは楽でいい、と思う都合のいい俺だった。





 はじめが辿り着いた先は、やはり廃工場だった。


 もう長いこと稼働されていない様子のその工場の中に、動かない機械がたくさん羅列しているのが覗える。


 俺は辺りを見回し警戒するが、人の気配は感じられなかった。


「よし、工場の中へ侵入するか」


 俺が先頭切って進もうとしたそのとき、


「まて」


 佐々木が皆を止めた。


「どうした?」

「あれ」


 佐々木の視線の先には人影があった。

 遠かったし、暗くてよく見えなかったので見過ごしてしまっていたようだ。


 佐々木の奴、すごいな。

 やはりこいつはただ者ではない……のだろうか。


 影は動き、工場の中へと移動してく。


「ああ! 行っちゃうよ」


 桐生が走り出した。


「ま、まてっ」


 止めようとしたが、あの暴君ぼうくんは誰にも止められない。

 もう既に、手の届かない場所にいる。


「行こう」


 佐々木が真剣な眼差しを向けてくる。


「しょうがないな。……行くぞ」


 俺も腹をくくって頷くと、工場に向かって走り出す。

 背後から追うように三人の足音がついてくる。


 不安な心を落ち着けながら、俺は走る。

 とんでもなく危ない橋を渡っているのではないか……。そんな不安がよぎり、俺の心臓は大きく脈打っていた。


 しかしそれと同時に、こいつらと一緒ならなんとかなる。

 そんな気持ちも、いつの間にか自分の中で大きく育っていることに、俺は気づき始めていた。




 工場内へ入ると、太陽から射す薄明りが内部を照らしていた。


 ち果てた機械たちが羅列られつしている。

 その中に身を潜めながら、少しずつ前進していくと、桐生の姿を発見した。

 彼も機械の影に身を隠していた。


「おい、勝手な行動はするな」


 桐生の側へ近づき耳打ちすると、彼は黙って人差し指を口に当てる。

 彼の視線の先には、男が二人。何かを話しながら奥にある階段を下りていくところだった。


 一人は川野だ。

 この前彼のツイートで写真は確認済みなので、間違えるはずはない。

 だとしたら、ここに沙羅さんもいる可能性は高い。


「結構本格的に危ないかもしれないな……。どうする? おまえら」


 俺は振り返り、桐生と佐々木を見つめると、二人とも真剣な眼差しを向けてきた。


「もちろん、行くよ。こんなワクワクしたの、久しぶり」

「俺も行く」


 俺は二人に頷き返すと、ゆっくりと男たちのあとを追った。

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