「かわの……ともや、っと」
パソコンに向かい、名前を検索する。
沙羅の恋人のことがどうしても気になった俺は、『マリー』のママに電話して、彼の名前を聞き出した。
沙羅の恋人の名は、
さっそく手がかりを探すために、ネットサーフィンを開始。
手始めに、名前を入れてみたが、ビンゴだ。
彼のツイッターを発見した。
そのツイートを辿っていくと、どうやら運送会社に勤めていることがわかった。
「黒川運送ね……」
「ここ何?」
いつの間にかパソコンの画面を覗いていた佐々木がつぶやく。
もうすでに女装は
少々残念な気分になる。
佐々木の女装はなかなかのもんだった。美女と付き合って一緒に暮らしているような気がして、気分がよかったのに。
「沙羅さんの彼氏の職場だ。気になるから明日行こうと思って」
「……俺も行く」
「もちろん、私もお供いたします」
気づけば反対側からリリーも覗き込んでいた。
「まあ、いいけど。佐々木……まさか、また泊まるのか?」
「ああ」
そう言うと、佐々木はさっさとソファーへ戻り、小説の続きを読み始めた。
最近、佐々木はちょくちょくこの事務所で寝泊まりするようになった。
彼の家族のことや家のことなどは一切聞いていないので、どうなっているのかわからない。
しかし、よほど居心地がいいらしい。
いつもここのソファーで、そのまま寝てしまう。
彼が寝入ってしまうと、リリーがそっと毛布をかけているところを俺は何度か見ている。
もしかして、リリー目的か?
いや、でもアンドロイドだし。
佐々木はよくわからない、不思議な存在だった。
最初は何を考えているのかわからなくて、不気味に思うこともあった。しかし、今ではそこが面白いというか、見ていてあきない。
いつもは何も言わず大人しく黙っているのに、急に確信めいたことを言ったりする。もしかして、本当はすごく頭の切れる奴なのではないか、と俺は考えていた。
次の日、俺と佐々木とリリーの三人で、黒川運送へと向かった。
桐生は約束していたわけではないから、
あいつのことだ、どうせふいにどこからか現れるだろう。
黒川運送に辿り着いた俺達は、まず事務所へ足を運んだ。
事務員へ事情を説明すると、少し怪しむ様子を見せたが、なんとか協力してくれるようだった。
佐々木とリリーを事務所の外に置いてきたのが、
二人が一緒だと、誤解を招き、警戒されることが多い。
川野は最近シフトを減らしており、仕事に滅多に顔を出さなくなってきたという。
彼はアルバイトとして雇われており、自由にシフトを選べるようだった。入った当初は張り切って、毎日のようにシフトを入れていたが、最近はほとんど顔を見なくなったそうだ。
事務員は、川野と親しくしていた従業員の
ごく普通の、どこにでもいそうな青年だ。
木村は軽くお辞儀をして、外にあるベンチへと誘導してくれる。
外へ行くと、女装姿の佐々木とメイド姿のリリーが、俺の側へ駆け寄ってきた。
彼は酷く驚いた表情をして俺を見た。
はいはい、もう慣れましたよ。
「川野のこと、ですか?」
「ええ、最近何か、様子がおかしかったりしていませんでしたか?」
木村は天を
「うーん、最近はあんまり会ってないからなぁ」
「川野さんの彼女のことは、ご存じですか?」
「ああ、彼女一度だけ見たことあるよ。川野に弁当持ってきてた。いい子そうだったな。その子が何?」
「彼女、行方不明なんです。何か手がかりがないかと思い、訪ねてきました。
もしよろしければ、川野さんの住所教えていただけませんか?」
これは
しかし、事務員に聞いたところで、個人情報だからと教えてはくれないだろう。
今は一刻を争うかもしれないのだ。手段にこだわってはいられない。
「それは大変だ。確か、俺のスマホにあいつの住所入ってますよ。待っててください」
木村は急いで走っていく。
なんてラッキーなんだ。そして、なんていい奴なんだ。
小さくガッツポーズをして、自分の運の良さを喜ぶ。
ニヤついている俺の顔を、佐々木とリリーが不思議そうに覗き込んできた。
俺は恥ずかしくなり、一つ咳払いして、二人から顔を背ける。
木村が戻ってくると、スマホの画面を開いてこちらへ差し出した。
そこには川野の住所が記載されている。
俺は自分のスマホを取り出し、彼のスマホの画面を撮影した。
「ありがとうございます。すごく助かります」
「いえ、川野のこと、俺心配してたんですよ。前は仲良くしてたんですけど、半年くらい前からだんだん
仕事場で会っても素っ気ないし。ここ三カ月、だんだん彼は仕事も休むようになっていて。顔も見れないし、話しもできないから、あいつが何を考えているのかわからなくて。
……彼女さん、無事だといいけど」
木村という男は本当にいい人間だ。
心から川野を心配していることがわかる。
「おまえ、いい奴だな」
佐々木がぽつりとつぶやくと、木村は驚いた表情で佐々木を見つめた。
今まで一言も発していなかった美女が、いきなり声をかけてきたので戸惑っているようだった。
俺も驚いた。
佐々木の声は女性のものになっていたから。
こいつ女装もすごいけど、声も変えることできるのか!
これからは、カメレオン佐々木と呼ぶか……。
「木村様は、素敵です」
リリーがその可愛い笑顔を向けると、木村の顔が真っ赤に染まった。
それはそうだろう、リリーはそんじょそこらのアイドル顔負けの可愛さだからな。
俺はなぜか自慢げだった。
「い、いやあ、なんだか素敵な女性に囲まれて、
木村が俺に視線を送る。
俺は精一杯の笑顔を作り、たどたどしく頷くしかなかった。
だって、本当はこの二人……男とアンドロイドだから。