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第2話 おじさん探偵三人組始動!

「桐生……、それはなんだ?」

「え? どうしたの? 可愛いでしょ?」


 桐生がどや顔でその物体を前へ押し出した。


 ここは俺の探偵事務所けん自宅。


 朝っぱらから事務所の扉をうるさく叩く奴がいたので、仕方なく扉を開ける。

 すると、呑気のんきな笑顔を向ける桐生がいた。


 その背後に、とんでもないモノを引き連れて……。


「輪島隆様、ご気分でも悪いのですか? 顔色がよくありません」


 いきなり可愛らしい女性の顔が目の前に現れ、そんな事態に慣れていない俺は驚き一歩後退する。


「こら、リリー、輪島さんが驚いてるでしょ? そんなに近づいては


 桐生にさとされ、リリーと呼ばれた少女は不思議な顔をして首をひねった。


 リリーは桐生が作ったアンドロイド。

 AI知能を搭載とうさいした最新型だそうだ。


 自分で考え行動し、どんどん学習していくらしい。

 姿はなぜか可愛いメイドさんスタイルだった。どうやら桐生の好みが入っているらしかった。


「リリーは見た目はこんなに可愛いけど、格闘の腕も一流なんだよ。

 悪い奴が襲ってきても彼女がいれば安心さ!」


 桐生が胸を張り自信満々に言い放つ。

 まだ言いたいことがあるのか、ニヤついた顔で俺の顔を眺めてくる。


「ふっふっふ。

 さらにリリーは家事全般もお手の物! なんでも完璧にこなせるのさ!

 だから、この子を輪島くんにプレゼントするよ」

「……はあ!?」


 あまりにも驚き過ぎて、頓狂とんきょうな声を上げてしまった。


 そのとき初めて、佐々木が笑った。

 彼が音を発したことに、俺は驚いていた。


 彼も、先ほど桐生と共にやってきていたのだが、あまりにも大人しく音を発しないので、存在を忘れていた。


「よかったな……彼女、とても役に立ちそうだ」


 佐々木はリリーを見つめ微笑んだ。

 珍しく佐々木が興味を示している、気に入ったのだろうか。


「なら、おまえが貰うか?」

「駄目だよ!」


 桐生が珍しく怒鳴った。

 いつも笑ってばかりの印象だったから、少し意外だった。

 彼でも怒りの感情を表すことがあるのか……ってそりゃそうだよな、人間だもん。


「リリーは、輪島くんの助手なんだから」

「はい?」

「この探偵事務所の助手けん家政婦だよ。

 輪島くんは一人でこの探偵業をしているだろう? 助手がいればすごく助かるんじゃないかと思って。

 それに、君は独り身だから、家事もおろそかになってるんじゃないかと心配でさ」


 余計なお世話だ。

 ……まあ、確かに、しっかりはできていないが。


 部屋を見渡すとかなりの散らかりようだ。

 まあ、男の一人者なんて、こんなもんだろ。


「とにかく、今日から僕と佐々木くんもお世話になる事務所だからね。

 それなりに整えないと。リリー頼んだよ」

「はい、よろこんで」


 リリーは可愛く微笑んだ。

 まあ、確かに家事をしてくれるロボットがいれば助かるが。


「本当におまえら、ここで探偵するのか?」

「もっちろん」

「……ああ」


 桐生が笑顔で頷くと、佐々木が真顔で頷いた。


「マジか……。

 まあ、別にいいけど、給料は出せないからな」

「わかってるって。僕、お金には困ってないから大丈夫」


 余裕の笑みを見せる桐生。


 そりゃそうだろうよ。

 聞けば桐生は大学の教授らしい。

 今は現役を退しりぞいて週に一度だけ講義をし、残りの日は研究に没頭ぼっとうしているそうだ。

 いいご身分だ。


「俺も金はいらない」


 佐々木は事情を言わないのでわからないが、何か危ないことしてきたような雰囲気がある。

 知らぬが仏だ。聞かない方が身のためだろうから、聞かないでおく。


「じゃ、そういうことだから、これからよろしく」


 桐生が手を差し出すと、俺は一応握手を交わした。

 それにならって、佐々木もついでのように手を差し出す。


 桐生がすぐにその手を取り、無理やり三人の手を合わせた。


「よろしく!」

「……よろしく」


「……ああ」


 こうして奇妙な三人組のおじさん探偵の日々は、幕を開けたのだった。


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