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Stage12 居抜きとスケルトン★

 とりあえずまだ変身は解けそうにないから、このままアタシの住んでいた家に向かおう。

 アタシはワクワクしながら昔住んでいた家の物件を訪ねた。


「どうぞ、こちらです」

「わぁ……って、何? 何コレ??」


 アタシが見たのは、昔アタシが住んでいた時の姿とはかけ離れた家の成れの果てだった。


「おや、エイミちゃんはスケルトンは見た事無かったのかい?」

「スケルトン? 骸骨ってどういう事ですか?」

「はっはっは、まだ甘いな、スケルトンとは、居抜きと違って内装そのものを全部引っぺがした建物の事じゃ、普通は経営者でも無きゃスケルトン物件はそう見るモノじゃないからな。そりゃあ若い娘さんにしたら初めて見るモノじゃろう」


 どうやら田辺さんはこういった建物を何回も見た事が有るみたい。


 確かに、生まれてこのかた、こんな建物の内側なんて見た事が無かった。

 これを見る限り、アタシがここに住んでいた事が信じられない。

 ここから引っ越しをした時でも、部屋がすっからかんになっただけで、まさか部屋の壁まで全部スカスカになっているとはとても思えない。


 アタシの部屋とパパ、ママの部屋を隔てていた壁も無きゃ、パパがエビグラタンを作ってくれたキッチンも見当たらない、これがスケルトン物件ってやつなんだ……。


「エイミちゃん、エイミちゃんが今までに見た事のあるのは、居抜き物件だけなんじゃろうな。事務所を借りる時は居抜きかスケルトンかを見極める必要があるんじゃ、これは典型的なスケルトンじゃな。でもその分自由度は高いか」


 居抜きとスケルトン、あまりよくわかっていないけど、近所とかでラーメン屋が潰れてそこに入った新しいイタリアンの店がカウンターとか厨房をそのまま使っているのを見た事ならあるけど、アレが居抜きってやつなのかな?

 それでたまに学習塾とか診療所が閉店したら、そこの中身が殺風景なコンクリートむき出しになっていて工事をしている建物も見かける。

って事は、アタシの住んでたこの家、今は内装も何も無いボロボロでここから作り直さないといけないって事?


 これは先が思いやられるわ……。


 田辺さんは一通りこの建物を見た後、公園に残していた自分の私物をここに持ってくると言って先に出てしまった。

 どうやら木戸さんがここのお金は全部出してくれるみたいだけど、どうなるんだろう。


 木戸さんは今までも動画配信者やアーティスト希望者にルームシェアで部屋を貸し、そこから動画を配信させたり曲を作らせたりという事で家賃を取らずに動画再生に応じた金額を当人に分け与えるといった事をしている。


 だからアタシ達の事務所代くらいもその一つだと見ているのかな。

 でも流石にこんな場所にはこのまま住めないわよね、そうだ……アタシは魔法が使えるんだった。


「エイミちゃん? いったい何をするつもりやの?」

「エイミッ! 面白そうだなっ!! ガッツを見せろっ!」

「ええかげんにせんかい、この脳筋バカッ!! エイミちゃん焚きつけてどうすんねんアホッ!! ボケかっ!!」


 このヒカリとヤミの二匹のやり取り、どうも調子が狂うな。

 まあいいや、とりあえず魔法でアタシの部屋を元に戻してみよう。

 ここはアタシの住んでいた家、そしてこの部屋はアタシの場所……。


「マジカルッ!! アタシの部屋を昔のまま再現してっ」

「エイミちゃんっ!?」


 パァッっと光が広がったかと思ったら、アタシは昔住んでいた部屋の入口に立っていた。

 ここにドアがあって、その入り口に釘フックでロープにかけられた【えいみのへや!】の木の小さなファンシーな立札があったのよね。

 そう、ここを開くと……。


「わぁっ、そうよ、ここがアタシの部屋だったのよ」


 アタシは嬉しくなってついベッドに飛び込んだ。

 けど、ベッドの端っこの大きな木の板に頭から突っ込んでしまった!


 ゴチィインッ!!


「いったぁあーい!!」

「エイミちゃん、大丈夫なん!?」


 アタシは痛みのせいで魔法が解けてしまい、本来の28歳の姿に戻ってしまった。

 あれっ? このベッド、こんなに小さかったっけ……?


 アタシは昔のようにベッドでゴロゴロしようとしたが、あちこちの木枠に体が当たってしまい、思うようにゴロゴロできなかった。


「もー。どうなってるのよぉ!」


 アタシは思わずゴミ箱にクシャクシャになった紙を放り投げたが、ゴミは壁に当たってアタシの顔に跳ね返って飛んできた。


「なんでこうなるのよっ」


 アタシは思わず立ち上がろうとした。


 ガンッ!!


「!!??!!??」


 声にならない痛み、アタシはタンスの角に足の小指をぶつけてしまった。

 あまりの痛さにアタシは思わずベッドでうずくまったが、その後、ベッドから落ちてしまった。

 ベッドは狭いし足は痛いし……まるでいい事がない。


「もーヤダッ!! 何なのよこの部屋ぁ!」


 アタシが怒ると、魔法が解けてしまい、部屋のあった場所はただのむき出しのスケルトン物件に戻ってしまった。


「エイミちゃん、魔法は永遠やないんや。だから魔法で出せる物は一時的なもんやねんで」

「そうみたいね、アタシの部屋……消えちゃった」

「エイミっ、ガッツ出してっ」


 ヒカリとヤミがアタシの事を慰めようとしてくれているのはわかる。

 でもやっぱりあの部屋がアタシの思い出の場所、風邪っぽい時とかにベッドで寝ていてパパ特製エビグラタンとか持ってきてもらった時は嬉しかったなぁ。


 でももう、アタシは大人。

 あの頃の夢見る少女だったアタシとは違う。


 それに……あの部屋だとストロング缶を入れる冷蔵庫の置き場がない。

 そうね、やっぱり子供の部屋は今のアタシには物足りないのかもしれない。


「エイミちゃん、何で鍵が閉まってるんじゃ? ここを開けてくれんか?」

「あっ、田辺さん! ちょっと待ってくださーい、すぐ開けますからー」


 危ない危ない、アタシは魔法で再びミラクルエイミの姿に変身し、閉めていたドアのカギを開いた。


「ふう、残りは宅配業者に頼んだよ、すぐ近くに運送会社があったからな、えっと……亀山運送じゃったかな」

「えっ? え、はははっ」


 まさかここでアタシの働いているブラック企業の名前を聞くと思わなかった。


 そして数時間後、田辺さんの荷物が届き、スケルトンの物件の床に置かれた。

 流石はうちの会社、地面にブルーシートすら敷かずそのまま無造作に荷物を置いて行ってる。

 それに下の方なんて段ボールの角が潰れたりしてて、積み方も乱雑。


 まさにやっつけ仕事ってところね。


「エイミちゃん、儂と一緒の部屋が嫌じゃったら儂は近くの安いビジネスホテルでも泊まってくるぞ」

「だ、大丈夫ですよ。田辺さん信用してますから」

「そ、そうか? じゃが万が一何かあるといかん、儂はこちら側にある部屋で休ませてもらう事にするわい」

「わかりました、アタシはまだやる事があるんで、田辺さんは先に休んでいてください」


 アタシはWi-Fiを使ってパソコンを接続し、リフォーム業者を捜してみる事にした。

 あの印税があれば、この場所をきちんとした事務所にする事は出来るわ。


 アタシはすぐに仕事をしてくれそうな業者を捜し、夜遅くまで作業していた。


 ここを田辺さんとアタシの新事務所にする為に、一日も早く業者を見つけ出して仕事してもらわないと。


 アタシはこの物件をどのようにリフォームするか、考えていた。

 ここがアタシ達の事務所になるんだから、快適な場所を作らないとね、それと……ロングのストロングチューハイが入る冷蔵庫の置き場とエビグラタンをコンビニで温めなくてもいい電子レンジは用意しなきゃ。


 まだまだ課題は山積みって感じだわ。


 リフォーム業者は木戸さんの懇意にしている業者が来てくれた。

 田辺さんとアタシで建物をどのようにリフォームするか、それを話し合い、内装工事は二週間程で完成。


「それじゃあ、看板設置ね、うん、そこでお願いします!」


 そしてついにアタシと田辺さん、そして木戸さんの新しい会社の事務所が完成した。


 ――株式会社KDTミラクル――


 そう、ここからアタシ達の再スタートなのよ!

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