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Stage10 20年後の木戸さん★

 橘さん、いや、橘社長! アナタは確かにアタシと一緒に田辺社長の悪事を暴いて弱小だったオリンポスプロダクションを大手にまで育て上げた。

 でも、今のアナタは田辺社長より悪辣で卑劣で最低の男よ!

 誰がそんな人と一緒に働くものですか!


 アタシは、バッジを強く握りしめ、その後橘社長に投げつけた。


「冗談じゃないわ、誰がアナタみたいな人と!」

「貴様……ワシに逆らうとは、この世界で生きていけなくしてやろうか!!」


 橘社長がアタシの顔に平手打ちをしようとした時、大声で誰かが叫んだ!!


「待ってくれ!! その娘に手を出さないでくれ!!」


 ドアを開いて警備員を振り切ってアタシの所に飛び込んできたのは、田辺さんだった。

 そして田辺さんは橘社長の前で跪いて頭を下げた。


「お前は……プッ、ハハハハハッ!! 落ちぶれたものだな、芸能界のドンとまで言われた男が」


 橘社長は田辺さんの頭を足で踏みつけた。

 これは……昔橘社長が、田辺社長にアタシが殴られそうになった時に庇ってくれたのと全く正反対の光景だ。


 流石の田辺社長も土下座した橘社長を足で踏みつけるまでの事はしなかった。

 せいぜい唾を床に吐いたくらいだ。


 しかし、橘社長は田辺さんの頭を踏みつけ、さらに力を入れて踏みにじっている


「田辺、昔と反対だな! 貴様に受けた屈辱、今でも覚えているぞ」

「儂はどうなってもいい、それだけの事をしてきたから……じゃが、彼女には罪はないじゃろう、どうか、どうかあの娘には手を出さんでくれ」


 田辺さんは頭を踏みにじられながらも、ずっとアタシを庇い続けた。

 そこに声をかけて来たのは、木戸さんだった。


「橘さん、それはやり過ぎじゃないのか?」

「木戸、お前までワシに逆らうつもりか、この業界で生きていけなくしてやろうか」

「出来るもんならやってみろ、ボクはお前の秘密を握っているんだぞ!」

「くっ……」


 木戸さんがいつ橘社長の事務所から独立したのかはわからない。

 でも、木戸さんはアタシのマネージャーをやっていた時から弱小だったオリンポスプロダクションの内情を知っているので、今の業界最大手になった橘社長の弱みを握っている数少ない人物ともいえる。


「田辺、命拾いしたな……そうだ、良い事を思いついたぞ」


 この橘社長の思いついた良い事ってのはたいていロクな事になったためしが無い。

 だからアタシは彼の考えの失敗しそうなところを魔法でカバーする事によってどうにか成功に導いていた。

 だから彼単品で考えた良い事は、実現するには可能性が低かったり、周りの人が振り回される事が多い所詮お坊ちゃんの考え方だったのよね。


「貴様はエイミを守ってやりたいんだよな、それならいいだろう。貴様がワシの下僕になれ。そうすればあの娘も手に入るし、貴様をこき使う事も出来る。どうだ、元芸能界のドンとも呼ばれた男が……ワシの下で働けるのか?」

「わかりました、それでいいです。儂は何でもするから、あの娘だけは手を出さないで下さい……」

「ンー、それは貴様の態度しだいだ」


 橘社長はようやく田辺さんの頭から足を離した。

 それでも田辺さんはずっと頭を下げ続け、アタシの事をお願いしてくれている。


「聞いたか、ミラクルエイミ。お前はオリンポスプロダクションに所属しろ。そして儂のために働け。さあ、それを拾え」


 橘社長はアタシが投げつけた社員証バッジを拾うように命令した。

 すると、それを拾ってくれたのは……木戸さんだった。


「橘、もういいだろう。お前の気が済んだなら、もう勘弁してやってくれ」

「木戸、貴様随分と馴れ馴れしい態度だな。本当に芸能界で働けなくしてやろうか?」

「出来るもんならやってみろ、ボクだってお前に負けないだけのものは持っているんだからな」


 木戸さん、何か根拠があるんだろうけど……今の芸能界のドンになった橘社長に対抗できるだけのものを持っているのだろうか。

 彼は橘社長を怖がることも無く、睨み返している。

 昔、橘社長が田辺社長とにらみ合っていた時は後ろでわたわたしてたのが噓のようね。


「フン、まあいい。ミラクルエイミ。もうお前はワシの所有物だ。ワシの思い通りに動け、そこの田辺を助けたければなっ、ワハハハハハ……」


 橘社長はドアを乱暴に開けると、そのままオーディション会場の部屋から姿を消した。

 田辺さんはまだ頭を下げたまま、うずくまっている。


「田辺さん、もういいですから。頭を上げてください」

「エイミ、すまん。儂のせいで」

「大丈夫です、アタシこんな事でくじけませんから!」


 アタシは田辺さんの肩を抱え、引き起こしてあげた。

 田辺さんは年を取ったのだろう、体が軽く、フラフラした感じで立ち上がった。


「大丈夫ですか? 田辺さん」

「あ、君は木戸君か、儂は君にもずいぶんと酷い事をしたな」

「いいえ、あの経験があったから今のボクがいるんですよ、ですから気にしないでください」

「すまなかった、本当にすまなかった……」


 逮捕され、服役した事で改心した田辺さん、それに対し芸能界のドンになって業界を牛耳る橘社長、この20年、アタシの居なかった間に一体どれだけの事があったのだろう?


 まあ、木戸さんはアタシのマネージャーをやっていた頃からあまり変わり無さそうだけど。

 そういえば、今の木戸さんの立ち位置ってどんな所なんだろうか。

 制作会社やアニメ監督、プロデューサーに対等に話を出来るという事は、ADや誰かのマネージャーとは違うのだろうけど。


「エイミちゃん、もし良ければなんだけど……ボクの事務所に来ないか?」

「え、木戸さん……でも」

「田辺さんの事でしょ、わかってるよ。勿論、田辺さんにも来ていただきたいんです」

「え? 儂が!? このロートルで今何も持っていない儂に何を……」


 これは願ってもない話だ。

 あの橘社長に睨まれたらいくらアタシが経験者で、魔法使いだとしても一人で戦うのはかなり大変だ。

 それに、田辺さんはアタシと関係があると分かってしまっているので、下手に彼を一人にしておくとこの後どのような事が起きるのかも容易に想像がつく。


「ボクは確かに今新進気鋭の社長って言われてるけど、やはり経験者のアドバイスが無いと難しい事も多くてね、その点田辺さんは業界で長い事仕事をしていた方ですから、多少のブランクはあっても十分ボクよりも経営のスペシャリストとしては一目を置く先輩といったところなんです」

「そ、そうか……」


 確かに、木戸さんが協力してくれるならアタシは以前のようにアイドル活動に専念出来る。

 彼は気弱なだけで能力は高い、だから嫌な仕事を橘社長に押し付けられても全部やりこなしていた。


「田辺さん、アタシも頑張るから、一緒に頑張りましょう!」

「エイミ……わかった、儂も一緒に働かせてもらう。その代わり、儂は厳しいぞ!」


 田辺さんの表情が温和な優しいお爺さんから強面のビジネスマンに変わった。

 でも、アタシは彼が敵だった時から田辺社長の辣腕ぶりは知っている。

 ブランクのあるアタシが芸能界に復帰するとして、元マネージャーの木戸さんと元大手芸能プロダクションの社長だった田辺さんが協力してくれるのはとても心強い。


「嬉しいなァ、またエイミちゃんと仕事が出来るなんて。話は決まったね。田辺さん、エイミちゃん。三日後ボクの事務所に来てくれないか? 場所は名刺の裏に載ってるから」

「はい、わかりました!」


 アタシと田辺さんは、木戸さんの事務所でお世話になる事になった。

 しかし、木戸さんはアタシがミラクルエイミ本人だと気が付いているのだろうか? それとも二代目というイメージ無しにアタシに接しているという事なのだろうか?


 彼は飄々としたところがあって、どこまでが本心か見抜けない不思議な性格ともいえる。


 三日後、アタシと田辺さんは名刺にあった事務所を訪れた。


「えーっと、ここが木戸コーポレーション。え? この建物!?」

「想像以上じゃ、まさか、あの小僧がこれ程の会社を作るとは……」


 アタシ達が見たのは、十階建て以上のビルに堂々と掲げられた木戸コーポレーションの看板だった。


「やあ、よく来てくれたね。待ってたよ」


 アタシ達を出迎えてくれたのは、私服姿の木戸さんだった。


「それじゃあ早速だけど、中に入ってくれるかな?」

「は、はい。わかりました」


 木戸さんは首からかけたIDカードでドアのセキュリティーロックを解除し、ビルの中に入った。

 どうやらこのビル自体が木戸さんの持ち物らしい。

 木戸さんって、別に大金持ちでも何でもなかったはずなのに。20年で一体何があったんだろう?


 アタシ達はビルの中の社長室に呼ばれ、中に入った。


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