大根の着ぐるみを着たまま、アタシは目の前に手を差し伸べた。
そう、これは相手を怖がらせず、話をする為。
「アナタ、どこから来たの? アタシと……お友達になりましょう」
そう、アタシがテーマにしたのは異星人とのコンタクトというギガロスシリーズの根本ともいえるテーマ、言葉の通じない相手に歌で会話をしようというスタイルだ。
途中まではそのままでよかったけど、いきなり魔法のステッキが光り出した!!
えっ!? 今になって魔法の時間切れ!?
こんな所で変身が解けてしまったら……。
『エイミちゃん、ウチに魔法を使うんや!』
『え? ヤミッ?』
『アンタ、このままやと取り返しつかんでっ』
『わ、わかった!』
アタシは魔法を使って辺りを光らせた。
みんなは光を演出だと思っているみたい。
「ヤミッ、あとはお願い!!」
「わかったでぇ!」
ヤミは魔法でアタシそっくりな姿に変身、光で見えなくなったままアタシはその場から透明化の魔法で姿を消し、そのままトイレに向かった。
これでどうにか魔力が回復するまでしのがないと……ヤミ、大丈夫かなぁ?
アタシはコンパクトを使って会場の様子を見ていた。
「素晴らしい!! ミラクルエイミさん、貴女にとってのレンカとはいったいどのような女の子だったのですか?」
「はい、レンカは……最初一人ぼっちの女の子や。そして、言葉の通じない友達を見つけ、その相手に真剣に向かい合う事で、心を開いてもらう、その為に歌を歌って自分の気持ちを伝える……そんな女の子やねん」
アタシと入れ替わったヤミが説明している事、実は、これはヒカリとヤミとアタシが初めて出会った時の事だ。
アタシが小学生で引っ越したばかりの頃、まだ引っ込み思案で新しい学校で友達を作れなかった。
そんな中、アタシはいじめられていた二匹の子供を助けてあげた、それがヒカリとヤミ。
最初にアタシと言葉の通じなかった二匹は、アタシが歌を歌う事で地球の言葉を理解し、そこから会話が出来るようになったから。
「よくわかりました、ギガロスFに出てくる異星人、その相手がどのようなものかは分からなくても、彼女は歌の力でお互いを知る事が出来る、そう思ったのですね! 作品をイメージする素晴らしい演出でした」
「せ、せやねん。アハハハ……」
アタシに変身したヤミの演技が終わると、審査員全員が拍手をしてくれた。
そう、あの真ん中に座っていた男もアタシに拍手をしていた、これは自分の心にウソがつけなかったんだろうな。
その後アタシに変身したヤミはその場から離れ、再び変身したアタシと入れ替わった。
『エイミはん、ウチに何って無茶振りするねん!! 後でなんか落とし前つけや』
『わかった、ちゅーる丼あげるから、ありがとう、本当ーに助かった!』
アタシはすぐに戻り、何食わぬ顔で椅子に座った。
とりあえず、認識疎外の魔法を使わなかったらアイドルがトイレに行ったという事でこれはこれで炎上案件になるとこだったわ……。
三人の演技が終わり、ついに……最終結果が発表された。
その審査結果は……。
「レニー・ルヴェールさん、1票」
レニーさんに票を入れたのは、やっぱり川村監督だった。
まあ自分の作品をこれだけ理解して愛しているファンとなれば、そりゃあ監督としては使ってあげたくなると思う。
でも他の審査員は票を入れなかったのは、やはり出来レースだからというのもあるけど、マニアックすぎて使い勝手に困るからという事も考えられるか。
「仕方ないでーす、でもここでファイナリストになれたってのだけでもとても楽しかったでーす」
レニーさんは悔しがるというより、このオーディションがイベントとして楽しかったと言っていた。
「次は……速瀬悠美さん、2票」
「!!??」
速瀬悠美の母親である真衣と真ん中の偉そうな男が驚いていた。
出来レースで話をつけていたはずの審査員が悠美に票を入れなかったからだ。
……ということは!!
「最後に、ミラクルエイミさん、3票」
「ふざけるな、貴様等!! いったいどういうつもりだ!! ワシに逆らうつもりか、木戸!!」
木戸……って、ひょっとして、昔アタシのマネージャーをしてくれていたあの木戸さん?
「橘さん、アンタ変わってしまったよね。昔一緒に仕事をやってた事が恥ずかしくなってくるよ……」
「何だと貴様! この業界で仕事できなくしてやろうか!!」
「いいのかい、これ生放送だけど。ボクは知らないよ、困った人だなァ」
「!!」
な、なんと……あの悪辣そうな太った男がまさかあのイケメン社長の成れの果て!?
信じられない、まさか……あの橘社長があんなガマガエルみたいなデブの悪辣社長になっているなんて……。
時の流れの残酷さより、人間の変化の凄さを感じたわ。
あの悪辣で強欲の塊だった田辺社長があれほどの善人になっていたのに対して、芸能界のプリンスと言われた橘さんがあんなデブのガマガエルみたいな最低の男になっていたなんて……。
「い、今のは気にするな。結果は結果だ。いいだろう、ミラクルエイミ……お前がレンカ役をやればいい!」
「橘さん、それじゃあ話が……!」
「真衣、まあ待て。ここに監督とプロデューサーもいるんだ。それなら新たなキャラを作ってねじ込めばいいだけだ」
「でも……またミラクルエイミに負けたなんて、ワタクシ恥をかきましたわ! 悠美も支持していないことを勝手にやって……後でしっかりと躾けておかないといけないわね! わかってるのかしら!」
橘社長と真衣は二人で何かを話しているみたい、どうせロクでもない相談なんだろうけど……。
そして生放送の終了時間が迫り、司会が最後の締めの挨拶をアタシに振って来た。
流石にここまで来たら妨害工作も出来ないでしょうから、そのまま挨拶すればいいわよね。
「皆様、本当にありがとうございます! 皆様のおかげでレンカ・レンを演じさせていただけることになりました、ミラクルエイミです。アタシはお母さんみたいなアイドルになって見せます、どうか応援よろしくお願い致します」
「「「「ワァァアアー!!」」」」
「「「エイミィィィ―ッ!!」」」
アタシの事を大勢の観客が歓迎してくれた。
ここまで話が大きくなれば妨害も出来なくなるでしょう、それにこれは生放送。
アタシが昔橘社長と組んで田辺社長の悪事をバラしたのも編集不可能な生放送を利用したから、アタシは生放送中に起きるアクシデントは普通、対処できない事を知っている。
実際これ以上妨害工作の難しくなった真衣と橘社長は、監督やプロデューサーに何かを話している。
歓声が大きく、更にマイクが遠くて何を話しているかはわからないけど、どうせ何かの悪だくみの相談だろう。
そして公開生放送は終了、スタッフによる撤収が終わり、その場に残ったのは橘社長とアタシだった。
真衣は悠美を連れてさっさと帰ったらしい。
プロデューサーと監督、そして木戸さんは離れた場所で何かを話している。
どうやら橘社長が話に新しい課題をねじ込んできたみたいなので、それをどうするかの話し合いのようだわ。
アタシに橘社長が指を突き付け、命令してきた。
「いいか、今回はお前がワシの画策した出来レースを潰したせいで、しなくていい苦労をさせられることになった、その代償はお前に払ってもらう。どうやらお前は田辺を利用して今回のオーディションに参加したようだが、お前は田辺の事務所に所属しているのか!?」
この高圧的な言い方、昔の橘さんが一番嫌っていた田辺社長の偉そうな話し方そのものだ。
まるで、田辺社長の中身がそのまま橘社長に乗り移ったのかのような悪辣ぶり。
「いいえ、田辺さんにはオーディション参加のきっかけを用意してもらっただけです」
ここで下手に田辺さんの名前を前面に出すと、今度はあの田辺さんが橘社長に潰されかねない。
その後、橘社長はアタシにバッジを手渡してきた。
これは今のオリンポスプロダクション社員証?
「そうか、それなら話は早い、お前はオリンポスプロダクションに来い、ワシの所で働け!」
「えっ、それって……」
「わからん奴だな、田辺を見捨ててワシの所に来いと言っているんだ! どうせ一緒に働いてるわけではないのだろう、あのホームレスがアイドル事務所の仕事が出来るわけが無い!! ワハハハハッ!!」
許せない、アタシは自分の事を馬鹿にされてもスルー出来るけど、大事な人を馬鹿にされるのは許せない性格なのよ!