いよいよ最終審査。
超機動要塞ギガロスF(フォース)新人アイドルオーディションもアタシ達三人がファイナリストに残った。
最後まで残ったのは、速瀬真衣の娘、速瀬悠美、外国人のアニメマニア配信者のインフルエンサー、レニー・ルヴェール、そして二代目ミラクルエイミことアタシだ。
アタシ達三人は別室の控室に呼ばれ、会場の設営がされていた。
昔は生放送の間のコマーシャルの一分間で大型セットを入れ替えるなんて芸当が存在したというけど、とても信じられない話だわ。
アタシ達はおよそ10分程待たされた。
その間にレニーがアタシに話しかけて来た。
「アナタ、本当ーにあのミラクルエイミさんの娘さんなんですか!」
少しイントネーションが違うが、彼女は日本語がペラペラだ、見た目の外人っぽさがなおさらにそれを魅力的に見せている。
「は、はい。ミラクルエイミは……アタシのお母さんです」
「羨ましいですー、わたーしもそんなお母さんと毎日過ごしたいですー」
へっ? ま、まあ……一緒に暮らしているなんて一言も言っていないのに、彼女の中では自分のストーリーが勝手に作られているの?
「そ、それが……お母さん、今は外に出られなくて、今は離れて暮らしているんで……」
「おー、それは、ひょっとして何か聞いてはいけない事を聞いてしまいましたか? もうしわけありませんでしたですー。今度もし良ければお見舞いでもさせてもらえれば、あたーし、アナタのお母さんの大ファンなんですー」
この子の独特のテンション、何か調子が狂うな……決して悪い子じゃないんだけど。
「ちょっと黙っててよー。集中できないからー。今台詞の台本を見てるところなーの」
「ご、ごめんなさいっ」
悠美は独特の間延びした話し方をしているが、流石は速瀬真衣の娘といったところか、プロの意識は既にあるみたい。
オーディションの時のハキハキしたしゃべり方が作ったものだとすれば、この間延びした話し方が本来の彼女の姿なのだろう。
でも、台詞の台本って、アタシ達には渡されていなかったので、やはりこれは出来レースだ。
でも彼女はそんな事には気が付いていない、多分母親の真衣が用意したものは他の娘達にも渡されていて同じスタートラインからオーディションが行われていると思っているのでしょう。
こういうタイプの娘は、プライドが高いので自分の為に出来レースを用意されたとなると間違いなく怒るだろう、だからアタシは全力でぶつかるだけ!
そう、ここから先は出来レースのシナリオではなく、アイドルとしての真剣勝負よ。
多分だけど、あのレニーって娘も、このオーディションが出来レースだとは気が付いてない、だから空気を呼んで負けるなんてことは無いはず。
そうなると、審査員の出来レースの思惑とは違い、アタシ達の対決は実力のみの真剣勝負。
もしこれで出来レースで負けたとしても、印象を与えたアタシは今後の仕事につながる。
そう、これが社会人経験と実際の現役アイドルを一年間やり切ったアタシの経験よ、アイドルを舐めないで!
「準備が出来ました、三人とも会場に向かってください」
「わかりましたっ」
そこに用意されていたのは、巨大な大根の着ぐるみだった。
「これが最終審査です。この着ぐるみを着て、アナタの思い浮かべるレンカ・レンを演じてください。シチュエーションは、自由に考えて結構です」
何ともトンデモない無茶振りだ。
これは作品をわかっていないと出せない演出だから、まずはギガロスシリーズを知っていなければこの世界観が分からない、そして、今回現れた敵がどのような連中か、それが分かっていなければ間違った反応をしてしまう。
そういう意味ではアタシは不利ね。
悠美は最初から出来レースのシナリオを渡されているだろうし、レニーは重度のロボアニメオタクなので作中だけでなくスタッフの性格等から演出を読んで演じる事が出来る。
ここは……魔法で……。
ダメだ、このままでは、また魔法の使い過ぎでもし変身が解けたら……どんなアクシデントになってしまうか。
でも魔法以外でこの出来レースを覆すのは難しい、さあ……どうやって乗り切ろう。
魔法を使わないと演出で負ける、でも下手に使いすぎると変身が解けてしまう。
これは久々の大ピンチだわ……。
とにかくいったん、他の娘のパフォーマンスを見て考えよう。
この最終審査で最初に着ぐるみを着たのは、レニーだった。
さあ、彼女はいったいどのようなレンカを演じるのだろう。
「では、レニー・ルヴェール、レンカ・レンを演じまーす」
彼女は最初にその辺りにあった紙の束を持って、大根の着ぐるみを着たままチラシ配りを始めた。
「おねがいしまーす、おねがいしまーす、新店カイテンしましたー、どうぞよろしくおねがいしまーす」
レニーは大根の着ぐるみを着たチラシ配りをしていたが、その後チラシを地面に置いて歌を歌い出した。
そして歌が終わると、更に嬉しそうな声でチラシ配りを始めた。
5分のタイムリミットいっぱいまでチラシ配りをした彼女は最後にお辞儀をして終わらせた。
「はい、時間になりました。それでは、レニーさん、貴女の演じたレンカ・レンとはどのような女の子でこの演出はどのようなシーンですか?」
「はーい、あたーしのレンカは、パチンコ屋のチラシ配りでーす。この作品はパチンコとのタイアップがあると考え、パチンコ屋のアルバイトシーンが入るかもという事で、この演出を考えましたー」
流石はアニメマニア! 彼女は川村監督の他の作品がパチンコになっている事を知っていたので、それを前面に出してパチンコ屋のアルバイトをしていたというシーンに仕上げた。
これは確かに演出的に十分にあり得るわ。
「大変素晴らしい演出でした、パチンコ屋のアルバイトとは、確かにありそうな演出ですね、ありがとうございました!」
他の審査員は彼女に拍手をしたが、真ん中の審査員の男は目を閉じたまま拍手をしようとしない。
これはかなり票が割れそうだ。
「それでは次は、速瀬悠美さん、着ぐるみを着てレンカ・レンを演じてください」
「わかりました。速瀬悠美、レンカを演じます」
そう言うと、彼女はその辺りにあった小道具からギターを拾い、ロックな歌を歌い出した。
これはどういった演出なんだろう。
その後悠美は、用意された小道具のバイクの後ろに座り、風を受けていた。
なるほど、彼女はお嬢様で普段は抑圧された生活をしている、それが外に出てきて束縛無く好きに過ごせる楽しさを感じているといった演出なんだ!
なるほど、確かにこれは魅力的なヒロインになりそうだわ。
「時間となりました、ありがとうございます。それでは悠美さん、貴女の思い描いたレンカ・レンはどのような娘ですか?」
「はーい、わたしのー思ったレンカちゃんは、毎日決まった生活をさせられている女の子だと思いましたー。だから外に出かけるのに変な着ぐるみを着て家から逃げた後は自由に生きている人達と友達になって親から逃げたかったんだと思いまーす」
ひょっとして、コレって実は彼女の本音なのだろうか。
この話を聞いた真衣の顔が少しひきつっているように見える。
どうやらこの演出は出来レースの用意されたものでは無く、彼女のアドリブで作ったものだったようね。
審査員は全員が拍手をしていた。
やはりこれが出来レースなんだなとアタシは感じていた。
「それでは次は、ミラクルエイミさん、貴女の思い描くレンカを演じてください」
「はい、わかりました」
アタシは自分の経験を元にレンカ・レンを演じる事にした。
まずは何でこの大根の着ぐるみを着ているのか、それから考えないと。
アタシが思い描いたのは、笑わせる事、怖がらせない事、そこじゃないかなと。
大根の着ぐるみ着たアタシは、滑稽に踊った後、わざとコケる事をしてみた。
会場は大爆笑、そう、これでいい。
あの真ん中の審査員の男はアタシを睨みつけたままだが、気にしない。
それよりも、この後が重要なのよ。
アタシが何の為に道化を演じたか、それがこの後で重要になってくる。