新番組TVアニメーション、超機動要塞ギガロスF(フォース)。
その新人オーディションがスタートした。
会場は特設スタジオで、大型モニターが設置され、抽選で選ばれた数百名の観客が客席に座っている。
この様子は、テレビ放映に加え、ワクワク動画、TO TUBEでも生放送されていて、視聴者コメントがモニターの下に流れるようになっていた。
審査員は六人、その前に視聴者投票が有ってその上位数名が審査員の二次審査を受ける事が出来るようだ。
審査員はそれぞれ、ギガロスシリーズ総監督の川村監督、初代アイドル役の速瀬真衣、ジャパンTVの宇都宮プロデューサー、制作アニメーションスタジオ・サンシャインの社長、それに真ん中に座った偉そうな男の人だ。
あと一人、端っこに見覚えのあるような人がいるのだが、思い出せない。
あの人、誰だったかな?
アタシが名前の分かっているのは三人、後の三人は誰なのだろうか? 調べてもギガロスシリーズの関係者にはこの二人は出てこなかったので、今までのシリーズとは違った立ち位置の人なのだろうか。
「大変お待たせ致しました。これより超機動要塞ギガロスフォース、新人オーディションを開始致します。それでは、皆様にはギガロスフォースの新人アイドル、レンカ役をやっていただきます。このオーディションは地上波デジタルで放映されていて、視聴者の皆様にギガロスフォースの新作映像や河村監督のインタビューを見ていただいた後に、オーディション参加者にレンカの演技と自己アピールをしていただく事になります」
えー、聞いてないよぉ!
アタシ以外の参加者はもう事前に何をすればいいのかが伝えられていたようだ。
けれど、参加者がみんな戸惑っているように見える。
どうやら、事前課題的なものがあったのだろうけど、それと今手元に渡された資料に食い違いがあるのだろう。
この資料を見て特に何の問題もなく余裕そうな表情の娘がいた、多分あれが速瀬真衣の娘、速瀬悠美なんだろうな。
この様子を見るだけでもこのオーディションが悠美を勝たせる為に用意された出来レースだというのが分かる。
多分だが、悠美には事前から川村監督自らレンカの資料が渡されていたのだろう。
他の娘達に比べて態度が余裕すぎる。
その後、視聴者に新作映像の紹介と河村監督のインタビューが放送され、その後オーディションが始まった。
「エントリー№、1番の人、どうぞ」
「はいっ、よろしくお願いいたします」
エントリー№1番の娘は、レンカについてどのような娘か質問された際、まだ全部がわからないからこれから自分のレンカ像を作っていきたいと言っていた。
あーあ、こりゃ落ちるわな。
エントリー№2番の娘は、レンカの得意な歌と聞かれて、伝説の歌姫マイ・ハヤセに憧れているので彼女のカバーと答えた。
そんな短絡的な答えならだれでも合格出来るって、やはり落とす為に素人ばかり集めたんだな……。
エントリー№3番の娘は、ギガロスシリーズを全部見ていて、ギガロスマイナスワンのイヴ・シャロンが憧れの女性だと言っていたが、下手に知りすぎているだけに新しさに欠けると見られたようね。
これはかなり厳しいオーディションになりそう。
エントリー№4番の外国人の娘は、ギガロスのロボットの作画アニメーションについてやたらと語っていた。アタシが聞いてもチンプンカンプンだが、川村監督は彼女に興味を持ったようだ。
そして初期シリーズに参加していたソヴァの管野監督の作画についてかなり熱く語った事で、視聴者の受けは良かったようだが、真ん中の審査員が不機嫌そうな顔だったので、これは落ちたと思う……。
その後も何名ものエントリーがあったが、どれもイマイチで、ついに速瀬真衣の娘、悠美の出番が来た。
「エントリー№13番、速瀬悠美です」
「では速瀬さん、貴女にとってレンカとはどのような娘ですか?」
「はい。レンカは、どのような仕事でも笑ってやり遂げる努力家です!」
この答え方に、オーディション参加者の女の子達はみんな驚いていた。
何故なら、手元にある資料にはそのような設定は何も書かれていないからだ。
その設定が分かるのは、先程出て来た映像のアルバイト先で大根の着ぐるみを着た一シーンくらいだろう。
この設定は最初から伝えられていたのだろうか、それともあの一シーンを見ただけで答える事が出来たのだろうか、その答えはアタシには分からない。
でも、歌を歌うシーンはどの参加者よりも群を抜いて優れていた、流石は真衣の娘というべきか。
Web配信生放送ではコメント一覧は大盛り上がり、もう誰もがこのオーディションの優勝は悠美になると確信していた。
後は消化試合、そう思われていたところで……ついにアタシの出番が来た。
「エントリ№19番……え? コレ、本当にこの名前で良いんですか!?」
「はい! エントリー№19番、ミラクルエイミですっ!!」
アタシが名乗り出ると、悠美の時よりも生放送のコメントが一気に押し寄せた。
「えっと……お名前にあるミラクルエイミとは、20年前に引退したアイドルの名前でしたが、貴女は何かその関係者なのですか?」
「はいっ! アタシはミラクルエイミの娘、二代目ミラクルエイミですっ!!」
この返答に、コメントは弾幕になり、生放送ではアタシの顔が見えない程コメントのカラフルな文字で埋め尽くされた。
「ふざけた娘だな、もし本当に貴様がミラクルエイミだというなら、ワシを納得させて見せろ!!」
偉そうな男がアタシを睨みつけ、喧嘩を売って来た。
コイツ、いったい誰なのよ、アタシ、こんな奴には絶対に負けないから!
20年前、悪辣な田辺社長の妨害工作をことごとく切り抜けて来たアタシの事を舐めないでよね!!
アタシは事前に調べた情報と、先程の映像からレンカという少女を自分なりに表現し、演じた。
実は……魔法であの映像の子の動きをトレスするようにしたんだけどね、そりゃあパーフェクトな演技が出来るはずよ。
次は個人アピール、ここからは練習の成果を見せるのみ、さあ、やり切って見せるわ。
「それでは……超機動要塞ギガロス アイ・シンジテイマスカの歌を歌わせていただきます」
アタシはマイクを手に、アカペラで歌を歌い出した。
「お。おい! 今からでもいい、彼女のタイミングに合わせて伴奏を流せ!! ついでに劇場版の映像もだ!!」
「わ、わかりました!! すぐに音声と映像を用意します」
あれだけ盛り上がっていた生放送は、アタシがアイ・シンジテイマスカを歌い出すと、水を打ったように静まり返った。
そしてクライマックスの敵超巨大要塞突入シーンに入る寸前で、いきなり映像と音声が途切れた。
どうやら停電というアクシデントに見せかけて、アタシの歌を最後まで歌わせない為だろう。
これは出来レースを覆されそうになったからと見ていいのかな?
でも舐めないでよね! アタシはただのアイドルじゃない、奇跡を起こす魔法のアイドルなんだから!
「魔法で映像を出して、マジカルッ!!」
アタシが魔法を使うと、音声が流れ、劇場版の映像は空中にプロジェクションマッピングのように映し出され、途切れた生放送は再開された。
「もう……離さない……アナタをー信じてーいるからーーー」
敵の巨大要塞を破壊するシーンに合わせ、アタシは手を差し出す。
すると、アタシの手の中からフル装備のフルアーマーバトルファイターが飛行機からロボットに変形し、一気に敵に向かって全弾発射をした。
終わった、これでアタシのやる事は全部やり切った。
アタシの歌が終わると、一気にコメントの弾幕が復活し、文字で画像が全く見えない状態になっていた。
そして、審査員全員がアタシの事を拍手していた、それはなんと……あの悪辣そうな男ですら思わず拍手したくらいだ。
「大変素晴らしい歌を披露していただきました。それではこれからTVと生放送視聴者達の投票によって、上位三名が決まります、皆様、手元のアンケートにご協力お願い致します」
集計が出るまでには少し時間がかかっていた。
そして、結果発表。
上位三名は、速瀬悠美、それにエントリー№4番のレニー・ルヴェール(ロボットマニアの娘)、そしてアタシの三人だった。
「皆様投票ありがとうございました。これより上位三名による最終審査が開始されます」
アタシと速瀬悠美、それにレニーの三人は、別室に呼ばれる事になった。