田辺社長に何があったのだろうか。
昔、彼はアタシを潰そうと数々の妨害工作を行ってきたが、それを現オリンポスプロダクション総帥になった当時の若社長だった橘信也が身を張って守ってくれた。
そして、田辺社長の悪事の証拠を見つけたアタシと橘さんは、コンサートの生中継で田辺社長の黒い手帳を暴露、彼は逮捕され、そのまま芸能界やTV業界から姿を消した。
その後、田辺社長がどうなったのかまでは知らなかったが、今アタシの前にいるホームレスのおじさんがなんとその田辺社長だった。
「アンタもあのミラクルエイミの娘なら確かにアイドルになれるじゃろう。じゃが、アイドルはそんなに簡単な物じゃない、娘さん、アンタの可愛さならわざわざアイドルにならなくても良い人生が送れるじゃろう、あんな魑魅魍魎が蠢く危険な世界、入らん方が良いぞ」
「そんなこと言っていられないんです! アタシにはやらなきゃいけない事があるんです!!」
アタシは田辺社長に頼み込み、アイドルになりたいと説得した。
「そこまで決意が固いとはな……良いじゃろう、昔取った杵柄じゃ。儂のコネでオーディションを受けさせてやろう。後はアンタの実力次第じゃ」
そう言うと、田辺さんはテントの中に入り、何かの服を捜し始めた。
そして、よれよれの背広を用意すると、公園の水道で体を洗い、服装を着替えた。
その姿は……アタシの見覚えのある恰幅の良い田辺豪三とはまるで違ったが、服装は確かに当時と同じ物だった。
「さ、行くぞ。ジャパンTVへ」
「え、ええっ!?」
アタシは田辺さんに連れられてジャパンTVに向かう事になってしまった。
休憩の終わる仕事場には、ヤミがアタシの姿に変身し、戻ってくれたみたいだけど……仕事がどうなるか不安だ。
田辺さんは歩いていこうとしていたが、あまりにも距離があるのでアタシがタクシー代を出す事にした。
今月のクレジット、まだそんなに使ってなくてよかった……。
ジャパンTVに到着した田辺社長は、受付である人物を呼び出した。
「国分寺を呼んでくれんか、田辺が会いに来たと言えば伝わるはずじゃ」
「承知致しました、国分寺ですね、少々お待ちください」
受付嬢は内線で連絡をし、田辺社長が現れた事を上司に伝えた。
すると、受付嬢に何かの指示がなされたみたいだ。
「田辺様。国分寺が参ります。少々お待ちください」
アタシと田辺社長が待っていると、そこに現れたのは……かつてアタシを敵視していた田辺社長の部下の国分寺だった。
「田辺さん、ずいぶんと久しぶりですね。まさか、お金でもたかりにきた訳じゃないですよね」
「ハッハッハ、冗談が上手くなったな。実はお前に頼みがあってな、それで来てもらったんじゃ」
国分寺は眼鏡を上にずり上げ、田辺社長の話を聞いた。
「お話とは何ですか? 生憎私は忙しいので、三分で終わらせてくれますか?」
「いいじゃろう、では用件を伝えるわい。ここにいる娘を、COMACHI47のオーディションにエントリーさせてほしいんじゃ」
「そんな個人的な……えっ!? こ、この娘は!!」
どうやら国分寺もアタシに気が付いたみたいね。
「ま、まさかミラクルエイミ? しかし、当時のまま過ぎる……一体どんな魔法を使ったんだ?」
「魔法なぞあるわけなかろう、彼女はあのミラクルエイミの娘だ。どうじゃ? 話題性は大きいじゃろう」
田辺社長は国分寺プロデューサーにアタシの事をアピールしてくれた。
「ですが、COMACHI47の追加メンバーは既に決まっていて……」
「国分寺、お前の自宅……倉庫の事をバラしても良いんじゃぞ」
「!?!? わ……わかりました、実は……ある番組の新人オーディションがありまして、そちらにでしたらエントリーさせる事は可能です」
「そうか、わかった。出来るだけ早く頼むぞ」
アタシは国分寺プロデューサーが拳を握りながら震わせているのを見た。
昔アタシが魔法で忍び込んだ国分寺プロデューサーの自宅の倉庫には、田辺社長の手下として彼が動いた際の悪事の証拠が山積みになっている。
だが、アタシが壊しちゃったせいで鍵が無く、証拠隠滅したくてもこの倉庫自体が開けないので彼にとってこれがアキレス腱ともいえるのだろう。
「もう用は無いですね、それではお帰り下さい!!」
「ああ、もう帰らせてもらうとするわい、儂にはこの空気は居心地が悪い」
「フン、もう来ないでほしいものだな!」
どうやら国分寺プロデューサーと田辺社長は喧嘩別れしたような感じになってしまった。
しかし、これで本当にアタシはアイドルとして再デビューできるのかな?
アタシはタクシーでジャパンTVから田辺さんの住む公園に戻って来た。
これでタクシー代二倍だ、クレジット枠、今月分これで終わりかなー……。
「娘さん、儂の出来る事はしてやった。これから先はアンタの実力次第じゃ、あのアンタの親戚のお姉さんに感謝するんじゃな」
「は、はい……ありがとうございます!!」
すっかり夜も更け、アタシがどうにか誰も残っていない会社に戻ると、そこには28歳のアタシの姿をしたヤミがものすごい形相で睨みつけて来た。
「エイミはん!! アンタどこほっつき歩いとったねん!! ウチ大変やったんやで!!」
「ご、ごめん。ちゅーるあげるから、勘弁して」
どうやらヤミはアタシの姿のまま何をしていいのかわからず、理不尽な上司の長い説教を無駄に聞かされた挙句、居残りで何もせずにその場にいるように言われていたらしい。
この会社、つくづくブラック企業だな。
アタシがヒカリとヤミを連れて家に帰ると、家のパソコンにメールが入っていた。
変身したままの姿だと、コンビニに買い物に行くのも一苦労だ、アタシは変身を解除し、そのままベッドに倒れ込んだ。
やっぱり変身した後は疲れがドッと来る、アタシ……もう若くないんだな。
少しベッドでゴロゴロして体力を回復させたアタシは、パソコンに届いていた新着メールを確認した。
差出人は、オリンポスプロダクション採用担当となっていた。
「えっと、なになに。ミラクルエイミ様、この度はエントリーありがとうございます。貴女は新アニメ企画、超機動要塞ギガロスF(フォース)の新人オーディション参加資格を受け取りました。このメールフォームに必要事項を明記の上、三営業日後までにご連絡ください」
「エイミちゃん、やったやん。オーディション受けれるって」
「そうだぞっ! ガッツで乗り切るんだ。元気があれば何でもできるっ!!」
ヒカリとヤミがアタシの事を誉めてくれた。
田辺社長のおかげだ!
アタシは新アニメ企画の新人オーディションに参加出来る事になった。
これでようやくアイドルとしての再デビューの一歩を踏み出す事が出来たのね!
アタシはエビグラタンを食べながらストロングチューハイを流し込み、パソコンで今度アタシが新人役としてオーディションに参加するアニメ・超機動要塞ギガロスのシリーズについて調べる事にした。
そういえば、超機動要塞ギガロスって聞いた事あるわね。
えっと、確かアタシとトップアイドルの地位を巡って争ったライバルの……速瀬真衣が歌姫役で出演していたアニメだったはず。
そうか、このアニメ、速瀬真衣がデビューしてトップアイドルになったキッカケの作品だった!
その後、アタシがデビューするまで、彼女がこの作品のおかげでトップアイドルの地位をキープしていたのよね。
でも、今度はアタシがその作品の新作オーディションを受ける事になるなんて、思ってもいなかった。