お風呂の中でアタシは今後どうしようか考えた。
アタシの所に現れたヒカリとヤミ、魔法界の住人であるこの二匹はアタシに魔法のステッキを渡し、再び魔法の力で夢と希望を集めてほしいと言っている。
今のアタシにはそんな力は無いといったけど、魔法を使ったら若返る事が出来た。
でもこの若返りは、魔法のおかげだから、コレを断ればもう二度と若い姿に戻る事は出来ない。
だからといって、若返ったら今度はまたアイドルをやって夢と希望の力を集めなければいけない。
あーあ、どうしたもんだろ。
本当なら毎日エビグラタンを食べてゴロゴロと寝て過ごしたい。
でも、そんな生活が出来るワケも無いので、働くしかないのよね。
アタシは風呂から上がると、ヒカリとヤミに話した。
「魔法のアイドル、やっても良いけど……」
「流石や、エイミちゃん、その言葉待ってたでぇ」
「エイミっ! ガッツだ! 元気があれば何でもできるっ!!」
相変わらずだな、この二匹。
でも、魔法で一時期でも若返る事が出来るなら、アタシはまたやりたい事が山ほどある。
それなら魔法の力で夢と希望を集める代わりに、アタシがやりたかった事をやらせてもらおう。
そうそう、世の中はギブ&テイク、アタシは魔法の力で若返らせてもらう、そしてヒカリとヤミにその代わりに夢と希望の力を集めて渡してあげる、以前やった事だからそんなに難しくはないだろう。
アタシはパソコンでアイドルの新人オーディションについて検索してみた。
「えっと、オリンポスプロ……新人募集……っと」
オリンポスプロダクションは業界最大手の芸能事務所だ。
実はアタシはかつてそこに所属していた、けれども一度もギャラをもらった事は無かった。
何故なら、アタシは小学生と魔法のアイドルを兼任していたので、印税やギャラの事を知らなかったからだ。
でも、今度はきちんと所属してギャラをもらわないと。
ブラック企業の副業になるくらいは稼がせてもらおう。
アタシはパソコンでオリンポスプロダクションの新人エントリーシートを見つけ、入力する事にした。
「エイミちゃん、このけったいな箱は何やの?」
「ヤミ、これはね……パソコンと言って、何でも調べる事が出来るのよ」
「まるで魔法の箱やな、まさか地球にもこんな魔法の道具があるとは思わへんかったで」
「アハハ……」
本当はパソコンについて詳しく説明しているとかなり大変なので、アタシは笑ってごまかした。
さてと、エントリーシートにはどう書こう。
年齢は……少しサバを読んで17歳にしておくか。
本当は魔法で若返る事が出来るのは10歳程度だけど、17も19も今のアタシからしたら大して変わらない。
それなら、今から応募するアタシは、ミラクルエイミの娘って事にしておこう。
そうそう、もしミラクルエイミが当時18歳だとしたら20年経った今なら38歳って事になる。
だから当時もしミラクルエイミが子供を産んだのが20歳だとしたら、今18歳の子供がいても特におかしくはない。
そうだ、この設定で行こう! 今のアタシはミラクルエイミの娘、その設定なら合格間違いなし!
身長は……リンゴ10個分 リンゴ一つが14センチ~15センチとしたらおかしい設定じゃない。
体重は……550トン ってのは冗談で、身長-110がベストとしたら40少しかな。
写真は肩パットの入った就活用スーツで撮ったスピード写真で、バリっとキャリアっぽく、それでいながらぶりっ子ポーズ、これで完璧!
「ウチ……嫌な予感がするんやけど」
「エイミっ! バッチリだ! ガッツで乗り切るぞっ!!」
――だけど、結果はそんなに甘いものじゃなかった。
「えー、落選!?」
「せやな、ミラクルエイミ様、大変申し訳ございませんが厳正な書類審査の結果、貴女は採用に至りませんでした、これからのご活躍をお祈り申し上げます、か」
典型的なお祈りメールだ。
そんな、アタシなら間違いなく書類審査合格ですぐにトップになれるはずだったのに……。
「エイミちゃん、ウチ……テレビ見てて分かったけどな、アンタ……今の時代からしたら古臭いねん」
「えーそんなぁあー!!」
ヤミのやつ、そこまで辛辣に言わなくても……でも、そういえばそうかもしれない。
アタシがトップアイドルをやってた時は20年前。当時はソロアイドル全盛期の時代で、その後に出て来たネコの娘倶楽部が大ブレイク、その後グループアイドルの時代になり、今はCOMACHI47がアイドルの一番人気だ。
最近ブラック企業で働いていて、テレビをほとんど見ていないアタシでも街で聞く名前がCOMACHI47だ。
ネコの娘倶楽部やCOMACHI47はオリンポスプロダクションの所属アイドルユニットだ。
今の若い女の子達は彼女達に憧れ、アイドルを目指している。
反対に言えば、オリンポスプロダクションの目に入らなければ、アイドルとして成功するのは難しいといったところか。
あーあ、アタシ昔オリンポスプロダクションのイケメン社長にプロポーズされてたのよね、もし受け入れていれば、社長夫人も夢じゃなかったのに……。
でも今のオリンポスプロダクションって良い噂を聞かないのよね、アイドルを使い捨てにするとか、社長がアイドル全員に手を出しているとか……黒い噂が絶えない。
でもエントリーシートに落選、仕方ない。
ここは最近台頭してきたWEB系配信者アイドルでもやってみようかな。
とにかく明日も仕事だ、早く寝ないと……。
アタシは次の日、出社後のお昼休みに近くの公園に行った。
すると、そこには先日のホームレスのおじさんがいて、テントの前を掃除していた。
「娘さん、アンタなんじゃろ。儂のテントを直してくれたのは」
「い、いいえ。違います」
どうやら本当に魔法を使ったところは見られていなかったみたいだ。
「どうなされた? 顔に悩みが書いてますわい」
「え、アタシそんな事」
「儂は長年人間の顔を見て来た、アンタは今悩んでいるんじゃろう」
このおじさん、何者なんだろう。
アタシは従妹の子がオリンポスプロダクションのエントリーシートを送ったけど、落選したという流れで話をしてみた。
「ほう、オリンポスプロダクションか、懐かしい名前じゃな」
「おじさん、知っているんですか」
「アンタには助けてもらった恩がある、その娘さんを連れて来なさい、なに、悪いようにはせんわい」
アタシは魔法で変身し、親戚のおばさんに言われておじさんに会いにきたという形で話をした。
「あ、アンタは……まさか、ミラクルエイミ! やはり先日のアレは儂の見間違いじゃなかったのか」
「おじさん、ミラクルエイミを知ってるんですか?」
「……そうじゃな、よく知っておるわい。なんせ、儂を破滅させた娘じゃからな」
そう言うとおじさんは太い眉に鋭い目つきでアタシを睨みつけて来た、まさか……この人は!?
しかしおじさんはそのすぐ後にまた柔らかい表情になり、スルメをかじった。
「なに、儂はもう恨んではおらんわい。全部儂の自業自得じゃからな。しかし懐かしい……まさか今の時代にミラクルエイミを見られるとは思っておらんかったわい」
「あ、あの……ミラクルエイミはアタシのお母さんです!!」
これは口から出まかせだ、だが……この事を聞いたおじさんは、口にくわえていたスルメをあんぐりと口を開けて落としてしまった。
「ま、まさか……娘さん、アンタが……ミラクルエイミの娘じゃというのか?」
「おじさん、お母さんを知っているって、アナタはいったい誰なんですか?」
「儂は……田辺豪三、かつて……タナベプロダクションの社長じゃった」
な、何と……アタシが話をしていた相手は、かつてミラクルエイミをあらゆる手で潰そうとしていた悪徳プロデューサーの田辺豪三だった。
確かに、田辺社長なら芸能界に強いコネを持っていてもおかしくはない、彼に頼んでみるのも一つの手かな。
「お願いです、田辺さん。アタシをアイドルにしてください」
「残念じゃが断る。儂はもう芸能界はうんざりなんじゃ。ここでその日暮らしをしながら夜空を見る、すると人間の世界の喧騒がいかにつまらんものか、儂はここでのんびりと暮したいんじゃ」
アタシの目の前にいる田辺さんは、かつてアタシを執拗に潰そうと画策していたあの悪辣な田辺社長とはまるで別人のように見えた。