バーレは乾杯の音頭をレオンに譲ってくれたが、それでもムードメーカーの彼だ。彼が中心となり、酒の席での話題が進んでいく。
その中でも皆の気を引いたのは、お互いの職業と称号についてだ。
「おれっちの称号は見た目どおりに『タフガイ』だ。ほんと、そのまますぎて、いやになっちまう」
「へぇ~。でも、いいじゃない。私なんて『ドジっ娘』よ。エクレアみたいに見た目そのまま、頭脳明晰にしてほしかったなー」
バーレはパーティの壁役として、ぴったりのタフガイ。肉壁戦士として、これ以上、しっくりくる称号は無いといえた。
ミルキーは魔法使い(ドジっ娘)だ。失礼ながら、確かにそんな雰囲気を身に纏っている。思わず「ぷっ」と吹き出してしまうと、ミルキーが可愛らしく、唇を尖らせてきた。
(んもう! 頭をなでなでしたくなるなぁ! でも、そんなことしようものなら女神様から神罰を喰らっちまうしなぁ!)
ミルキーの頭を撫でることはやめて、微笑ましく、彼女の不満げな表情を見ていた。するとだ、レオンの席から右斜め前に座るエクレアがおずおずと右手をあげている。
視線をミルキーからエクレアへと移動させた。エクレアはこちらと視線が合うと同時に、テーブルへと顔を向けた。彼女の顔が真っ赤になっていたのを、レオンの目は捉えていた。
「あ、あたし……頭脳明晰じゃなくて、セクシーギャルです」
「「「えっ?」」」
エクレア以外の3人の声が揃った。気持ちを共有した声がエクレアに届くや否や、彼女は身体を縮こませていく。
(聞き間違いだよな? 瓶底メガネにぶかぶかの僧侶服だぞ? エクレアは……)
レオンはまじまじとエクレアを見た。他の2人もレオンと同じく、エクレアに注目している。
その時であった。レオンに女神からの天啓が降りた。彼は表示された内容に驚愕してしまう。その天啓をそのまま声に出してしまった。
「嘘だろ!? 受付のお姉さんよりも大きい!?」
「どういうことだ、レオン、おれっちにわかるように言え!」
「聞いて驚くなっ、バーレ……。エクレアはGカップだ!」
「まじかよっ! じゃあ、ぶかぶかの僧侶服を着ているのは……」
バーレがごくりと息を飲んでいる。その音がこちらの耳に届くほどだ。レオンはゆっくりとバーレに頷いた。
「そうだ。これは擬態だ。やはり……受付のお姉さんの従妹だってのは本当だったんだ!」
「うひょぉ! セクシーギャル万歳!」
嬉しさのあまり、レオンは目の前の席に座るバーレとテーブル越しにハイタッチをする。そうした後、右へと振り向き、この昂る気持ちを右隣のミルキーと分かち合おうとした。
「ぶべぇ! そこ人中!」
「んもう! デリカシーのないことをしないのっ!」
本日、二度目となる人中への正拳突きを喰らうことになった。椅子に尻を乗せたまま、横倒れになっていくしかなかった……。
涙目になりながら、鼻の下を指で撫でる。そうしながら、身体を起こし、椅子へときちんと座る。
へらへらとうわの空になりながら、エクレアがGカップであることを喜んでしまっていた。これではいかんと思い直し、女性陣へのフォローを始めることにした。
「まあでも、俺は惚れた女性のサイズがそのまま、自分の好みになるタイプなんだよね」
「チッ。いい子ちゃんぶりやがって……」
バーレがさも面白くないといった表情になっている。
「うん。女性を胸で判断するのはよくないもんね。ちょっと安心した」
ミルキーの表情から怒りの色がスッ……と消えていくのが見て取れた。
さらには今まで、顔を伏せていたエクレアが顔をあげて、こちらをジッと見てくる。恐れと警戒心を抱く色をした瞳をしている。
だが、数秒ほど後には、目の力が柔らかなものに変わっていった。そして、ホッと安堵している。
「あたし、胸の大きさだけで見られたくないんです」
「そ、そうだよな! あははっ、ほんとバーレは困ったやつだ!」
どうやら、自分は言葉選びを間違えていなかったようだ。そのことを女性陣の仕草から感じ取る。
間がもたないので、「くれぐれもバーレと一緒にしないでくれよな?」とさらに保険の言葉を口にした。
その途端、バーレの視線が鋭いものに変わる。心臓を鷲掴みにでもしてやろうかといわんばかりの目力だ。
(申し訳ない。ヒップブラザーは解散になるかもしれん。だが、俺はお前に罪を擦り付けたい、許せ!)
スッ……とバーレと視線を合わせないようにした。
そこからは、それぞれに抱え込んでいる悩みを打ち明けることになる。こういう時のトップバッターは安心安定のバーレだ。彼は妹の素晴らしさをいかんなく言って見せる。
「んと……生き別れの妹ってのは設定だったのか? バーレ……」
「当たり前だろっ。あくまでもそういう属性に萌えるってやつ」
「えーーー、次の方、どうぞーー」
「待てっ! もっと言わせてくれよ!」
「黙ってろ、バーレ! 真剣に聞いてた俺が悲しくなるわっ!」
バーレが言うには、故郷に実の妹を置いてきて、ひとり、新しい世界で真の生き別れの妹を守るために冒険者になったそうだ。
はっきり言って、聞いているだけで頭痛がしてくる。
次にエクレアがおずおずと手を挙げて、発言権を求めてきた。バーレが「エクレアちゃん、どうぞー」と促す。エクレアが背中を丸くなせながら、ぽつりぽつりと勇者とのごたごたを言ってくれた。
「そんな辛い目に会ったのか、エクレアちゃん……」
「はい……ヒモならまだマシなほうです。別れるなら死んでやるー系が一番キツくて、その次が俺、ドエムなんだ。なんぼでも踏んでくれていいっていう変態でしたね……」
「お、おう。ちなみに俺ってどれくらいの変態?」
「んーーー。まだマシな方かもしれません」
ホッと胸を撫で降ろしてしまった。エクレアが今まで付き合った勇者は3人だったそうだ。
その3人とも見事なダメンズだ。エクレアはダメンズを引き当ててしまう運命の星の下に生まれたのかもしれない……。
続いて、ミルキーの番となった。ミルキーの話からはなにひとつ、決定的な情報は含まれていないと、レオンは直感で感じ取っていた。
「んと……色々とね、あってね? それで冒険者になるしかなくなっちゃって。家から飛び出してきて……」
「ミルキー……皆まで言うなっ! いつか俺に心を開いた時に言ってくれっ」
「えっ、いいの?」
「ああ……なんかすっごくシリアスそうな話だからっ。お酒の席で重い話するのって、ミルキーも嫌だろ?」
「ありがとう、レオンさん……言える時になったら、言うねっ!」
「では、こういう飲み会の恒例ですが、そろそろロシアンタコ焼き大会でーす!」
バーレが空気を変えるためにも司会進行を務めてくれた。ハズレのタコ焼きを引いたそいつが自分の言える範囲で隠している秘密を言う、ミルキーにも配慮したルールだ。
ロシアンタコ焼きのハズレといえば、ワサビたっぷりであろう。サソリでーす! と自己主張が激しすぎるタコ焼きはセーフだと思えた。
ズルをしている自覚はあるが、善行スクリーンを通じて、女神にそれとなく答えを聞いてみた。
A:サソリ:☆☆☆
B:ワサビ:★★
C:タコ。
D:コンビーフ。
(あっ普通にワサビ入りもあるわけね。でも、女神様のお勧めはサソリか。そりゃ、こんなゲテモノ、ミルキーたちに食べさせるわけにはいかないからな)
サソリ焼きを食べるとバーレが「バーカバーカ! それがハズレだよ!」とおちょくってきた。ぐぬぬ……と唸ったが、後の祭りだ。
レオンは自分が抱えている秘密の1つを言う前に、しっかりと準備に入る。虚空に左手を当て、軽く横へとスライドさせた。収納魔法だ。
虚空の先からオレンジのサングラスと白の皮手袋を取り出し、それを装着する。
さらにはテーブルに肘をつけ、ものありげな感じで、両手の指を絡めつつ、唇の前へと持ってくる。
世間で言われるゲンドウポーズの完成だ。その途端、テーブル席の空気が厳かなものに変わっていく。
(空気は整った……)
レオンを見つめてくる3人がごくりと息を飲んでいる。今か今かと、こちらの発言を待ち構えてくれている。
「聞いてくれ……俺は竜皇の珠玉が欲しい」
出来る限りガラガラ声で言ってみた。
「なん……だと!? 三種の神器のひとつと言われているアレをか!?」
正面に座っているバーレがガタッ! と椅子を揺らして、おののいている。さらに彼を追い詰めるべく、口を開く。
「竜皇の珠玉だけじゃないぜ? 海皇の三叉槍、白銀狼の爪、全てが欲しい!」
「どうしてだ!?」
「……聞いて驚くな?」
「お、おう……」
さあ、後は金目的だと言えば、どっかんばっかん大ウケの予定だった。しかし、それを言う前に右斜め前に座るエクレアが瓶底メガネをクイッと動かし、それを光らせた。
それだけではなく思い切り、ため息をつきながら、手を挙げてきた。
「発言を許す、エクレア」
「はい、司令。ずばり……換金目的ですね?」
「……」
(なんで、オチを貴女が言うんですかーーー!?)
鈍い汗がだらだらとあふれ出す。ものありげなゲンドウポーズから、指一本、動かせなくなってしまった。沈黙が肌に突き刺さる。