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第17話:結成会(1)

 レオンたちはリッチを倒した後、冒険者ギルドへ戻ってきた。受付のお姉さんにリッチが出現したことを言うと、大変驚いていた。


 追加の報酬を出すのでしばらくここで待ってほしいと言われた。お姉さんは忙しそうに受付の奥へと消えていってしまう。


「んま、そうなるよな。さてと……報酬金をもらったら結成会をやろうか。リッチ討伐おめでとうはそのついでってことでっ!」

「レオン……リッチはけっこうな大物だぜ? お前の器のデカさには驚かされるわ」

「バーレ、そうなの? 俺の感覚って狂ってる?」

「おう、狂い過ぎぃ! 今まで、どんな人生送ってきたわけ?」

「俺、出身地で悪魔をこれでもかとしばいた実績持ちだから、リッチならいけるかなーって?」

「まじかよっ! 悪魔をぶっとばしたの? お前、なんで見習い勇者(むっつりすけべ)なわけ!?」


 バーレが嬉しそうにバンバンッと背中を叩いてくれる。こちらとしては照れ笑いするしかない。少し後ろに待機しているミルキーは鼻息をフンスフンスと吹き荒らしている。


 エクレアは当然、面白くなさそうに「ケッ!」と汚い言葉をぶつぶつと小声で吐いている。


 エクレアからわざとらしく視線を外し、バーレとミルキーの2人と談笑しあう。時折、エクレアがミルキーに耳打ちしている。


 エクレアに何を言われているのかと思うと、背中がゾッとするが、知らないのも幸せという言葉がこの世の中にはある。


 しかしながら、ミルキーが「そんなことないよー」と言っている。どうやら、ミルキーが自分のフォローをしてくれているようにも見える。


 考えすぎることはよくない。時間を取って、誤解を解いていけばいいだけなのだ。


 そうこうしている間に、受付のお姉さんが戻ってきて、革袋に詰まった報酬金を渡してくれた。


「初依頼達成、おめでとうー! じゃんじゃん、飲んで行ってね!」


 受付のお姉さんはそう言うと、酒場コーナーを指差してくれた。皆でうんうん! と頷き合った。


 受付のお姉さんにぺこりとお辞儀をした後、さっそくとばかりに酒場コーナーへと仲間たちとともに向かう。


 冒険者ギルドの中には主に3つの施設がある。冒険者が依頼を受ける受付、酒場コーナー、そして用途不明のステージがある。


(あのステージで踊りたい……ダメか……俺の踊りは魔物を呼んでしまう! でも踊りたいよぉ! ソウルが悲しんでるよぉ!)


 お世話になったオダーニ村に魔物を呼びこんだのは自分だという罪悪感がレオンの心を悲しく震わせた。


 レオンはそのステージを横目にしながら、仲間たちとともに酒場コーナーへと向かう。


 酒場コーナーには木目調の茶色いテーブルがいくつか並んでいる。空いている長方形のテーブルに戦士バーレが背もたれ付きの木製の椅子を二つ持ち込んでくれた。


 もともとテーブルに添えられていた椅子と合わせて4つになった。その椅子にそれぞれが座る。


 レオンの右隣は魔法使いミルキーが座る。正面に戦士バーレ、右斜め前に僧侶エクレアが着席した。


「俺の目の前に筋肉モリモリの暑苦しい褐色男子がいる。エクレアとチェンジだ、バーレ」

「贅沢言うな。エクレアちゃんが同席してくれるだけマシだと思えよ」

「そんな!? じゃあ、ミルキーと席を交代するのはどうだ!?」

「アホか。なんで男と恋人並びしなきゃならん。おれっちが嫌だ」

「ぐっ! 視界の8割がバーレで埋まる! 助けて、女神様!」


 バーレがやれやれと肩をすくめている。こっちがわがままを言っているのは十分に理解している。


 隣にミルキーが座ってくれているのはありがたい。でも、それでもだ。基本的にこっちは前を見ることになる。


 そうすれば、自分の意識は隣のミルキーではなく、嫌でもバーレに持っていかれてしまう。


(悩ましい! エクレアが俺に警戒心を抱いているから、こういう席順になるのだがっ!)


 レオンの心情を無視して、バーレが席に近づいてきたウェイトレスに注文を頼んでいる。レオンは軽く首を左右に振り、邪念を振り払う。


「この国じゃ、16歳から酒を飲めるけど……女性陣はどうするんだい?」

「私はカクテル系で」

「お、ミルキーちゃん、いける口なのかい?」

「うん。ビールはまだまだ慣れてないけど、カクテルなら」

「うっし、エクレアちゃんはどうする? 同じくカクテル系?」

「そうします。でも、アルコール度数が高いのは苦手です」


 バーレがてきぱきと女性陣からお酒の好みを聞き出している。レオンはむっとした顔つきになっていた。バーレの仕草からは女性慣れしていることがはっきりと見て取れる。


(くっ! この陽キャが! 俺も気さくに話にまざりたいよぉ!)


 自分はといえば、陰キャのように口をもぐもぐとさせている。しゃべりだす機会をバーレに完全に奪われている形となっていた。


「んじゃ、お姉さん。モスコミュール1つ、ジンジャーエール1つ、あと生中2つね。あと適当に食べ物がほしい。それと定番のロシアンタコ焼きも忘れずにな」

「あい、わかりましたー! 少々、お時間いただきますねー!」


 注文を取り終えたウェイトレスが腰を軽く左右に揺らしながら、テーブルから離れていく。バーレが身を乗り出しながら、ウェイトレスのお尻と頭の高さを同じにしている。


(バーレ、お前……尻派か? ふむ……わかりあえそうだっ!)


 レオンはたわわに実ったおっぱいは嫌いじゃない。むしろ、好きなほうだ。しかし、その部分よりも、自分は腰からお尻と続き、ふとともへと降りていくあのラインが大好きだ。


「バーレ。勘違いしていた……」

「何をだよ?」


 こちらが声をかけたことで、バーレが身体を起こしてきた。真面目な話はよしてくれという表情になっていた。


 こちらはバーレを咎める気など、まったくない。うんうんと感慨深く頷き、さらには腕組みをしてみせる。


「お前も尻が好きなんだ……な?」

「おっ? ここに同志がいる!?」

「そうだ、俺たちは同志、いや、ヒップブラザーだ!」

「ははっ。なんだよ、心配させやがって! じゃあ、レオン、お前もじっくり観察しようぜ!」


 バーレとともに酒場コーナーのカウンター越しに注文を奥へと届けているウェイトレスを見ることになった。彼女は身を乗り出しているために、お尻をこちらに突き出す格好となっている。


 レオンはバーレとともに鼻の下を伸ばしながら、しばし、肉付きのよいウェイトレスのお尻を丈の短いスカートの上からじっくり眺めることになった。


(さすがはムードメーカーだ。陰キャな俺ひとりだと、こうはいかん。バーレ、お前に善行ポイントを進呈しよう)


 その時であった。善行スクリーンが開く。さらには頭の中で『たりら~ん♪』という陽気な音が鳴った。


・今回、貴方がバーレに譲渡した善行は10ポイントです。

・これまでの蓄積は66ポイントです。

・女神からのコメント:善行ポイントは人々に幸せを分け与えることができるの。貯まった善行を分け与える行為は、より大きな善行に繋がるよ♪


(えっ、ちょっと待って!? その善行ポイント、俺が必死に集めてるやつですよ!? 他人に分け与えれるってどういうことなの!?)


 レオンは善行スクリーンを見つめながら、目を白黒させてしまう。それは当然とも言えた。レオンから言わせれば、一度に得られる善行ポイントは物足りない。


 そうであるのに、少しばかり、冗談交じりに善行ポイントを譲ってもいいかと思った次の瞬間、自分の善行ポイントがバーレに移動してしまった。


(そんなのってないよぉ!)


◆ ◆ ◆


「お待たせしました、ご注文の品となりまーす、ごゆっくりねー!」


 ウェイトレスがテーブルの上に次々と飲み物と料理を並べていく。冒険者ギルド内の酒場コーナーということもあり、こってりとした肉料理というものはなかった。


 どちらかといえば、喫茶店といった軽食屋で出される料理ばかりである。サンドイッチ、唐揚げ、フライドポテト、サソリのハサミと尻尾が飛び出たタコ焼き。どれも……。


「おい、バーレ! なんでタコ焼きなのに、サソリ焼きが混ざってんだよ!」

「あー? おれっち、ちゃんと言っただろ。ロシアンタコ焼きって。ツッコミはそこで入れてくれよ」

「えっ? 都会のロシアンタコ焼きって、サソリが入ってるの? 俺が間違ってる?」


 皆でゲラゲラと笑いながらグラスをかちんと鳴らし結成会は始まった。

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