「今すぐに受けれて、その日に帰ってこれる依頼ねー。ちょっと待ってねー」
受付のお姉さんはさすがに手馴れている様子で受付の方へと、ひとり向かって行く。その間に、それぞれに得意なことを話し合っておく。
肉壁戦士バーレはデカい長方形の盾と手槍でモンスターの注意を引くためのスキルをいくつか持っていることが判明した。
「んま、ヘイトを集めるやつだ。言わなくてもわかるよな?」
「女性陣のヘイトを集めてくれ。女性陣の好意は俺の方で集めとく」
「レオン、お前……戦闘中、俺に守ってもらえるとか思うなよ?」
「お、おう……」
バーレに睨まれてしまった。失敗失敗……と思いながら、次に魔法使いミルキーについて聞いた。
ミルキーが言うには氷系の魔法が得意ということであった。だが、何故、氷系なのかは詳しくは教えてくれない雰囲気を醸し出している。
(うーーーん。得意魔法ってのは家系的なものも絡んでくるからな。ミルキーはそこをごまかしたいんだろうなぁ)
話題はミルキーからエクレアに代わる。エクレアはこちらに目を合わせず、ミルキーにぼそぼそと耳打ちしている。発言するのはミルキーだ。
「んっとね。エクレアは回復魔法だけじゃなくて、精霊とも会話できるんだって。中級程度の精霊術も使えるって、本人も言ってる」
「ふーーーん。じゃあ、
こちらが質問すると、その度にエクレアがミルキーの耳へと唇を近づかせて、こちらに聞かれないような声量でごにょごにょ話している……。
「エッチな恰好をしてるのといたずら好きだから、あんまり呼び出したくないって」
「ぐあああ! 呼んでほしい! ぜひとも、風系に弱いモンスターの依頼を受けたい! それといたずらな風も吹かせてほしいっ!」
「エッチなのはいけないだそうですよ」
とりあえず、最初の獲物は決まった。風で吹き飛んでいってしまうようなモンスターだ。これは絶対に外せない。
仲間内の役割が簡単ながらも決まる。そして、頃合いを計ったかのように受付のお姉さんが戻ってきてくれた。
「ここから歩いて1時間ほどのところに共同墓地があるの。そこに昼間からゴーストが出るから退治してほしってのがあってね」
「ふーーーん。昼間から出るゴーストか。手ごわい相手だったり?」
「ううん。害が無いから放置されてるレベル」
「ズコーーー! それ、俺たちがやる必要あります?」
「パーティを組んだばかりだから、ちょうどいいんじゃないかな? ほら、連携とかの確認用だと思えばいいかな? 一応、報奨金も出るわよ」
「うーーーん。もっと大物が良かったんだけどなぁ。リッチとかいうアンデッドの親玉」
「さすがにリゼルの街中でリッチはでないと思うわよー?」
――リッチ。死者蘇生の魔法を使いこなす大魔法使い。ただし『元』がつく。その理由はリッチ自身が死霊だからだ。自身が使う魔法が強力すぎたがゆえに、肉体が失われた後も自身の魂すらも現世へ縛ることになったマヌケである。
レオンを先頭にして、さっそく、そのゴーストが昼間から出るという共同墓地へと向かう。レオンたちが共同墓地の敷地に入るなり、日が高いというのに、急に辺りが暗くなってしまう。
「えっ!? まじでこれ、リッチがいるんじゃねーの!?」
「んな、バカな……ここはリゼルの街中の外れだけど、リッチが入り込んでたら、もっと大ごとになってるって」
「でも、ゴーストたちが俺たちを見て、ほくそ笑んでるんですが? バーレ、貴方の感想を一言」
「ヤバイ匂いがプンプンしてきた。よし、ミルキーちゃん、エクレアちゃん。レオンを残して逃げよう!」
「てめーーー! さっそく俺だけを犠牲にする気かーーー!」
「フラグ回収って大事だろ?」
バーレはそう言いながらも、虚空から大盾と手槍を取り出して、女性陣の前を陣取ってくれている。
さすがは自己紹介で可愛い女の子を守りたいがために、肉壁戦士となったバーレだ。女性陣のことは任せておいていいのが、彼の風貌から明らかであった。
「んじゃ、初めての冒険といきますかっ! おい、ゴーストを操ってるやつ、でてきやがれ!」
共同墓地のあちこちから、ゴーストたちが現れた。足は無い。下腹部の中途半端なところから上だけがある姿だ。
ゴーストたちは「うらめしや~~~」とゴーストならではの声をあげている。しかしながら、そいつらはこちらへと視線を向けてはくるが、一向に襲ってくる様子はない。
レオンの目から見て、統率が取れ過ぎているように感じた。ゆらゆらと揺れながらも、その場に留まり続けていた。
まるで何かを待っているかのようだった。そして、その何かの気配を自分のすぐ後ろ側で感じてしまう。
「ふふふっ……可愛い坊やね。筆降ろししたくなっちゃうわぁ~」
「こいつ、直接、脳内に語り掛けてきた!? いやん! 冷たい手で股間を鷲掴みしないで!?」
不意を突かれ、股間を半透明な手で鷲掴みされてしまった。ひんやりとしたヒトの手の感触が服越しに伝わってきて、それだけで腰砕けになりそうになってしまった。
「レオン! 気をつけろっ! ドレインタッチがくるぞっ!」
「えっ? 喰らうと気持ちよくなるやつだっけ!? 喰らってもいいやつだよね!?」
「馬鹿野郎! 一か月はベッドの上で眠ることになるぞっ! リッチ、こっちを見やがれ!」
バーレが大盾の表面をガンガンと手槍で叩いている。肉壁戦士が得意とする自身に敵のヘイトを集中させるスキルを発動させてくれた。
リッチが寂しげな表情で、さらには惜しむようにこちらから身体を離してくれた。
「バーレ! お前、このリッチ、女性だぞ! お前、それで本当にいいのか!?」
「レオン、お前、こんな時になんてことを言ってやがる!」
「俺はな……どんな時でもシリアスをぶっ飛ばしたい! 相手が死体なだけに、そうしたい!」
「えっと……死体としたいを掛け合わせてる? 何をしたいの? 死体とエッチ?」
「ミルキー、解説しないで!? あと、そういう特殊性癖持ちじゃありませーーーん!」
ミルキーとエクレアがドン引きしているのが手に取るようにわかる。汚名は返上しなくてはいけない。
必死に考える。相手はこの世に未練を残した女性リッチだ。それを解消すればいいだけのはずだ。
「俺の股間を好きなだけ揉め! それが貴女の望みであれば!」
「うふふ……可愛い坊や。じゃあ、遠慮なく……ドレインタッチ」
「うひょぉ! きもぢいいーーー!」
正直言って、股間から魂をそのまま引っこ抜かれそうなほどに気持ちが良かった。このまま、イッてしまってもいいとさえ思えてくる。
だが、そんなことはさせまいと、仲間たちが動いてくれた。ミルキーが指揮棒状の魔法の杖をこちらに向けてくれた。
「レオンさんをやらせはしません! アイス・ボール!」
ミルキーの頭上にスイカほどの大きさの氷塊が出現した。それが見る見るうちにスピードを上げて、リッチへと向かって行く。
しかし、その氷塊はリッチの身体をすり抜けて、見事、こちらの背中を痛打した……。さらには勢いよく、氷塊とともに墓標を壊しながら、共同墓地を転がり回ることになった……。
「レオンさん、ごめんなさーーーい!」
「ふっ……拘束を解いてくれて、ありがとうな?」
ミルキーに心配をかけまいと、気丈にサムズアップしてみせた。ミルキーはホッと胸を撫でおろしている。そんな彼女に入れ替わるようにエクレアが前へと進み出てきた。
「もう……何をやっているのですか、ふたりとも。ゴースト退治と言えば、僧侶にお任せください。ホーリー・ブレス」
エクレアが左手に聖書を持ち、右手をリッチに向ける。その右手から白い清浄なる霧が噴き出てきた。
暗くジメっとした空気によって、共同墓地は支配されていたが、エクレアの聖魔法により、どんどん浄化されていく。
「ふふっ。油断してたわ。これほどまでに強力なホーリー・ブレスを喰らったのは久方ぶりよ」
「エクレア……もっと、そのブレスを吹きかけろっ! リッチの服がどんどん溶けていってる! うひょおおお!」
「あの……勇者さん、黙ってもらえますか? ホーリーブレス」
「あちーーー! なんで、俺、ホーリーブレスでダメージを受けるわけ!?」
エクレアが汚いものを見るような目で、こちらに右手を向けてきた。さらにはその右手からこれでもかと白い霧を噴射してきた。
まるで頭から酸をかぶせられているような痛みを感じてしまう。しかし、そうであったとしても、レオンはそこに喜びを感じてしまう。
「この痛みが俺を覚醒させるぅぅぅ!」
「いやーーー! もう、なんで勇者って、こんな変態ばっかりなんですかーーー! 消えてー!」
「うぎゃぁ! 俺の汚い何かが全て、洗い流されちゃうーーー!」