バーレにパーティ内の会話の主導権を奪われた。仕方ないので、椅子から立ち上がり、その場で威嚇の踊りを舞ってみた。だがバーレはそんな自分を無視して、ミルキーとおしゃべりの真っ最中だ。
「おれっちはここから南西のドワーフ族出身なんだ。ミルキーちゃんはどこ出身?」
「えっと……」
「おい、ミルキーを困らせるようなことを聞くなっ。お前と一緒で事情持ちなんだよっ」
「おっと……すまん、そういうことね。ミルキーちゃん、ごめんよ。おれっち、妹似のエルフっ子には目が無くてさっ」
「お前の妹ってドワーフだろ? ミルキーと似てるって本当なのか?」
「……ふっ、妹キャラは種族の壁を越えるっ!」
「こいつっ!」
バーレの明るさはありがたいが、なかなかに曲者であることが今までのやりとりで判明した。受付のお姉さんが気をつけておけって忠告していたのも納得できた。
その時、頭の中で『ピローン♪』という音が鳴った。善行スクリーンが開く。
・今回、貴方が獲得した善行は3ポイントです。
・これまでの蓄積は76ポイントです。
・女神からのコメント:善行ガイドブックの第2条、弱者の庇護:仲間や大切なものを守るために自分を犠牲にできる。ミルキーを守ってあげてね。
女神からのお墨付きもあり、これからもミルキーがバーレに変に絡まれていたら、積極的に助けていこうと心に誓う。
◆ ◆ ◆
いよいよ、最後の回復職を選ぶ時がきた。台帳をぺらぺらとめくり、僧侶を探してみた。戦士と違い、別の意味で迷うことになる。
「うん、どれも似たり寄ったりだな。ぼいんちゃんにしとく? バーレ」
「さすが心の友だなっ。ミルキーちゃんよりもでっかいのを頼もうかっ!」
「喧嘩売ってます?」
ミルキーがジト目で自分とバーレを見ている……。ミルキーのことをぺったんぺったんと言うつもりは断じてない。
だが、服を着ている上からでも、おっきいーーー! 目の保養だーーー! と拝んでしまいたくなるような女性がいてほしい。
(これは俺の贅沢なんだろうか? ミルキーは美少女だ! だが、それでもおっぱいでっかい要員がほしいっ! 女神様ぁ!)
次の瞬間、善行スクリーンが開く。
・女神からのコメント:ほんと、男の子って、おっぱい大好きよねー(白けた目)
目を閉じて、しばし沈黙した。だらだらと鈍い汗が流れてくる。もう一度、善行スクリーンを見た。
・女神からのコメント:ミルキーちゃんルートが困難になるかもだけど、お勧めしてほしいならするわよ?
悩ましいとはまさにこのことだ。金髪ツインテールの16歳のエルフ美少女がすでにいる。しかし、それでもやっぱり自分はどうしようもなく、むっつりすけべだと思ってしまう。
「すいません。懺悔します。おっぱいうんぬんはともかく、男2人、女性2人のほうがバランスがいいかなって。ミルキーさん、俺のわがまま、聞いてほしいです、はい……」
「んもう……私も他の女性がいてくれたほうが安心かなぁ」
「ありがとうございます、ミルキー様ぁ!」
バーレがよくやったとばかりにばんばんと勢いよく、こちらの肩を叩いてきた。そこはバーレもいっしょにミルキーに弁解してほしかった。
バーレへの追求はともかくとして、好き好んで男の割合が多いパーティを組みたくない。
ミルキーもこちらの心情を汲んで「じゃあ、女僧侶にしましょうか」と言ってくれている。ミルキーの情け深さに頭が上がらない。
「女僧侶ならお姉さんのお勧めの娘がいるんだけどー?」
「どういう方ですか?」
「エクレア・シューって娘なの。今年で16歳。あたしの従妹よー」
ハッとした顔つきでバーレの顔を見た。バーレはうんうん! と勢いよく頷いてくれた。彼の了承は得た。残りはミルキーだけだ。バーレと一緒にミルキーへと視線を向けた。
「へ? 私が決めるの?」
コクコクとミルキーに頷いた。彼女は眉間に皺を寄せている。困っている様子だが、ここは彼女の了承をもらわなければ、話は進まない。
「わかった。でも、何かあっても私のせいじゃないってことだけは先に言っておくわね」
「んじゃ、従妹を呼んでくるねー」
受付のお姉さんが席を立ち、冒険者ギルドのカウンターへと向かう。他の女性従業員と何かを話している。そうした後、お姉さんはその従業員に手を振って、違う場所へと向かう。
お姉さんをずっと目で追いかける。そして、あるひとりの女性の前で止まった。お姉さんには悪いが怪訝な表情になってしまった。
「えっと……お姉さんにまったく似てないな」
「ああ……てっきりお姉さんそっくりの女僧侶だと思ってた……」
バーレと一緒にお姉さんに話しかけられて、困惑している様子の10代の女性を見る。
お姉さんが明るい茶髪のボブカットなのに、困惑している女僧侶は黒のセミロングときている。恰好も僧侶のローブであり、さらにはズボンタイプだ。
トドメとばかりに彼女は瓶底メガネをかけている。どこをどう見ても、受付のお姉さんの従妹には見えなかった。
首を傾げていると、お姉さんが女僧侶の手を引っ張って、強引にこちらへと女僧侶を連れてきた。
「はーい、お待たせー」
「え、エクレア・シューです。この度はパーティにお誘いくださり、ありがとう……ございます」
遠慮とは違う。これは忌避感だ。女僧侶からは乗り気ではない雰囲気を感じてしまう。何かの事情持ちなことは察することができた。
「まあ、あたしの従妹だから言っちゃうんだけどー。あたしと違って、男が苦手なのよー。この機に男慣れしてもらおうって思ってねー」
「あっはい」
難儀な女性を紹介された。このパーティにはチャラ男のバーレがいる。バーレに視線を向けた。彼はきょとんとした顔になっている。
(いや……バーレ、お前が1番の問題なんだぞ?)
目で自分の気持ちを伝えてみた。しかし、バーレは事情を呑み込めないといった感じで、首を傾げている。
(いや……なんで伝わらないんだ?)
バーレが何も役に立たなさそうなので、自分が進んで動いた。席からスッと立ち上がる。手は差し出さない。エクレアが恐怖することは予想できたからだ。
「俺は見習い勇者(むっつりすけべ)のレオンです、よろしく……」
「えっ!? 勇者様なのですか!? しかもむっつりすけべ!?」
「えっ? ちょっと!?」
エクレアは何を思ったのか抱き着いてきた。さらには瓶底メガネの向こう側からキラキラとした視線を飛ばしてくる。アメジストの色をした彼女の目は潤んでいた。
何が起きたのかと、こちらのほうが動揺してしまった。エクレアの期待が込められた潤んだ瞳にどう反応していいのかわからず、言葉を失った。
助けてもらおうとミルキーの方を見た。彼女は「はぁ……」と深いため息をついている。
「俺、何かしちゃいました……か?」
「レオンさん……エクレアは女神原理主義者なの。そして、勇者はその女神様の使者であり、女神様の言葉を忠実に実行すると信じて疑わない。それがエクレアよ」
「あっはい」
この状況を生み出したのは自分だった。口は災いの元とはよく言われるが、まさか、勇者と名乗っただけで、ここまで熱意を込めて、見つめられるとは考えてもいなかった。
「もしかして……男が苦手っていうのも」
「うん、その通り。勇者って名乗るだけで、これだもん」
色々と察してしまった。この状況からどうにかして抜け出さなければならない。こちらを見るミルキーの目がどんどん冷たくなっていくのにつられて、怖気を感じてしまう。
ミルキーからの援護はもらえないと感じた。ならば、バーレに頼むしかない。
「おれっちの顔に何かついてる?」
「助けてくれ! この状況をなんとかしてくれ!」
「まあ、いいけど……おーい、エクレアちゃん。勇者と言っても見習いだぞー。真の勇者様じゃないぞー」
なんとも投げやりな援護をされた。だが、自分を締め付けていた腕の力がみるみるうちに抜けていくのを実感できた。
そして、次の瞬間、目を疑うような事態になった。
なんと、エクレアがペッ! と勢いよく唾を床に向かって吐いたのだ。そして、自分から興味が失くしたのが、彼女の態度からありありと見てとれる。
「あの……エクレア?」
「話しかけないでください。元カレのことを思い出すので……」
「いや、でも俺はむっつりすけべだ! 元カレとは違う」
「確かに……いやでも、見習い勇者ですよね?」
「あっはい。返す言葉もないほどに見習い勇者です」
「じゃあ、元カレと同じですね。騙されないように注意します」
エクレアの態度は一瞬、軟化しそうであったが、それでも見習い勇者というトラウマを払拭させることはできなかった。
(むっつりすけべの称号があっても、見習い勇者ではダメなのかっ! 女神様、俺に出来ることは何かないのですか!?)
なんともしがたい空気が流れてくる中、その空気をぶち壊すようにバーレが動きを見せた。彼は自分の肩に腕を回してきた。
「んじゃ、パーティ結成ってことで。リーダー、ここは酒場で友好を温めるってのはどうだい?」
さすがはムードメーカーのバーレだ。女神がお勧めしてくれただけはある。女神に感謝しつつ、バーレの案に乗った。冒険者ギルドに併設されている酒場コーナーへと4人で向かう。
受付のお姉さんがこちらに向かって、ニコニコ笑顔で手を振ってくれている。
その時、善行スクリーンが開き、さらには頭の中で『テテテ、テッテテー♪』という明るい音が鳴る。
・今回、貴方が獲得した善行は20ポイントです。
・これまでの蓄積は96ポイントです。
・女神からのコメント:パーティ結成、おめでとう! 全員事情持ちなメンバーだけど、見てるこっちは楽しめそうなので◎。
(えっと、俺、女神様に嵌められた?)
・女神からのコメント:神罰を喰らいたい?
腰砕けになり、椅子からずり落ちてしまった。さらには床の上でガクガクブルブルと震えてしまった。
そんな自分の様子を見て、仲間たちが「大丈夫?」と声をかけてくれる。
(あったけぇ……。女神様、俺、間違ってたよ)
何かの縁が繋がって、今の4人が揃ったのだ。この幸運を祝うと同時に女神への感謝を忘れない。
だが、パーティ結成したばかりだというのに、フンスフンスと鼻息を鳴らし始めたミルキーがいた。
「ひと狩り行きましょう!」
「まじでー!?」
なんの打ち合わせもないまま、急遽、新パーティの冒険が始まった……。