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第13話:冒険者ギルド(2)

 受付のお姉さんが新しい椅子をテーブルの脇へと運んできてくれた。


 そのお姉さんに対してミルキーは礼儀正しくお辞儀をしている。ミルキーを見ているだけで、心に清涼感がやってくる。


 ミルキーとお姉さんが着席した。それに合わせて、台帳をめくり、2人目の仲間探しを始める。


「見習い勇者(むっつりすけべ)と魔法使いが揃ったから……」

「えっ!? 勇者様なのですか!? しかも、むっつりすけべの称号持ちなんです!?」


 自分から向かって左隣に座るミルキーが目を丸くして驚いている。


「えっ!? もしかして俺、何かやっちゃいました?」


 定番である台詞を言ってみた。ミルキーがこくこくと力強く頷いてきた。


 ここは「何、言ってんだよーがはは!」と笑い飛ばされるとか、「ひえっ怖い」とドン引きしてくれるかの、どちらかの反応をされる予定だった。


 そのため、こちらのほうが次の言葉が出ない状況になってしまった。


「てっきり戦士かと思っていたんですけど……勇者でさらにはむっつりすけべですかー」


 そう言えば、受付のお姉さんはウルトラレアだと言ってくれていたことを思い出す。


唯一無二レジェンドと言われなかったから、勇者はこの世界だとそこそこの人数が存在すると思ってたけど……)


 レオンは何か言い知れぬひっかかりを覚えた。オダーニ村に住んでいた頃、そもそも魔王という単語自体、タブー扱いされているのか、魔王について語られることはほとんどなかった。


 しかしながら、勇者と魔王の戦いが遥か昔にあったということだけは知っている。魔王は行方知れずになった。


 だが、いつか再来すると言われている魔王と戦うために『勇者』という職が存在し続けていることだけは知っている。


「ちなみに勇者の職業についてるひとってどれくらいいるんだ?」

「私が知っている限りだと10人にも満たない……かな」

「なるほど、微妙な人数だな」

「微妙って! レオンさんはすごいんですよ! 見習いはついていますけど、むっつりすけべですよ! 勇者とむっつりすけべが揃っているとなると、この世界だと3本指に入る可能性があるってことですよ!」」


 ミルキーに褒められた。素直に嬉しいし、誇らしい。


 ミルキーは興奮気味であった。だが、そんな彼女には悪いが、自分の話よりも、仲間を探す作業の方へと戻る。


 台帳をめくりながら、ちらりとミルキーの方を見た。彼女はほっぺたをぷっくりと膨らませて不満を表している。正直言って、かわいい。


(彼女の胸元をじっくりと見るな、俺! むっつりすけべが発動してるぞ!)


 ミルキーと楽しく会話を弾ませていたいが、それでは仲間探しが終わらない。彼女に悪いと思いつつも、話題を変えた。


「回復職の僧侶を入れることはすでに決定済みなんだ。そしたらあと1名。どの職業が良いと思う?」

「そうですね、順当に考えれば、戦士じゃないでしょうか? それも壁役に適した感じの」


 ミルキーの視線が自分から外れた。彼女は顔を冒険者ギルド内にある酒場の方へと向けている。自分もそちらへと視線を向けた。戦士っぽい人物がちらほらといることがわかる。


 だが、ヒトそれぞれで装備している武具が違った。がっしりとした身体つきなのにあえて動きやすさを重視した革製の鎧に身を包んでいる者が目に映った。


「あのひとはアタッカー役の戦士なのかな」

「そうですね。んで、あちらの全身鎧に身を包んだ中年の男性が壁役の戦士ですね」


 見たところ、そろそろ50歳になりそうなダンディな戦士であった。重厚な全身鎧で身を包んでいる。ここで受付のお姉さんから補足が入った。


「アタッカー役が軽戦士で、壁役が重戦士と呼ぶのが一般的な分け方だよー」

「なるほど……全員を戦士と一括りにしてはいけないってことですね?」

「うんうん。戦士っていってもヒトそれぞれに得意な武器やスタイルが違うから、そこは注意だねー」


 自分に代わって、受付のお姉さんが台帳をめくってくれる。


 他の職業と違って、戦士のプロフィールは多彩であった。得意な武器だけでなく、戦闘スタイルについても細かく書かれている。


 自分たちに必要なのは壁役の重戦士だ。万能職のレオン、火力枠のミルキー、そして僧侶は予約済みだ。誘う相手を間違わないように慎重に選ばなければなかった。


 しかしながら慈愛の女神はレオンに手を差し伸べてくれていた。とあるページに差し掛かると、そこで善行スクリーンが突然、開いた。


A:バーレ・シュタイン:ドワーフ・重戦士:☆☆


「あの! このひとは!?」

「ああ、バーレ・シュタインくんかー。重戦士だけど、この子も事情持ちだよー? それでもいいのー?」

「ぜひ、紹介してください!」

「じゃあ、呼んでくるけど、ミルキーは朗らかさに騙されないように注意しときなさいよー」


 受付のお姉さんは席を立つ。つかつかと歩いていき、とある人物の前で止まった。その人物は刈り上げの黒い髪に青のメッシュを入れている。


 プロフィールには20歳と書かれているが、褐色の肌により、見た目よりも5歳ほど上に見えてしまう。


 がっしりとした身体を全身鎧で包んでいる。見た目だけで判断すれば一流の戦士に見えた。だが、冒険者になってから1年も経っていないことはプロフィールで確認できていた。


 バーレ・シュタインは受付のお姉さんに連れられて、こちらへとやってきた。それに合わせてレオンは席から立ち上がる。


 こちらから手を差し出すと、向こうも手を差しだしてきた。


「おれっちはバーレ・シュタインだ。元炭鉱夫だけど、一通りの訓練は冒険者訓練場で積んでいるぜ? 期待してくれよな!」


 なんとも明快で爽やかな青年だ。握手をしている手とは別の手でサムズアップしてきた。


 お姉さんは乗り気ではなかったが、自分はバーレが気に入った。壁役の重戦士は彼に任せたい気分になっていた。


「事情持ちって聞いたけど、聞かせてくれないか?」

「あーーー。それ聞いちゃう? いきなりだなぁ?」


 バーレはこちらとの挨拶が終わると同時に別のテーブルから椅子を持ってきて、着席してくれた。しかしながら、バーレはこちらよりもミルキーの方へと視線を向けた。


「お嬢さん、名前はなんて言うんだい?」

「あの……その……」


 ミルキーはおっかなびっくりといった感じで、対処に困っているのが見てわかる。


 助け船を出してほしそうな目で、こちらを見てくる。ぼりぼりと頭を掻いた後、2人の間に割って入った。


「ミルキーは俺のカノジョだ」

「おっと、キミのことを守ってくれるカレシがいたのか。こりゃ失敬」

「えっちょっと、勇者様!?」


 ミルキーが驚きの表情で割り込んできたが、それを手で静止する。しかしながら、バーレは余裕しゃくしゃくの態度を取ってきた。前髪を手でわざとらしくかきあげる。白い歯をニカッと光らせてきやがった。


「すまないな。生き別れた妹にそっくりだったから、つい、守ってやりたくなったんだ。そこのむっつりすけべそうな男からさっ!」

「えっ!? 俺が悪いのかよっ!」

「俺は守るぜ!? 敵からの攻撃だけじゃない。女性相手に童貞臭をプンプンさせてるような男からもだっ!」

「ぐっ!」


 つい言葉を詰まらせてしまった。自己紹介をする前から、むっつりすけべの童貞野郎だと見抜かれてしまった。目の前のバーレは陽キャの雰囲気を体中からあふれ出させている。


「おれっちさ……。生き別れの妹のこともあって、か弱い女性を守りたくてさ……。それで肉壁戦士に自ら志願したってわけ」

「それと私がどう関係するのか、わからないんですけど」

「端的に言おう。おれっちにミルキーちゃんを守らせてくれっ!」

「ええーーー!? レオンさん、このひと、おかしいですっ!」


 ミルキーの気持ちもお構いなしにバーレがミルキーの手を両手で包み込み、さらにはおおらかな雰囲気を身体から溢れさせている。


 ミルキーが困り顔になりながら、こちらに顔を向けてきた。ここでミルキーを奪われるわけにはいかない。なんといっても、彼女は金髪ツインテールでうら若きエルフなのだっ!


「おい、ミルキーが困ってるんだ。ちょっとその手を離せっ!」

「なんだよ、せっかくいいところなのに。何? ミルキーにホの字なわけ?」

「そ、そうはっきりとは言えんが……俺だって、女の子を守りたいっ! そしてキャーステキーダイテー! って言われたい!」


 言ってることは最低だった。だが、バーレはミルキーから手を離し、こちらへと手を差し出してきた。


「ふっ……同志よ」」

「そうか……俺たちは同志だったか!」

「ああ……美少女は守ってやらないとなっ!」


 がっしりと握手しあった。固い友情が芽生えた気がした。しかし、バーレは次の瞬間にはこちらから手と視線を外し、ミルキーにご執心といった態度を取り始めた。


(ミルキールート攻略のライバルがさっそく登場か……くぅ、女神様のお勧めといえども、なんか納得いかないよー! ……くっ! ダメだ、女神様をしっかり敬え、俺よっ!)


 レオンは善行ガイドブックの第1条:女神への敬意:女神の言うことは全て真実であり、疑うことをしてはいけないことを思い出す。


 女神がバーレをお勧めする以上、何か意味があるはずだと考えを改めた。その時、善行スクリーンが開く。


・女神からのコメント:パーティ内に波乱が起きてほしいかな? ってのと、そと同時にムードメーカーをお勧めしておいたわよ♪


(おいたわよ♪ じゃありませんよ、女神様ぁ!)


 女神の言わんとしていることはわかる。見ている側からすれば、楽しいことこの上ないだろう。


 しかし、ミルキー攻略のためのライバルをわざわざパーティに入れるのは、もやもやとしてしまう。


(女神様、ムードメーカーの存在はすごく嬉しいです。その点だけは……)


 もやもやが晴れないままであった。それに追い打ちをかけるようにバーレがまたしてもミルキーの手を両手で包み込んでいた。


「バーレ! 抜け駆けはやめろっ!」

「ふっ……これでミルキーちゃんとのお肌とお肌の触れ合いは計2回だ。おれっちの勝ちだなっ!」

「くっ……バーレ! 俺と敵対するつもりか!?」

「何言ってやがる。同じパーティだろ、俺たち。もしもの時はレオンのことも守ってやるぜ?」

「トゥンク……じゃねえよっ!」

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