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第11話:リゼルの街

§


「え? これが街!? 王都の間違いじゃないのか!?」


 レオンは乗合馬車に乗ってから3日後、ようやくリゼルの街へとたどり着いた。ここまでの道中、妖しい踊りを封印していたおかげか、魔物に襲われるようなことはなかった。


 リゼルの街の入り口に立った瞬間、レオンの身体に言い知れぬ興奮が沸き上がってきた。


 オダーニ村は茅葺屋根の木造の家しかなかった。しかし、リゼルの街はそれ自体が石造りの神殿のように見えた。土の地面を探すほうが難しい。路地裏ですら石畳になっている。


「すごいな……」


 そうとしかレオンは言葉にできなかった。不思議な光景に目を奪われながら、レオンはリゼルの街を歩いて進んでいく。どこを見ても、ひとだかりが出来ていた。


「やっぱり大都会じゃないか」


 自分がいかに田舎者であるかを否応なく実感させられるばかりであった。


◆ ◆ ◆


 田舎者のレオンは田舎者全開のオーラを放ちつつ、リゼルの街の見取り図をじっくりと見ていた。目当ての冒険者ギルドの場所を地図で確認する。


 リゼルの街には冒険者ギルドは全部で3つあった。セントラル・センターにひとつ。そして、東西にひとつずつある。どの冒険者ギルドを選ぶべきかと悩んだ。


 するとだ。善行スクリーンが開いた。地図の上に覆いかぶさるようにだ。


A:セントラル・センター:☆☆☆

B:東地区

C:西地区:☆☆


「俺が今いるのは西地区……だけど、お勧めとしてはセントラル・センターか」


 地図にある地区とお勧め表示を交互に見た。すると、ここでひとつの予想を立てることができた。


「セントラル・センターは間違いなくこの街の冒険者ギルドの本部だ。東地区は出張所。そして、西地区は支部だな……よし、支部でも問題ないだろう」


 レオンはこれだけの大きさの街であるならば、支部で十分に要件を済ますことができるだろうと考えた。レオンの予想が間違っていなかったことはすぐに証明される。


◆ ◆ ◆


 青と白を基調とした街並みを見ながら歩いて15分もすると、白と黒が織りなす区画へとたどり着く。


 心に懐かしさを感じた。女神に見せてもらった映像で見たいろんな格好をした人物たちが往来を行き来している。彼らは冒険者たちで間違いないだろう。


 この区画は冒険者たちが利用するのに特化している。酒場があり、宿屋があり、さらには武具屋や雑貨屋もある。この区画だけ、他とは違い、色々なものが雑多に組み合わさっていた。


 この区画だけで、ひとつの街として成立するだけの機能を持っていると感じられた。


(オダーニ村は俺の故郷だ。でも、ここはここでなじみ深く感じるな……)


 オダーニ村はのどかな村だ。だが、ここは往来の人々が賑やかに声をあげている。オダーニ村とは似ても似つかない場所であるのに、レオンは故郷に戻ってきたような感覚を覚えた。


 レオンは冒険者たちで賑わう通りを抜けて、目的の建物の前へたどり着く。入口の上の方にある看板には『リゼル冒険者ギルド・支部』とでかでかと書かれていた。


「俺の予想通りだったな。しっかし、でかい建物だ」


 レオンはもっとこじんまりとしたものを想像していた。この建物自体が石造りであることにはもう驚かない。それよりも建物自体の大きさが予想していた5倍はあった。


「頼もう! オダーニ村からやってきたレオンだ!」


 威勢よく入り口の扉を開けて中に入った。だが、そこは喧噪で埋め尽くされており、レオンの一発かましてやろうという声など、瞬く間に吸い込まれていってしまう。


 驚きの余り、足を止めてしまった。冒険者ギルドだというのに、そこは酒保しゅほのようであった。


 入口から右には酒を提供しているカウンターがあった。そのカウンターの前にテーブル席が並んでおり、さながら酒場であった。


 とてもではないが、ここが冒険者ギルドとは思えなかった。


 さらに視線をテーブル席へと向けた。いくつかのテーブル席には冒険者たちが座り、こんな昼間の時間から酒杯をあげている。


 そんな冒険者たちを横目にしながら、入口から見て正面側へと視線を移動させた。奥の方にはステージがあった。つい、踊り子としての気持ちが昂りかけたが、すぐにそれを引っ込めた。


 レオンは次に入り口から左の方へと視線を向ける。視線を向けた先にはカウンターがあり、キレイな20代前半のお姉さんが3人立っていた。3人とも赤と黒を基調とした制服に身を包んでいる。


 そのカウンターの前に長椅子がいくつか並んでいる。その長椅子に冒険者が順番待ちをしているかのように静かに座っていた。


「さて、どの受け付けのお姉さんに話しかけるのが正解なんだ?」


 レオンは入り口から移動して、受付のほうへと移動していく。残念ながら、ここでは善行スクリーンは展開されなかった。


 だが、忙しそうに冒険者の相手をしているお姉さん2人に比べ、ひとり、来客を待っている雰囲気を醸し出している栗毛をボブカットにしたお姉さんがいた。彼女の前へとレオンは進んでいく。


「冒険者ギルド・リゼル支部へようこそ!」


 明るくはきはきとした声だった。レオンは思わず、後ずさりしてしまう。お姉さんがくすくすとおかしそうに微笑んでいる。


「当店を初めてご利用される方ですよね?」

「はい、ここで合っていましたか?」

「はい、ここで間違いありません! 他の冒険者ギルドはご利用されたことはありますか?」

「いえ……。今日初めて、冒険者ギルドを利用します」

「冒険者童貞……いえ、言い間違えました! 冒険者チェリー様のご来店です!」


 視線が背中に突き刺さるのを感じた。恐る恐る、後ろへと顔を向ける。長椅子に座る冒険者たちがニヤニヤとした顔つきになっている。


 思わず、気圧けおされてしまった。だが、カウンターから身を乗り出してきた受け付けのお姉さんは逃してなるものかとばかりに、こちらの左腕に両腕を絡めてきた。


「逃がしませんよ?」

「えっとその……」

「久しぶりにチェリーくんを導けますので……」

「あの……当たってますけど」

「当ててんだよ、言わせんなっ」


 さすがは大都会だ。受付のお姉さんはマリーと同じくらいの年齢だというのに、積極的に色仕掛けをしてくる。たじたじとなってしまった。


 受付のお姉さんは赤と黒を基調としたきっちりとした制服姿であっても、かなりの大きさの胸をお持ちなのが見てわかる。


 なぜ、自分はナックル・カバーを装着しているのかと、自分を恨めしく思ってしまう。


 受付のお姉さんはこちらの腕に胸を押し付けながら、艶めかしく上目遣いでこちらの顔を下から覗きこんでくる。


 ごくり……と息を飲んでしまった。身体が金縛りにあったかのように動かない。


 蛇に睨まれたカエルとはまさに今の自分だ。この時になって、ようやく善行スクリーンが立ち上がった。


A:チェリーの俺を導いてください:☆☆

B:みさおを立てた相手がいます:☆

C:惑わされないぞ、この淫魔が! とお断りする。


 数秒ほど悩んだ。頼る相手もいない。大都会でひとりは心細くなってしまう。ここは味方となってくれるであろう受付のお姉さんに、この身を捧げることにした……。


「あのその……初めてで何もわからないので、色々と教えてもらえますか?」

「うおっし! ご新規さん、1名ゲット! ちょっと新人くんを手取り足取り教えてくるから、ここはお願いね!」


 受付のお姉さんに手を引っ張られた。彼女は自分を連れて、冒険者ギルドの一角にあるテーブル席へといざなってくれる。


 彼女の鼻息は荒い。自分はこのまま捕食者から逃げられない気がした。


 その時、頭の中で『ぺろろーん♪』と音が鳴る。さらには善行スクリーンの文字が切り替わった。


・今回、貴方が獲得した善行は1ポイントです。

・これまでの蓄積は66ポイントです。

・女神からのコメント:童貞くんに萌える癖持ちのお姉さん相手にA以外を選んでいたら、もっとひどい目にあっていたでしょう。最善の選択をしたと思います。


(くそ! 俺は善行を積んだが、お姉さんとおいしい思いができる機会を逃がしたのか!?)


 穏便に済みそうな選択を選べたことに、心なしか肩を落としてしまった……。

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