(何故だ! 何故、俺はあの時、あんな選択をしてしまったんだ!?)
寝室の床の上でひとり、レオンは絶望していた。そんな彼の気も知らずにベッドの上で彼の仲間の女魔法使いがすやすやと気持ちよさそうに寝息を立てている。
ずきずきと痛む後頭部に耐えながら、レオンは目の前に展開する小型のスクリーンに注目した。
・今回、貴方が獲得した善行は-100ポイントです。
・これまでの蓄積は-4ポイントです。
・女神からのコメント:前後不覚の女性のおっぱいの感触を楽しむのは勇者失格です。
善行を積むことを女神としっかり約束した。そうしなければ、レオンは魔王になってしまうからだ。
左腕がうずいた。まるで今の自分をあざ笑うかのように。左腕から快感が走った。それが腕を通り、肩を突き抜け、首筋を通る。
「あふん!」
快感は首で止まらず、さらには脳内にまで達する。不覚にも口角が上がってしまう。ベッドの上ではすやすやと眠る女魔法使いのお姫様。
こちらはそのお姫様を襲ってしまいたくて仕方がない魔王様。快感という欲望が脳内を駆け巡り、脳内物質が股間の方へと流れていく。
――素直になれよ。暴れたくて仕方がないんだろ?
(ぐあ! 俺は彼女をクンカクンカしたい気持ちでいっぱいだ! だけど、俺は魔王に支配されたその気持ちで彼女に手を出したいわけじゃない!)
快感に身を委ねぬよう、必死に抗った。しかし、それをあざ笑う声が耳に聞こえた。
それと同時に、かつての光景が脳内にフラッシュバックする。
魔物が突然、村を襲い、村人たちを傷つけた。だから、自分は魔物に立ち向かった。
記憶が無い自分を拾ってくれた村をこの左腕から発する魔王の力で焼き払った。あの時は破壊という欲望で、心が真っ黒に染め上がった。
今は違う。ピンク色の快感が脳を染めあげてこようとする。左腕がもう一度、びくびっくんっ! と快楽に震え上がった。
(俺は不純な気持ちだったのは認める……。でも、魔王、お前に操られてのことで、やりたくないんだー!)
レオンは魔王になりたくない。勇者となるべく善行をこつこつと貯めてきた。善行こそがレオンの内に眠る魔王の力を抑えてくれる。
だが、それがたった一晩の過ちで全てを失った。
脳内がピンク色に半分染まりつつある中でも、レオンは冷静さを取り戻すべく、善行スクリーンに映る善行ポイントを確認した。
(まだだ! まだ-4ポイントになっただけだ……。ここはじっくりやらかしの反省をしよう!)
レオンは今年で推定18歳。その若さゆえにやらかしをしてしまった。彼にとっては出来心だった。
レオンはその場で立ち上がり、ベッドで眠る女魔法使いをじっくりと見た。ちゃんと衣服を着ている。次に両手を見た。彼女の胸を揉みしだいたという感触と記憶はない。
(直接は触っていない……はずだ!)
後頭部に走る鈍い痛みのおかげで魔王が発する快感に打ち勝てる。痛みが記憶をどんどん蘇らせてくれる。
◆ ◆ ◆
昨日、右も左もわからない都会にやってきたレオンは不安にさいなまれながらも、冒険者ギルドのドアをくぐった。
しかしながら、そんなレオンの不安もどこへやら、パーティを無事に結成できた。
その暁に、冒険者ギルドに併設されている酒場コーナーで仲間たちとともに宴を催した。
無事、パーティが結成できたことで安心感が生まれた。酒を飲むにつれて、自分の中に高揚感が生まれた。
そのせいもあって、昨日は女魔法使いとともに、相当、飲んでいた。
「酔ってない?」
「酔ってないよー」
2人で交わした会話も蘇ってくる。どれくらい飲めるのかと、女魔法使いと飲み比べした。彼女は16歳になったばかりだ。法的に、お酒を飲んでいい歳になっていた。
(思い出してきた……俺はあの時すでに彼女にいやらしい気持ちを抱いていた! だが、あの時点ではまだ魔王の意思は存在していないと言える!)
「もう飲めないー。眠いよー」
女魔法使いのその台詞にニヤリと口角が上がった。まさに魔王が勇者を前に舌なめずりをしているかのようでもあった。
眠ってしまった女魔法使いを宿に運んでおくと、他のメンバーにそう告げて、レオンは彼女を背負って、冒険者ギルドを後にした。
「頭がくらくらするー」
「おいおい、そんなに身体を動かさないでくれ。落ちちゃうだろ?」
言っていることは紳士だ。しかし、背負った女魔法使いが動くことで、彼女のおっぱいの柔らかさがお互いの服越しに伝わってくる。
レオンは鼻の下が伸びっぱなしになった。何度も彼女を背負い直した。
そのたびに、彼女は「う……んっ」と熱い吐息をこちらの首すじへと吹きかけてきた。酒気を帯びた彼女の色っぽい吐息によってレオンは狂わされた。
こうなれば、行くところまで行ってしまおうと、宿屋のカウンターにいる禿げ親父に「1番高い部屋を頼む」と言ってしまった。
禿げ親父は眉をひそめていたが、知ったことではない。宿屋の階段を上りながらも、女魔法使いの柔らかさをたっぷり堪能した。
部屋につくなり、彼女をベッドの上にそっと寝かせた。彼女の頬はピンク色に染まっている。そんな彼女の頬にそっと手を伸ばした……。
しかし、記憶はここで途絶えた。どうにかして、続きを思い出そうとしたが、後頭部がずきずきと痛むだけだった。
かすかに覚えていることは後頭部にガツンと強い衝撃が走り、その衝撃が頭を突き抜けて目から飛び出した。衝撃は星となって飛び散っていった……。
◆ ◆ ◆
(これからって時に記憶が飛んでやがるっ! だが、それでも魔王は目覚めていない、そう断言できる!)
レオンは寝室の壁に向かって、勢いよくゴツンと額を当てる。魔王が発する邪悪な快感を抑え込むためにだ。
「ううん……」
(しまった! なんで俺は音を立ててるんだ!)
女魔法使いはベッドの上で寝返りをうった。彼女の金色の髪がふわっと広がり、さらにはローブの胸元が露わになった。ピンク色のブラ紐が目に焼き付いてしまう。
その時、スクリーンが開き、さらには頭の中で『デデデーン! レオン、アウトー!』という心臓が止まってしまいかねない恐ろしい音が鳴る。
・今回、貴方が獲得した善行は-100ポイントです。
・これまでの蓄積は-104ポイントです。
・女神からのコメント:勇者失格の貴方には神罰を与えます。
「う、そ……だろ!? ねえ、女神様! さすがにこれは不可抗力でしょぉ!」
恐れおののくレオンはその場で崩れ落ちていく。しかし、彼は寝室の床にへたりこむ前に、固い鉄の感触をお尻で感じた。
レオンの足元にはいつの間にか、鉄製の椅子が現れていた。彼は目を皿のようにさせた。いち早く、椅子から立ち上がろうとした。だが、椅子は彼を決して逃そうとはしなかった。
革ベルトが椅子の下から鞭のようにしなりながら飛び出してきた。
「むごぉ!」
革ベルトはレオンを無理矢理がんじがらめにする。
「いやだ、いやだぁぁぁ!」
レオンは泣き叫ぶ。だが、その声は誰にも届いてはいなかった。ベッドに眠る女魔法使いは呑気に寝返りをうつ。こちらに向かって背中を向ける格好だ。
ローブのスカート部分がめくれあがり、今度はかわいらしいフリルがついたピンク色のショーツがレオンの目に飛び込んだ。
レオンの頭の中で『デデデーン! レオン、アウトー! 電気椅子の刑~♪』という金切り声のような音が聞こえた……。