■フィオレラ村 工房長屋 エミルの部屋
「ふぅ……あんたが生きていたら、今日の祭りは楽しいものだっただろうさ」
ダブルベッドのある部屋に備え付けられている窓。
その下にあるチェストへコップを置いて、エミルはワインを注いだ。
寝間着ではなく、タンクトップにパンツという下着姿が寒そうだと亡くなった夫はよく言っていたものである。
二つのコップの片側を持ち上げてカツンとぶつけて、エミルは酒をあおった。
「いいツマミも見つけてくれたし、キヨはイイ男だよ」
見た目の威勢のよさとは違い、酒がそれほど強くないエミルの頬は一杯の酒でほんのり赤くなっている。
姿のない夫に対して、エミルは語りだした。
「キヨもねぇ……あたいとしてはアプローチかけてるんだけど、なかなか引っ掛からないから、自信を無くしちまうよ。あんたとも子供ができなかったしねぇ」
ベッドへぽふっと倒れこんだエミルは健康的で肉付きのいい体を横にする。
視線の先には誰も寝ていないベッドがあった。
捨ててしまうこともできたのだが、パンの仕事が忙しいこともあってやらずにいたのである。
「あんたと離れて寂しくもなったけども……今はフィリップもいるから、楽しい日々を過ごしているよ」
エミルの表情は普段では見られない寂しい女の顔をしていた。
「キヨにはフラれているけども、フィリップはあたいに引っ付いてくるんだよねぇ。さすがに若すぎるから眼中にないんだけども……若いといえば今、キヨはシスターと一緒に暮らしているんだよねぇ。若さが足りないんかなぁ?」
エミルの年齢はいっている方であり、未婚であれば行き遅れのレッテル張られているが健康的な生活のお陰か見た目には自信がある。
自分の頬をプニプニといじりっていると匂いが少し鼻に届く。
作業をしているときには気づかなかったが、少し臭いのかもしれない。
「最近忙しくて、キヨシの湯に行けてなかったから、今度は行ってみるかねぇ。偶然をよそおって押し倒すのもここまで来たらありか?」
ぶつぶつとキヨシの篭絡作戦を考えていると夜も更け、いつしかエミルは寝てしまっていた。