「こんなに楽しいの初めてですわ。山にはお父様やお母様がいましたけれど、友と呼ばれる人はいませんでしたから」
チーズフォンデュで救いあげたパンをふーふーと息を吹きかけて食べたフローラはにっこりと微笑む。
雪の精霊とはいうものの話を聞いていれば、日本の雪女みたいなものだとわかった。
まぁ、なぜか幼女の姿なのは謎だが……。
シーナのいうとおり、瘴気が広がっているおかげで力が弱まった影響なのだろう。
「たまにはこの村へ遊びに来いよ。ドリーやシーナをはじめ、子供たちも喜ぶぞ」
「えー、フローラちゃん帰っちゃうのー?」
「雪でもっとあそびたーい!」
俺の言葉を聞きつけた村の子供たちがフローラの周りに集まってきた。
子供たちはフローラの作り出した雪で遊んでいたこともあって、すっかり仲良くなっている。
こういうコミュ力の高さは大人にはないものだ。
「嬉しいですわね。ですが、わたくしも山に雪を降らしてこの村を通る川の素になる水を作る役割がありますの。ですから、これを皆様へ」
そういうとフローラが手を振り、雪が子供たちの手の上に降り積もったかと思うとガラス細工の様な氷の動物の置物ができあがる。
「わーい、パパー。ドリーのうさぎさん!」
「よかったな、ドリー」
ドリーの手の上にも小さなウサギの置物が出来上がっており、喜んで俺に見せて来た。
頭を撫でてれば、ドリーはにぱーと笑顔を向けてくる。
子供たちもそれぞれが親に自分の貰った置物をみせにいき、親が俺達に向けて頭を下げた。
テーブルの料理も片付いてきたところで、宴が終わりをみせる。
「それじゃあ、わたくしはこれで失礼いたしますわ。お父様がお迎えに来たみたいですし……」
フローラが空に上がっていき、そこを俺達が見送ると立派なトナカイにまたがった白髭の生えた男がいた。
赤い服を着ていたら、まごうことなきサンタである。
「年齢と外見が違うとはいえ……これはなんとも……」
俺が言葉につまっているとフローラが白髭男の前に座り、手を小さく振ってくる。
「じゃあな、フローラ。またな」
「はい、キヨシ様。またお会いいたしましょう」
空飛ぶトナカイにまたがった二人は遠くの山の方へと飛んでいった。
不思議な出会いだったが、楽しいひとときではある。
「俺達も帰るか」
「はーい」
「そうね」
ドリーとシーナが俺の手をそれぞれ掴んで帰路に就くのだった。
■フィオレラ村 教会 礼拝堂
”家”に帰った俺は帰り道にはしゃいでいたドリーとシーナを俺のベッドへ寝かせて、礼拝堂へやってきた。
なぜかはわからないが、何となく来た方がいい気がしていたのである。
「あら、キヨシ様……こんな夜中にどうしたのですか?」
振り返ればカンテラを持っているホリィの姿が見えた。
あの日とは違って、夜遅いためか寝間着姿である。
修道服もそうだが、ボディラインの浮く服を着るとホリィの艶めかしい肢体がいやおうなしに浮かび上がって来て目に毒だ。
「なんとなくな……ホリィこそ、どうしたんだ?」
「私も……なんとなく、ですね」
窓から差し込んでくる月の光に照らされたホリィはとてもきれいだった。
くせっけのある金髪がキラキラと輝いているのを見るのはもうずいぶん前のように思う。
「綺麗だな」
「は、はい!?」
「いや……なんでもない、なんでもないんだ」
するりと口から出た言葉に俺も、ホリィも顔を赤くして照れた後に礼拝堂の奥にある女神像の前に立った。
色はついていないが、俺がこの異世界へ来るときに見た女の姿に似ている。
「今年は司祭様が亡くなられて大変でしたが、何とか乗り越えることができました。女神セナレア様、キヨシ様を遣わせてくださりありがとうございます」
ホリィは俺が女神像を見上げているのにもかかわらず、膝をついて手を組み、祈りを捧げていた。
この村の現状であれば亡くなった人がいるのはしかたないだろう。
今年ではないかもしれないが、エミルの旦那だっていなくなっている。
子供ももしかしたら……そう思うと、俺は背筋がゾッとした。
「俺も祈りを捧げさせてもらおう……俺にチートスキルをくれてありがとうな。この村にどうして俺が来たかを考えることもあったが、今はこの村の人のために俺ができることをしていきたい」
ドリーやシーナ、村の子供であるピーター達の顔が浮かぶ。
俺に子供はいないが子供が嫌いなわけじゃない……だから、あの子たちの笑顔のために力を遣えるならば使っていきたいと思った。
『キヨシ、貴方は素晴らしいです。私の願いを聞き届けてくださいました。新たな力を授けます〈浄水〉が温度調整できるようになりましたので、有効に使ってください』
どこからか女神の声が聞こえ、俺はズコッとこけそうになる。
あくまでも〈浄水〉にかかわる力のようだが、温度調整して出せるようになったなら樽風呂を温泉に変えられるかもしれないし湯たんぽなどのあったまるものを作ることもしやすくなりそうだ。
「ありがとう。女神様」
「今、キヨシ様はセナレア様とお話されたのですか!? 詳しく! 詳しく聞かせてください!」
俺が呟いたことでホリィの目が血走り、肩をグッと掴んで揺らしてくる。
ものすごい力で揺らされて、俺はホリィの伝承好きの舐めていたことに気づいた。
締まらない俺達の関係だが、これがいいように思える。
これからもよろしくな、ホリィ。