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第16話 年越しの宴

■フィオレラ村 


「そこは一面の雪景色だった……か、これは真っ白だな」

「まっしろー!」

「これを雪かきするっていっていたけど、マスター大丈夫なの?」


 雪が落ち着いたところで、宿舎の外に出てみれば村一面真っ白になっている。

 畑も、家も白くなっていて、村人達はクワやスキを使って雪を退かしていた。

 余り降らないとはいえ、雪の経験がある人がいるので動き出しは早い。

 子供たちはドリーと同じように珍しい雪に大はしゃぎだ。


「せめて道くらいは開けておかないとな……せっかくの雪だから廃屋とかに固めて保存庫にするか」 


 空を見上げれば晴れた太陽が覗いているので、少し暖かい。

 ドリーが元気なのは、そこもあるようだ。

 ボスボスと新雪を踏んで穴をあけて楽しんでいる。


「雪も有効活用されるのですね」

「ああ、氷室だな。俺の祖父が昔はこういうのを使っていたというのを聞いていたんだ」


 フロスティアは空中に浮かびながら、俺の横顔を覗いてきた。

 精霊というのは何でもありだなと思うが、まずは道などの確保からである。


「道の雪を退かしたいから、ドリーとシーナで雪だるまを作ってくれ」

「わかった! ドリー、雪だるま作るー!」


 雪玉を転がして道の雪を集めて大きなものへと変えていった。

 大きくなるとドリーだけでは転がらないので、シーナも手伝ってなかなか大きな雪だるまが出来上がっていく。


「かまくらを作るには雪が少ないのが残念だな……」

「パパ―! 危ないー!」


 ドリーの叫び声に振り向くと、俺の背丈よりも大きくなった雪玉が転がってくる。


「意外と楽しいわね! ほらほら、マスター。運動不足っていっていたから、ちょっとは走りましょうよ」

「おい、シーナ! だからってこれはないだろっ!」


 俺は映画でよく見るトラップの岩玉のように迫ってくる雪玉から、逃げ始める。

 姿は見えないがシーナの楽しそうな声と、いつの間にか雪玉から逃げる俺を応援するドリーをはじめとする子供たちの姿が見えた。


「応援されたら、やめるにやめられないじゃないかっ! くそっ! 村の道をこのままならしていくぞ!」

「わかったわ、ほらほら走った走った!」


 俺はシーナに追い立てられながらも村の端から端まで雪玉で地面をならしていくのだった。


◇ ◇ ◇


「も、もう走れん……」

「キヨシ様。大丈夫ですか?」


 息を切らして倒れこんでいる俺の顔をホリィが覗き込んできている。

 カッコ悪いところを見られてバツが悪いが、走りすぎて疲れたので体を起こすのがやっとだった。


「農作業をしているから、筋力ついていたと思ったが……上手くいかないものだ」

「落ち着いたらお風呂でゆっくりしてくださいね」

「ああ、あれはデカイな……」

「シーナさんがすごくがんばったので、かなり目立つ雪だるまになりましたね」


 俺の視線の先には10mくらはあろうかという巨大な雪だるまが立っている。

 おかげで村の雪はかなりなくなっていたので、結果オーライという奴だ。


「それで、ホリィは俺に何かようがあったのか?」

「そうです! 村長さんが一足早い年越し祭りをしようということで広場に来てほしいと」

「祭りの準備か……もうちょっと休んだら行くよ」

「それでしたら、私の膝をお貸し、しますよ……」


 俺が休んでからというと、ホリィは顔を赤くしながらも雪の無くなった地面に座り膝をポンポンと叩く。

 照れ臭くはあったものの、疲れていた俺はお言葉に甘えることとした。

 これも結果オーライという奴だろうか……。


■フィオレラ村 中央広場


 俺が広場に向かうと、雪を片付けた村人たちが祭りの準備を始めていた。

 村長に聞いたところによると、この祭りのあとは皆、家にこもって家族と年明けまで過ごすのが通例となっている。

 最後の顔合わせと、保存のきかないものや余った食材を持ち寄って盛大に振る舞って食べるのがこの祭りの趣旨らしい。


「チーズフォンデュを食べる習慣に近いのか……」

「パパ―、ちーずふぉんでゅって何?」

「チーズをワインなどで溶かして鍋で煮てな固くなったパンや肉、ゆでた野菜をチーズにつけて食べる料理だ」

「ほぅ、そいつぁ面白いじゃないさ。チーズを丁度消費するためにもってきてはいたけど、ただ切って食べるのにも飽きていたところさね。フィリップ、工房に行って鍋を持ってきな」

「姐さん、了解です!」


 俺がドリーに説明していたら、ちょうどエミルが来ていたのか面白そうだとのっかってきた。

 持ってきているのは大きなチーズに、売り物にしていたが余っていたパン類に燻製肉、そしてワインである。


「偶然とはいえ、丁度いい提案だったようだな」

「毎年恒例とはいえ、だいぶ長いことやっているとマンネリ化してきてねぇ。キヨのお陰で今年は楽しくなりそうさ」


 ケラケラと豪快に笑うエミルは広場に用意されているテーブルに食材を置いていく。


「キヨシ様じゃねぇか、この間は狩りありがとよ。それにさっきの雪を使ったヒムロだったか? 肉の貯蔵庫ができてワシらは大助かりよ。ちょうど、今朝もウサギをたくさん狩ってきたから一部いれておいたぞい」


 今度はゴンじぃが俺に声をかけてくる。

「大量にできた雪を使ったヒムロのアイデアが役に立ったなら何よりだ。ただの木の家ではあまり持たないだろうから土をかけたりもしていきたいところだな」

「そうかい、あれをもう少し増やせれば村で肉を食うことが多くなる。毎日とれるわけじゃないから、保存できるのは助かるってぇもんだ。何かできることがあれば手伝うぞ。なぁ、ガロ」

「オヤジのいうとおり、キヨシ様には俺ら狩人も感謝しているんだ。なんでもいってくれよ」


 感謝なんて言葉を久しく聞いていなかったので、途端に照れ臭くなってしまう。


「姐さん! 鍋を持ってきましたよ」

「キヨ、これをカマドにかければいいのかい?」

「卓上に鍋をかけてあっためられればみんなで摘まめるんだがな……この熱くなる魔導具をコンロ代わりに使ってみるか……」


 俺は魔導具に魔力を込めてあっためると、テーブルの上に石を置いてカマドっぽく作り上に鍋をのせてみた。

 しばらくすると温まってきたので、チーズをワインで溶かしてみるとグツグツと煮えチーズとワインのいい香りのするチーズフォンデュが出来上がる。


「まぁ、こんな感じだ」

「これにパンとかを付けて食べるのかい?」

「そうだぞ、熱いから串やフォークでやるといいぞ」


 俺の言葉に従ってエミルが一口パンのかけらをチーズにつけて食べた。

 その目がカっと見開いて、大きな声を上げる。


「うまぁぁぁい! こいつぁいいぞ、村長さんにも食べて貰って、今後の定番にしなくちゃいけないさ」


 エミルの反応を見る限り、気に入ってもらえたようだ。

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