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第2話 俺に娘ができちゃった!?

■フィオレラ村 教会司祭の家 キッチン

 翌朝、目が覚めたら腹が鳴ったので、俺はキッチンへと向かった。

 キッチンではすでにホリィが起きて何かスープの様なものを作っている。


「あら、おはようございます」

「おはよう、ホリィ」


 ホリィに挨拶をして、テーブルにつく。


「こんなものしかないですが朝食です」


 ホリィが出してくれたのはスープだ。

 スープと言っても野菜の切れ端くらいしか入っておらず、腹にたまるようなものではない。


「この村というか、教会の経営は厳しいのか?」

「はい……先日、司祭様が病に倒れて亡くなってしまい菜園も整えられていない状況でして」

「そうなのか……」

「村の方から施しをいただいている状況ですが、村事態も瘴気の影響で作物が育たないようで苦労されているようです」


 俺の向かい側に座ったホリィは一通り話し終えると両手を組んで祈りを捧げた。

 宗教のことはよくわからないが、何となく俺も食べる前に同じように両手を組んで祈る。

 いただきますの精神は万国共通だ。


「昨日も聞いたが、瘴気ってのは具体的になんなんだ?」

「正体や原因についてはわからないのですが、この国に今広がっている黒いモヤみたいなもので、それが広がった土地は植物が枯れたり動物が狂暴化や異形化したりしています」

「なるほど……大気汚染か、公害みたいなものなんだな」

「タイキオセン? コウガイ?」

「ああ、こっちの世界の話だ……すまない」


 俺の呟きにホリィが首を不思議そうに傾けたので、訂正をした。

 美人ではあるもののちょっとしたしぐさが可愛い。

 年齢は俺よりも一回りは下に見えるので手を出すのははばかれるが、村人から人気になるのもわかる気がした。

 そういえばと俺は思い出したように言葉を紡ぐ。


「そういえば、その女神か? それの加護を貰ったらしい」


 俺の言葉にホリィがガタッと立ち上がった。


「今の話は本当ですか!? すみませんが菜園でキヨシさんの力を見せてください!」


 キスをしそうなくらい近く身を乗り出してきたホリィに俺は体が熱くなるのを感じながら頷く。

 朝食をそのままに俺達は菜園へ向かった。


■フィオレラ村 教会菜園


 家の裏手にあったのは俺の家庭菜園よりも広い畑ではあったが土が死んでいるのが触っただけで分かる。

 命がないというか、温かみが消えていた。


「これじゃあ、確かに育たたないな……俺の力というかこれでどうにかなるかわからないが……」


 そう思いながらも、俺の中ではどうにかしたいという思いが沸き上がっている。

 昨夜に出会った女神の姿が脳裏に浮かび、体中に入った光の力が俺の全身にみなぎっているのが分かった。

 自分の持っている力が初めから手に入れていたかの様に使う。


〈浄水〉クリアウォーター


 スキル名を口にして掌を上にすると、湧き水のように水が溢れだしてきた。


「すごい……魔法のような詠唱もなくできるんですね」


 水が地面に零れると黒ずんだ土の色が茶色に代わっていく。

 そして、枯れていた畑に芽が生えて来たのだ。


「芽まで生えて来たぞ!?」


 その芽はニョキニョキと急成長して大きな花が咲いたかと思うと、花弁が散って幼女がそこに立っていた。


「ああ、浄化の女神セナレアよ……私は奇跡を見ております。ありがとうございます」


 ホリィは思わず涙を流して、俺が畑を元気にしていく様子を見ている。

 なんだか、恥ずかしいぞっ!


「ホリィ、そこに幼女がいるんだが……なんなんだ?」

「はっ! すみません……ええと、幼女、ですか?」


 正気に戻ったホリィが俺が指し示す方向を見ると、葉っぱの服を着ている幼女が眠っているかのように閉じていた目を開く。

 その目が俺と合った。


「パパ―!」


 葉っぱの服を着た緑髪の幼女が俺にタックルするように抱き着いてくる。


「まて、パパとはなんだ? ホリィ! こいつは何なんだ!?」

「ドリアードですよ!? 植物を見守る精霊です! 瘴気が濃くなったこのあたりでは精霊や妖精は死滅したといわれていたのですが……」


 ホリィは驚きながら説明をしてくれるが、俺にはよくわからない。

 いうなれば害虫ではなく益虫みたいなものなのか?

 抱き着いてウリウリと頭をこすりつけてくる幼女の頭を撫でながら、俺はホリィに顔を向けた。


「あー、ホリィ。こういう力なんだが……どうだ?」

「神の使徒キヨシ様。ありがとうございます。貴方様のお陰で教会も、村も救われます」

「おい、ちょっと待ってくれ。なんで様付けになった!?」

「何をおっしゃいますか、キヨシ様。奇跡を見させていただきましたので、私は貴方様に仕えるのは当然です」


 膝をついて祈りを捧げるポーズをとるホリィに俺はどうしていいのかわからなくなった。

 幼女と美女に囲まれた俺の異世界生活はどうなる!?


「ホリィ、祈るのはやめてくれ。俺はそんなにいいものじゃない」


 俺に対して祈りを捧げていたホリィを立たせると俺の腹がグゥと鳴る。

 そういえば朝食があれだけだから腹が減るのはしかなかった。


「食料がほとんど村にはないんだったな」

「はい、ですがキヨシ様の奇跡の力で解決できるかと思います」

「買いかぶりすぎだ……俺は綺麗な水を出せるだけのおっさんだ」


 美人によいしょされるのは慣れていないので、こそばゆい。

 照れ臭いので正直なところやめて欲しかった。


「パパの力で村の農地を全部治しちゃうの! パパならできるの!」

「そのパパというのはやめてくれないか? 刷り込み見たいなものかもしれないんだが……そういえば、名前は?」

「ドリーはね。ドリエルっていうの!」


 元気な幼女あらためドリーにいわれたら、できるような気がしてくるのだから不思議である。

 幼女趣味があるわけじゃないが、姪っ子のわがままを聞いてあげたくなる気分と同じだ。


「では、まずは村長さんの下へいきましょう。食料をいつも分けてもらっていますし、今日も貰えるかもしれません」

「それは助かる。昨日の夜からまともに食べていないからな、何か食べられるなら大歓迎だ」

「キヨシ様の御威光で村を救ってくださることを伝えればきっと納得していただけることでしょう」


 ホリィの様子が狂信者っぽくなりだしていてちょっとこわい。

 あっれれぇ~、おかしいぞ?


「ま、まぁ……まずは村長の家だな。ドリーもつれていこうか」

「パパとおでかけー♪」


 俺の手を握ってドリーははしゃぎながら歩きだす。

 子供は元気でいいな。


■フィオレラ村 村長の家


 ホリィの案内で村長の家についたが、道中でほとんど人に会わなかったことが気になる。

 朝だからとも思わなくもないが……嫌な予感がしていた。


「キヨシ様! 急いできてください」


 先に村長と話をつけにいったホリィが村長の家から出てきだかと思ったら、俺の手を引いて中に入っていく。

 寝室へ連れ出されたら、年老いた男がベッドで苦しそうに横になっていた。

 黒いモヤのようなものが体にうっすらまとわりついている。


「黒いモヤみたいなのが見えるが、これがさっき言っていた瘴気なのか?」

「はい、瘴気を取り去ることができるのは上位の神官くらいです……でも、村にはお金がないので神官を呼ぶことができないのです」


 ホリィが悔し気に呟いた。

 彼女もきっとシスターとして相談を色々受けて来たのだろう。

 力がないことで悔しい思いをして来たのが、手に取るように分かった。


「俺の<浄水>でどうにかできるかわからんが、やってみよう」


 俺は念じて掌に水を湧きあがらせると、苦しそうに唸っている村長に水を飲ませる。

 飲み終わった村長の体から黒いモヤがうすくなって消えていくのが見えた。


「おお、シスターホリィ。それにばあさんも」

「あんたぁ、元気になったんだぁねぇ~。よかった、よかったよぉ」


 苦しむ村長の汗を拭こうと布を持ってきた老婆が村長に駆け寄って互いに抱き合う。


「見かけない顔だが、旅人ですかな?」

「あー、俺は……」

「こちらの方は【浄化の聖者】キヨシ様です。瘴気で苦しむ私たちの村に、女神セナレア様が使いとして寄こしていただいたのです」


 俺はが説明しようとしたら、ホリィが割り込み芝居がかった様子で村長に伝えていた。

 いや、浄化の聖者とか初耳なんだけど!?


「神の奇跡によってワシは救われたのですな。ありがたや、ありがたや」

「ありがたや、ありがたや」


 村長と村長の奥さんが両手をああせて念仏のようにありがたやと唱えていた。

 派遣社員として働いていたとき、ここまで感謝されたことはあっただろうか?

 いや、ない。


「ああ、そんなに祈らないでくれ。俺は大したことのないただのおっさんだ」

「パパはすごいパパなの!」

「おお、ドリアードに父と認められているとはまさに神の使徒様じゃ……ありがたやありがたや」


 俺が訂正をしようとしたが、ドリーが割り込んでしまったのでさらに勘違いが加速していた。

 どうしようかと本当に悩んでいると家の外から男の声が聞こえてくる。


「村長! 井戸にも瘴気が入り込んでいて村の衆が大半やられてしまった! どうしたらいい!」

「井戸水までも……キヨシ様。大した報酬もだせませぬが、ワシの願いを聞いていただけないだろうか?」


 体を起こし、ベッドに腰かけ、村長は俺の方を見てくる。

 その目にあるのは”期待”だ。


(期待なんてされたのも就職して1年目の時くらいだよなぁ……)


 俺がたそがれはじめたとき、ホリィが俺の両手を掴んで自分の胸の前で組む。


「キヨシ様。村のために井戸の浄化をお願いできないでしょうか?」

「俺ができるのは浄水であって、浄化じゃないんだが……できちゃっているからなぁ、否定が仕切れない」


 ポリポリと頬をかいた俺はホリィに向き直り、決意を新たにした。


「では、ホリィ。井戸のところまで案内してくれ」

「はい、私に任せてください」


 俺の両手を離したホリィは家を出て、村にある井戸へと走り出す。

 俺達はホリィの後についていくように走るのだった。



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