アドニスの問い。
いつ、どうやって『王達』はお互い知り得たのか。
一瞬唖然と言う様な間が出来る。
「えっと、おじいさんから聞いていないんですか?」
不思議そうに声を掛けたのは『三の王』
キョトンとした顔が目に映る。そんなに不思議な事なのか。
少し考えてからアドニスは首に横に振る。
「聞いてない」
「そうか。それなら仕方が無いですね」
彼がニコリと柔らかな笑みを浮かべたのはその瞬間。
物腰柔らかな声で彼は思いだす様に丁寧に説明を始める。
「『一の王』が殺された後です。『八の王』から声が掛かったんです。その時ですよ。僕たちが知り合ったのは」
「まて」
説明の途中、直ぐに制止する。
更に大きな謎が生まれたからだ。
アドニスは隣に立つカトリーナを見た。
険しい顔のまま睨み上げ問う。
「お前。お前がほかの『王』にコンタクトをとったと?」
「はい」
「何故だ。何故他の『王』を――。俺達の
それは至極簡単な事だ。
「『八の王』から声が掛かった」
と言う事は何らかの手段で彼女は他の『王』にコンタクトを図ったと言う事。
コレは別に良い。どうせ『世界』が捨てた
前まではオーガニストと言う
だが、声を掛けた……とは?
それでは最初から『八の王』が他の『王』の正体を知っていたかの様じゃないか。
これは大きな問題だった。
前にも言った通り、『ゲーム』の事は世界中に知らされた。
特にゲーム参加者には他の参加者の名前まで通達され、今日この日を待つ事になったはずだ。
だが。
『王』に渡された情報は、名前とその他僅かな情報だけ。
それもあからさまに偽名の存在もいて、何処に潜伏している釜ではお互いに分からなかった筈。
いや、
現に『二の王』は潜伏先しかアドニスには知らされていなかったし。
他の『王』は名前を明らかにしても、その殆どが居場所までは情報をひた隠しにしていた筈。
それはグーファルトやカトリーナも同じ。『六の王』なんかはセキュリティーが難関だろうに。
そこからどうやって、接触できたというのか。
少しの間。
今まで疑問にも思っていなかった誰かが「確かに」なんて呟いた。
険しい表情のまま、睨んでいるとカトリーナは焦る様子もなく静かに口を開く。
「確かに他の『王』に声掛けしたのは
答えを得たと同時に今度はグーファルトを睨む。
元から考えれば、彼の正体は皇帝から情報を与えられた時から謎が多いままだった。
数年前にふらりと現れた手段問わずの革命家。
そのカリスマ性から一気に民衆の期待の頂点に君臨した。だなんてそれだけ。
大まかな拠点と名前は知っているが、そのほかの正確な情報も何も無い、謎の存在。
『二の王』を殺してから他の『王』は追わないと決めていたが、最後まで疑問が残っていた一人だ。
そんなアドニスの殺気をグーファルトが気づかない筈も無い。
しかし、彼は怯える様子もなく身を構える訳でもなく。ニヤリと笑った。
「『世界』に内通者がいる。そう言えば満足か?」
僅かに眉が動く。そんな筈はない。
皇帝に仕えるのは彼に怯え切り忠誠を使う者達ばかりだ。
彼を僅かにでも裏切れば待つのは死。
家族子孫末代まで異端者としては直物にされるこの『世界』で皇帝を裏切る様なモノがいる筈も無い。
――嫌、改める。
カエルと言う存在が居たのだ。
裏切り者がいても可笑しくは、無いか?
「待ちなさい!」
甲高い声が思考の邪魔をする。舌打ちを繰り出し視線を上へと飛ばす。
その先には通路の手すりに手をかけ身を乗り出さん勢いで此方を睨む瑠璃色の女がいた。
これには眉を顰めるしかない。最初から嫌でも気が付いてはいた。
ソレはこの『ゲーム』で一番の異状で異物。アドニスの知らない情報であり。想定していなかった存在。
『六の王』ドトールに付き添う。しかし下僕でも従属でもない。――ただ、誰もがその名を知っている。
エリザベートと言う女。
「落ち着きなさい!エリザベート!」
隣に居たドトールが慌てたように彼女の肩を掴み下がらせた。
しかし、女はそれだけでは収まらない。
ドトールの腕を振り払い、グーファルトへと吠え掛かる。
「貴方!何故今までその情報を言わなかったのですか!!」
「……まぁ、まて」
「貴方なら。――お前ならば、知っていたのではないですか!この『ゲーム』に紛れ込んだ
張り裂けんばかりの声が響いた。
憤慨。正にその言葉がふさわしい。
――ああ、なるほど。
発せられた言葉だけでアドニスは理解する。
この女が此処に居る理由と意味。
「わたくしの愛するあの人を奪った汚らしい駄犬が!」
つまりは復讐だ。
アドニスが殺した彼女の夫。
――『一の王』ゲーバルド・ジョセフ・ゴーダンの。
「言いなさい!!駄犬の正体を!ジョセフの仇を討つのです!!その為にわたくしはこんな下らない『ゲーム』に参加したのだから!」
気が狂ったように。
エリザベートと言う女。
元王太子妃は声を張り上げる――。