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73話『ゲーム開始』4


「ああ、そうでしたね。貴方は元から同盟の参加者じゃなかった」


 コレに答えたのはリーバンであった。

 ゆっくりと体を起こし、グーファルトから距離をとる様に離れつつ答えを示す。


「貴方は僕たちの会合に一回しか来なかったけど。覚えているでしょう?」

「……」

「この『ゲーム』の中に皇帝からの『猟犬』が送り込まれていると言う話があった事は。――ああ、君は二代目なんでしたっけ?」


 やはりと言うべきか。当たり前と言うべきか。

 リーバル含めた他の『王』はアドニスの存在に気が付いていた事を知る。

 まぁ、そう仕組まれていたので当たり前と言っちゃ当たり前だが。


 辻褄を合わせるべく。アドニスは首を横に振った。


「……爺さんから聞いてはいた」


 とりあえず、『二の王アルバ』から話を聞いていたことにする。

 異端者じぶんの存在が周囲に把握されていたことは、前から考え付いていた事なので話を合わす事ぐらいは出来る筈だ。

 そんなアドニスの様子にリーバルも完全に騙されたようで、話を続ける。


「貴方……いえ、貴方のお爺さんは加わらなかったけれど。その時、同盟が出来たんです」

「同盟?」

「はい。『二の王』と『十の王』それ以外の皆で」

「……俺はそんな話は聞いていなかった。どんな同盟だ」


 少しだけ胸騒ぎがする。

 急かす様に問えばコレもまたリーバルが答えてくれる。


「猟犬を排除同盟です!」

「……」


 なんて単純な。

 思わず声が出そうになったがぐっと我慢する。


 しかもそれ以降リーバルは喋らなくなったのだから困ったものだ。

 溜息を付いてアドニスは続けるように諭す。


「具体的には?」

「名前通りです!」


 また会話が終わってしまった。

 この男。馬鹿なのか。

 呆れ果てて、どう聞けば一番手っ取り早いか考え始めた時。横から声から答えが降り注ぐ。


「同盟内容は簡単です。『ゲーム』に入り込んだ『犬』を皆で始末しようと言う至極簡単な契約です」


 カトリーナに視線を送る。

 薄桃色の瞳が何かを探る様に真っすぐと此方を見据えていた。

 もしかして彼女はアドニスを疑っているのだろうか。彼こそが自分達が標的にした「猟犬」だと。

 此処はまだ取り繕う必要がある。もう少し、同盟に関して探ってみるか。


「で、具体的にはその同盟に入ってどんな得がある。場合に寄っちゃ俺も手を貸してもいい」

「本当ですか!」


 歓喜の声を上げたのはリーバン。 

 『十の王』以外がその同盟者らしいが、パッと見るに喜んでいるのは彼だけに思える。


 マリアンヌとジェラルドは不服そうにそっぽを向いているし。

『六の王』は女共々眉を顰めたまま何も発言は無く。しかし賛成をしている感じも無い。


 そればかりかその側に居る執事なんかは、先程からアドニスに鋭い殺気を飛ばしたままだ。

 アレは本当に油断に出来ない人物である。


『九の王』……彼女は論外。

 先ほどから扉の隣で壁に寄り掛かり、ニマニマ笑ったまま何も言いやしない。


 そしてカトリーナだが。

 彼女はまだ探る様な視線を此方に浴びせて来るばかり。

 だが更なる提供をしたのは、そんなカトリーナであった。


「得……ですか。得という得はありません」

「そうか、それは残念だな」

「……ただ、『猟犬』を殺すまで、この『ゲーム』はお互いに手出しはしないと言う契約を交わしました」

「――は?」


 思わずと息を呑む。

 今、彼女は何と言ったのか。


 猟犬を殺すまでお互いに手出しはしない?

 そんなの。そんなのって。


「それは『ゲーム』を放棄している」


 思ったままの事を口にした。

 信じられない気持ちでカトリーナを真っすぐに睨み忌々しく思う。


 コレは、皇帝が考えた彼が楽しむためのゲームだ。

『王』と言うたった一つの席を奪い合う殺し合い。だのに。


 標的を抹殺するまではお互い手出ししないなんて。ソレは休戦と言えよう。

 「猟犬」自分を殺すのは別に良い。ソレが何故、休戦協定に持ち込まれる。


 そんなモノ、そんなモノこそルール違反だ。


「皇帝の意志に反している」

「貴方はそう思うのですね」


 アドニスの言葉にカトリーナは少し残念そうな顔をした。

 どう思われただろうか。怪しまれたか。しかしコレばかりは譲れない。


「当たり前だ。……オーガニストは昔から皇帝と懇意にしている。――だからこそかの王の思考は大よそわかる。たかが犬一匹に『ゲーム』を休戦するなど愚の骨頂。『ゲーム』の支障として排除されても可笑しくはないぞ」

「では、貴方はいつ、どこから襲い掛かって来るかも分からない存在に配慮しつつ『ゲーム殺し合い』をしろと

 ?」

「ああ。暗殺者の存在に常に気を廻し対処する。それぐらいできなくて何が『王』だ。そんなもの――」

「だから対処をしようとしているのではなくて?」


 カトリーナの言葉に思わず言葉が詰まる。


 もし、ゲーバルド皇帝であるなら。そんな下らない同盟は組まない。

 ただ一人の孤高の王として。誰も信じず。誰も側に置かず。


 暗殺者も含めた他の参加者を相手取るだろう。だが、それを言っても無駄であることは確か。

 何故なら彼らは、ゲーバルド皇帝とは違うのだから。――まさに凡人たちの集まり。


「その女がリーダーなのは不服だけどね!」

「全くだ!何が女帝だ!俗物のくせに!このグラリッテとドライシャスに下っていれば良いモノを!」


 そんな凡人たちが口を開き始めた。マリアンヌとジェラルドの口から出るのは不満。

 この現状が気に食わないと言わんばかりにカトリーナを睨みつけながら言葉ことのはを叩きつける。


「……お前が、その同盟のリーダーか」

「はい。僭越ながらわたしが治めさせて頂いています」


 カトリーナに問えば迷いなく答えが返って来た。

 それは、妥当か?

 情報を思い出し、今現状の周りの反応を見なら納得する。


 『三の王』

 話についていけていないのか先程呆然としている。

 コイツはきれいごとを並べるだけのバカだ。


 『四の王』『五の王』

 両者、傲慢で自分勝手の思想の持ち主に見える。 

 こんな彼らが人の上に立つということは出来ないだろう。


『六の王』

 何をするでもない今まで静かに傍観を決める彼ら。

 立場上であるならに彼らが上に立つことは出来るだろうが、何もしないと言う事は周りに合わせる事を決めたか。

 それ以上に気になるのはあの瑠璃色の女だが。


『九の王』

 今現在何も発言する事無く笑っているだけの女。

 やはり、論外だ。


 アドニスはグーファルトを見る。

 この男はどうだ。革命家の頂点に立つこの男。

 いや、この男は関係ないか。


 先ほど言っていたじゃないか。

 『二の王』と『十の王』以外がメンバーだと。

 ただ、なぜ「同盟」に入らなかったかは気になる。


「あんたは?同盟に何故入らなかった?」

「あ?」


 アドニスの問いに、グーファルトはクツクツと笑う。

 胸ポケットから再び、煙草を取り出し何事も無いように火をつける。


「……昔から群れるのは苦手でね。ソレに皇帝様の放ったバグ。……犬退治の為に同盟を組むのは良いとして、その為に不戦協定を組むのは為っちゃいない。このガキの言う通りだ。皇帝はそんな事を望まない」


 煙草を吹かし、サングラスの奥で吊り上がった糸のように細まった。


「皇帝の犬は間違いなく主を喜ばせるために育てられた一人だ。だから、そんなつまらない同盟は許さないだろうなぁ。俺だったら、一番に狙いたくなるほど――。」


 灰色の眼に確かな強く凍り付くほどの殺気を纏わせながら。

 その殺気に『王』はカトリーナを除き、気圧されたかのように固唾をのんだ。


 嫌な空気が場を包み込む。


 アドニスはその場の空気に、一つの疑問が浮かぶ。

 同盟の事は許せない。

 だが、それを置いて一つになる点が出来た。


 だからこそ顔を上げ『王』達に問う――。


「同盟はいつできた?いつ、どうやって、コンタクトをとれた?」



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