「ああ、そうでしたね。貴方は元から同盟の参加者じゃなかった」
コレに答えたのはリーバンであった。
ゆっくりと体を起こし、グーファルトから距離をとる様に離れつつ答えを示す。
「貴方は僕たちの会合に一回しか来なかったけど。覚えているでしょう?」
「……」
「この『ゲーム』の中に皇帝からの『猟犬』が送り込まれていると言う話があった事は。――ああ、君は二代目なんでしたっけ?」
やはりと言うべきか。当たり前と言うべきか。
リーバル含めた他の『王』はアドニスの存在に気が付いていた事を知る。
まぁ、そう仕組まれていたので当たり前と言っちゃ当たり前だが。
辻褄を合わせるべく。アドニスは首を横に振った。
「……爺さんから聞いてはいた」
とりあえず、『
そんなアドニスの様子にリーバルも完全に騙されたようで、話を続ける。
「貴方……いえ、貴方のお爺さんは加わらなかったけれど。その時、同盟が出来たんです」
「同盟?」
「はい。『二の王』と『十の王』それ以外の皆で」
「……俺はそんな話は聞いていなかった。どんな同盟だ」
少しだけ胸騒ぎがする。
急かす様に問えばコレもまたリーバルが答えてくれる。
「猟犬を排除同盟です!」
「……」
なんて単純な。
思わず声が出そうになったがぐっと我慢する。
しかもそれ以降リーバルは喋らなくなったのだから困ったものだ。
溜息を付いてアドニスは続けるように諭す。
「具体的には?」
「名前通りです!」
また会話が終わってしまった。
この男。馬鹿なのか。
呆れ果てて、どう聞けば一番手っ取り早いか考え始めた時。横から声から答えが降り注ぐ。
「同盟内容は簡単です。『ゲーム』に入り込んだ『犬』を皆で始末しようと言う至極簡単な契約です」
カトリーナに視線を送る。
薄桃色の瞳が何かを探る様に真っすぐと此方を見据えていた。
もしかして彼女はアドニスを疑っているのだろうか。彼こそが自分達が標的にした「猟犬」だと。
此処はまだ取り繕う必要がある。もう少し、同盟に関して探ってみるか。
「で、具体的にはその同盟に入ってどんな得がある。場合に寄っちゃ俺も手を貸してもいい」
「本当ですか!」
歓喜の声を上げたのはリーバン。
『十の王』以外がその同盟者らしいが、パッと見るに喜んでいるのは彼だけに思える。
マリアンヌとジェラルドは不服そうにそっぽを向いているし。
『六の王』は女共々眉を顰めたまま何も発言は無く。しかし賛成をしている感じも無い。
そればかりかその側に居る執事なんかは、先程からアドニスに鋭い殺気を飛ばしたままだ。
アレは本当に油断に出来ない人物である。
『九の王』……彼女は論外。
先ほどから扉の隣で壁に寄り掛かり、ニマニマ笑ったまま何も言いやしない。
そしてカトリーナだが。
彼女はまだ探る様な視線を此方に浴びせて来るばかり。
だが更なる提供をしたのは、そんなカトリーナであった。
「得……ですか。得という得はありません」
「そうか、それは残念だな」
「……ただ、『猟犬』を殺すまで、この『ゲーム』はお互いに手出しはしないと言う契約を交わしました」
「――は?」
思わずと息を呑む。
今、彼女は何と言ったのか。
猟犬を殺すまでお互いに手出しはしない?
そんなの。そんなのって。
「それは『ゲーム』を放棄している」
思ったままの事を口にした。
信じられない気持ちでカトリーナを真っすぐに睨み忌々しく思う。
コレは、皇帝が考えた彼が楽しむためのゲームだ。
『王』と言うたった一つの席を奪い合う殺し合い。だのに。
標的を抹殺するまではお互い手出ししないなんて。ソレは休戦と言えよう。
そんなモノ、そんなモノこそルール違反だ。
「皇帝の意志に反している」
「貴方はそう思うのですね」
アドニスの言葉にカトリーナは少し残念そうな顔をした。
どう思われただろうか。怪しまれたか。しかしコレばかりは譲れない。
「当たり前だ。……オーガニストは昔から皇帝と懇意にしている。――だからこそかの王の思考は大よそわかる。たかが犬一匹に『ゲーム』を休戦するなど愚の骨頂。『ゲーム』の支障として排除されても可笑しくはないぞ」
「では、貴方はいつ、どこから襲い掛かって来るかも分からない存在に配慮しつつ『
?」
「ああ。暗殺者の存在に常に気を廻し対処する。それぐらいできなくて何が『王』だ。そんなもの――」
「だから対処をしようとしているのではなくて?」
カトリーナの言葉に思わず言葉が詰まる。
もし、ゲーバルド皇帝であるなら。そんな下らない同盟は組まない。
ただ一人の孤高の王として。誰も信じず。誰も側に置かず。
暗殺者も含めた他の参加者を相手取るだろう。だが、それを言っても無駄であることは確か。
何故なら彼らは、ゲーバルド皇帝とは違うのだから。――まさに凡人たちの集まり。
「その女がリーダーなのは不服だけどね!」
「全くだ!何が女帝だ!俗物のくせに!このグラリッテとドライシャスに下っていれば良いモノを!」
そんな凡人たちが口を開き始めた。マリアンヌとジェラルドの口から出るのは不満。
この現状が気に食わないと言わんばかりにカトリーナを睨みつけながら
「……お前が、その同盟のリーダーか」
「はい。僭越ながら
カトリーナに問えば迷いなく答えが返って来た。
それは、妥当か?
情報を思い出し、今現状の周りの反応を見なら納得する。
『三の王』
話についていけていないのか先程呆然としている。
コイツはきれいごとを並べるだけのバカだ。
『四の王』『五の王』
両者、傲慢で自分勝手の思想の持ち主に見える。
こんな彼らが人の上に立つということは出来ないだろう。
『六の王』
何をするでもない今まで静かに傍観を決める彼ら。
立場上であるならに彼らが上に立つことは出来るだろうが、何もしないと言う事は周りに合わせる事を決めたか。
それ以上に気になるのはあの瑠璃色の女だが。
『九の王』
今現在何も発言する事無く笑っているだけの女。
やはり、論外だ。
アドニスはグーファルトを見る。
この男はどうだ。革命家の頂点に立つこの男。
いや、この男は関係ないか。
先ほど言っていたじゃないか。
『二の王』と『十の王』以外がメンバーだと。
ただ、なぜ「同盟」に入らなかったかは気になる。
「あんたは?同盟に何故入らなかった?」
「あ?」
アドニスの問いに、グーファルトはクツクツと笑う。
胸ポケットから再び、煙草を取り出し何事も無いように火をつける。
「……昔から群れるのは苦手でね。ソレに皇帝様の放ったバグ。……犬退治の為に同盟を組むのは良いとして、その為に不戦協定を組むのは為っちゃいない。このガキの言う通りだ。皇帝はそんな事を望まない」
煙草を吹かし、サングラスの奥で吊り上がった糸のように細まった。
「皇帝の犬は間違いなく主を喜ばせるために育てられた一人だ。だから、そんなつまらない同盟は許さないだろうなぁ。俺だったら、一番に狙いたくなるほど――。」
灰色の眼に確かな強く凍り付くほどの殺気を纏わせながら。
その殺気に『王』はカトリーナを除き、気圧されたかのように固唾をのんだ。
嫌な空気が場を包み込む。
アドニスはその場の空気に、一つの疑問が浮かぶ。
同盟の事は許せない。
だが、それを置いて一つになる点が出来た。
だからこそ顔を上げ『王』達に問う――。
「同盟はいつできた?いつ、どうやって、コンタクトをとれた?」