屋敷の中は以外にも広い。
天井には大きな蜘蛛の巣が張ったシャンデリア。
エントランス入口からまっすぐ行くと十数メートルに先に中央階段。
左右其々10mほどの距離で次に続く部屋があり、さらに階段下にも奥行きがある。
そんな広々としたエントランスをアドニスは靴音を鳴らす。
周りから殺気と言う殺気を浴びせられながら中央へと向かい歩く。
地面の音が可笑しい。どうやら大きな地下があるようだ。
そんな事を考えつつ階段より少し手前の場所で止まる。
改めてあたりを見渡し敵の人数を把握した。
眼に入ったのは、ざっと見て男女18人か――。
頭に叩き込んだデータを基に照らし合わせていく。
まず、広いエントランス一階。
入口に立つアドニスから見て左端中央。屋敷の壁沿いに影二つ。思わず目を細める。
壁にもたれ掛りタバコを吹かす、腰までの長い銀髪でサングラスの男。
そして、その足元には小さな影。歳は8つほどか。
ふとももまでの長い黄緑のぼさぼさの髪に紅い瞳。あどけない少年が一人。
この中で一番の殺気を放つ銀色の男。――『十の王』……グーフェルト
次に一階右端中央。
側にボロボロのスーツを纏った男女を二人引き連れた。
淡いピンクの、ふくらみのある膝下までのワンピースを纏った少女。
三つ編みで結い上げた濃いピンクの髪。気の強そうな薄桃色の大きな瞳。
静かな殺気を放つ。間違いなく彼女が「女帝」。――『八の王』……カトリーナ・レイ・ローファン。
次に階段奥右側。
隠れる様に佇む。ボロい白のズボンとシャツの男。側には誰も居ない。
くるくるとした短いオレンジ色の髪に、垂れた黄緑の目をした青年。
殺気も出さないコレは確か――『三の王』……リーバン・メルトーフ。
中央の階段。その真ん中では一組の男女。
この場に余りに場違いな紫のドレスを纏った厚化粧の女。
くすんだ金髪にアメジストの瞳。アレは――『四の王』……マリアンヌ・ドライシャス。
隣で険しい顔をしているでっぷりと太った身体にオールバックの茶髪。口髭。
全ての指に指輪をはめている様な男が――『五の王』……ジェラルド・グラリッテ。
その階段下では二人に仕えているであろう、執事服の青年とメイド服の少女が、計6人。
階段を上った先。二階の。横に広がる廊下。
後ろに燕尾服で身を固めた、大きな殺気を飛ばす執事を側に置く。一組の身なりの良い男女。眉を顰める。
瑠璃色のスーツを着こなし淡い茶髪のウェーブの掛かった髪と瑠璃色の瞳を持つ女。
その側には、きっちりとオールバックにした金髪に緑の瞳。灰色のスーツの男。
僅かな殺気を飛ばすのが――『六の王』……ドトール・アンダーソン
そして。
後ろに自身の視線を送る。視線の先は入口。その正に隣。
ニマニマ笑う赤と黒のチャイナ服姿の女が一人。ボブの黄緑の髪に金色の瞳。目元の赤いメイクが目に付く。
誰か側に置くわけでもなくただ一人で、殺気も出さず。そればかりか気配すらない。
得体のしれない人物。彼女が――『九の王』……レベッカ。
間違いなく残りの『10の王』とその従属が集結していた。
◇
アドニスは顔を顰めたままあたりを見渡す。
遂にと言うべきか『ゲーム』の為に『10の王』が集まった訳だが。
やはり思わずその他の顔ぶれを見てしまう。
7人の『王』の他に11人。部外者がいる。
皇帝が他の参加者の存在を許したとはいえ、これほどまでに多いとは。しかも顔ぶれが妙だ。
『六の王』の様に明らかに強そうな
『八の王』の様にガタガタ震えて見るからに弱そうな平民を側に置いている者もいる。アレでは戦力にもならない。
何よりも、異彩を放っているのはまさかの子連れと言う。この『ゲーム』の優勝候補。
――視線に気づいたのだろう。『十の王』が僅かに視線を変えた。
ニヤリと笑って「なんだ?」と言わんばかりに。
アドニスはさっと目を逸らす。まだ戦うときじゃない。そう焦る心に諭す。
まずはこの空気を変えなくては。その一手を。数回深呼吸をしたのち。
何事もない様に平常心で口を開き。
「――『二の王』……。ギルバード・オーガニストだ」