自分達が『世界』から支給された、携帯端末には所有者の居場所を発信する機能がある。
コレを利用すれば、誰にでもエージェント達の居場所は簡単に割り出せるだろう。
だが精密機械である携帯端末は勿論。端末の電波を受信する機械は『組織』の人間しか造れない。
何故なら物資も資金も無いから。一般人では到底無理。
カエルが言った事を纏めれば、こうなる。
彼が言いたい事は分かった。簡単だ。
カエルは『組織』のエージェント達の為、助言を持ってきたのだ。
態々、機密事項の追跡装置について迄、自分達にバラしてでも。「裏切り者はいない」と言いに来たのだ。
コレに関しては、この幼馴染はそういう男だ。十二分に理解している。
しかし、実際は御覧の通り。
カエルはエージェント達をフォローしきれていない。
だって、そうだろう。
「結局、その問題の機械を造れるのは『組織』の人間だけ。この一点がある以上、裏切り者はいると断言している様なモノだ」
カエルがその整った顔を険しく顰めさせ、アドニスを睨んだのは次の時。
指摘されるまで気が付いていなかったのか。唇を噛みしめ、苦しそうに目を伏せる。
だが、それも僅かな間。彼は白衣の腕を組み、決意して大きく息を一つ。
「……1人だけ、いるんだよ。『組織』外の人間で、出来る奴がさ」
「――……」
アドニスは眼を細める。そんな視線に気が付いたのだろう。
カエルは険しく顰めた顔を無へと変え、間髪も入れず言う。
翠の目が、それは真っすぐと此方を見据えていた。
「その機械を造るために募った物資は全て、オーガニストから仕入れたものだ。『組織』は彼から武器だけを仕入れているんじゃない。
――この言葉で、全てを理解する。
彼の言葉にドウジマが口を開く。肩眉を上げ、まだ理解が出来ないと言う表情だ。
「まて。……お前の情報が事実であったとしてもだ。そいつは唯の商人だろう。科学者や発明者じゃない」
彼の疑問は当然。例え「オーガニスト」と言う人物が世界最大の武器商人。
いや、
彼がその受信機とやらを手に入れられるはずがない。
携帯端末と受信機は紛れもなく『組織』が発案し、作り上げた物。
カエルの言葉からして受信機は極秘に違いないし、世に出回る事もない。
だが、此方に関してもカエルはすんなりと答えを提示した。
「これは
これはドウジマも酷く驚愕の色を帯び、何かを察したように眉を顰め唸る。
アドニスも同じ反応だったが、直ぐにコレに対して一つを問いただす。核心を得るために。
「その機械はそんなに簡単に造れるものなのか?ただの一般人の発明家なんかにさ」
カエルは小さく息を付いた。大きく頷いて、唯肯定する。
「オーガニストなら造れる可能性は高い。――彼はさ、なんで『組織』に大量の武器を回せる?」
その答えだけで十二分だ。
アドニスは溜息を付いた。
「……製造者、か」
カエルは、小さな笑みを浮かべた。
◇
小さな笑みを浮かべたまま、カエルは白衣の手をゆらゆら動かす。その姿は実に楽しそうだ。
そのままポケットから取り出したのは、片手サイズの小さな拳銃。前にドウジマが使っていたものと比べれば一目瞭然なほどに違う。
これは新作と言う奴か。新しい彼の発明品と言う奴か?
そんな疑問に答える様に、その拳銃を手に彼は言った。
「これは、僕が作った物じゃない。威力は無いが、武器商人様から購入した新作さ」
「――!そんな小さい拳銃が、か?」
驚愕が混ざるドウジマにカエルは頷く。
ドウジマからすれば、自身の
大きく、ずっしりと重い。『組織』が彼専用にと造った代物。
アドニスは幼いころに一度だけ、使わせてもらった事がある。
破壊力は凄まじい物だったが、支給された狙撃銃より重く。
女子供が使うどころか普通の男でも扱うのには困難と判断した。
其れと比べれば、今カエルが持つ物は比べ物にならない程に小さい。
それも力が無いカエルが簡単に持ち上げているのだ。軽い物であることも容易に想像がつく。ドウジマが驚くのは無理もない。
カエルは手に持つ拳銃をくるくる回しながら言う。
「そりゃ。僕達が改造したから『組織』の物は、格段に威力は上がっている。でも、殆どが改造銃さ。改造元の銃は、彼。オーガニストが発案し、造ったものだよ。――で、御覧の通り。彼今でも改良を進め、ソレを売り払っている」
まるで、コレが証拠と言わんばかりに。小さな拳銃はアドニスの手に押し付けられる。
想定した通り、いや想像以上に軽い。これだと子供も簡単に扱えるだろう。
アドニスは拳銃を手に、眉を顰める。
この『世界』で銃が出回り始めたのは50年ほど前からと聞く。
カエルの話が本当であれば、オーガニストと言う人物は確かに『組織』の発明家と変わらない頭脳を持っていると言えよう。
最後にダメ押しと言わんばかりにカエルは言った。
「彼だったら、受信機なんて造れるさ……」
アドニスは顎に手を伸ばす。
黒い眼を静かに閉じ、手に持つ拳銃を幼馴染へと返した。
「――……分かった。いいよ、今回はお前に、お前の言葉を信じてやる」
その答えに、白衣の少年が小さな笑みを浮かべる。
ポケットに拳銃を押し込んで、翠の目はドウジマへと向けられた。