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51話『二の王』3




 自分達が『世界』から支給された、携帯端末には所有者の居場所を発信する機能がある。

 コレを利用すれば、誰にでもエージェント達の居場所は簡単に割り出せるだろう。


 だが精密機械である携帯端末は勿論。端末の電波を受信する機械は『組織』の人間しか造れない。

 何故なら物資も資金も無いから。一般人では到底無理。


 カエルが言った事を纏めれば、こうなる。

 彼が言いたい事は分かった。簡単だ。

 カエルは『組織』のエージェント達の為、助言を持ってきたのだ。


 アドニス自分がエージェント達の中に裏切り者が居る事を疑っている事を知って。

 態々、機密事項の追跡装置について迄、自分達にバラしてでも。「裏切り者はいない」と言いに来たのだ。


 コレに関しては、この幼馴染はそういう男だ。十二分に理解している。


 しかし、実際は御覧の通り。

 カエルはエージェント達をフォローしきれていない。

 だって、そうだろう。


「結局、その問題の機械を造れるのは『組織』の人間だけ。この一点がある以上、裏切り者はいると断言している様なモノだ」


 カエルがその整った顔を険しく顰めさせ、アドニスを睨んだのは次の時。

 指摘されるまで気が付いていなかったのか。唇を噛みしめ、苦しそうに目を伏せる。

 だが、それも僅かな間。彼は白衣の腕を組み、決意して大きく息を一つ。


「……1人だけ、いるんだよ。『組織』外の人間で、出来る奴がさ」

「――……」


 アドニスは眼を細める。そんな視線に気が付いたのだろう。

 カエルは険しく顰めた顔を無へと変え、間髪も入れず言う。

 翠の目が、それは真っすぐと此方を見据えていた。



「その機械を造るために募った物資は全て、オーガニストから仕入れたものだ。『組織』は彼から武器だけを仕入れているんじゃない。、その全ての材料となる物を彼から仕入れているんだよ」



 ――この言葉で、全てを理解する。

 彼の言葉にドウジマが口を開く。肩眉を上げ、まだ理解が出来ないと言う表情だ。


「まて。……お前の情報が事実であったとしてもだ。そいつは唯の商人だろう。科学者や発明者じゃない」


 彼の疑問は当然。例え「オーガニスト」と言う人物が世界最大の武器商人。

 いや、が『組織』に武器の素材となる物を回していたとしても。

 彼がその受信機とやらを手に入れられるはずがない。


 携帯端末と受信機は紛れもなく『組織』が発案し、作り上げた物。

 カエルの言葉からして受信機は極秘に違いないし、世に出回る事もない。

 だが、此方に関してもカエルはすんなりと答えを提示した。


「これは『発明家』僕達の間では有名な話だが、オーガニスト……彼は発明家でもある」


 これはドウジマも酷く驚愕の色を帯び、何かを察したように眉を顰め唸る。

 アドニスも同じ反応だったが、直ぐにコレに対して一つを問いただす。核心を得るために。


「その機械はそんなに簡単に造れるものなのか?ただの一般人の発明家なんかにさ」


 カエルは小さく息を付いた。大きく頷いて、唯肯定する。


「オーガニストなら造れる可能性は高い。――彼はさ、なんで『組織』に大量の武器を回せる?」


 その答えだけで十二分だ。

 アドニスは溜息を付いた。


「……製造者、か」


 カエルは、小さな笑みを浮かべた。


 ◇


 小さな笑みを浮かべたまま、カエルは白衣の手をゆらゆら動かす。その姿は実に楽しそうだ。

 そのままポケットから取り出したのは、片手サイズの小さな拳銃。前にドウジマが使っていたものと比べれば一目瞭然なほどに違う。


 これは新作と言う奴か。新しい彼の発明品と言う奴か?

 そんな疑問に答える様に、その拳銃を手に彼は言った。


「これは、僕が作った物じゃない。威力は無いが、武器商人様から購入した新作さ」

「――!そんな小さい拳銃が、か?」


 驚愕が混ざるドウジマにカエルは頷く。

 ドウジマからすれば、自身の武器えものは同じく拳銃。

 大きく、ずっしりと重い。『組織』が彼専用にと造った代物。


 アドニスは幼いころに一度だけ、使わせてもらった事がある。

 破壊力は凄まじい物だったが、支給された狙撃銃より重く。

 女子供が使うどころか普通の男でも扱うのには困難と判断した。


 其れと比べれば、今カエルが持つ物は比べ物にならない程に小さい。

 それも力が無いカエルが簡単に持ち上げているのだ。軽い物であることも容易に想像がつく。ドウジマが驚くのは無理もない。


 カエルは手に持つ拳銃をくるくる回しながら言う。


「そりゃ。僕達が改造したから『組織』の物は、格段に威力は上がっている。でも、殆どが改造銃さ。改造元の銃は、彼。オーガニストが発案し、造ったものだよ。――で、御覧の通り。彼今でも改良を進め、ソレを売り払っている」


 まるで、コレが証拠と言わんばかりに。小さな拳銃はアドニスの手に押し付けられる。

 想定した通り、いや想像以上に軽い。これだと子供も簡単に扱えるだろう。

 アドニスは拳銃を手に、眉を顰める。


 この『世界』で銃が出回り始めたのは50年ほど前からと聞く。

 カエルの話が本当であれば、オーガニストと言う人物は確かに『組織』の発明家と変わらない頭脳を持っていると言えよう。

 最後にダメ押しと言わんばかりにカエルは言った。


「彼だったら、受信機なんて造れるさ……」


 アドニスは顎に手を伸ばす。

 黒い眼を静かに閉じ、手に持つ拳銃を幼馴染へと返した。


「――……分かった。いいよ、今回はお前に、お前の言葉を信じてやる」


 その答えに、白衣の少年が小さな笑みを浮かべる。

 ポケットに拳銃を押し込んで、翠の目はドウジマへと向けられた。


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