それは酷く簡単な答えだった。
皇帝は『ゲーム』にイレギュラーを追加した。
それはズルに見えるが、仕方が無い事とも呼べる。
これは皇帝が設けた『ゲーム』。
皇帝が賞品を用意して、国民に与えたチャンス。
『ゲーム参加者』は自身の命を駆ける事にはなるものの、自ら望んだことだ。
その「損」は、甘んじて受け入れなくてはいけない。それを乗り越えてこその「
なら、この時一番の被害者は誰か。
――それは皇帝だ。
彼は無償で王冠を捧げなくてはいけない。
得が無い。それは、どんな暴君で在ろうとも不公平だ。
ゲームは主催者側。参加者側。両方に得が無くては成り立たない。
だから、ゲーム主催者がイレギュラーを混ぜ込ませても、実際は
周りからズルだと罵られようとも。実際は主催者にも、損してなるものかと足掻く権利はあるのだから。
何より、この『ゲーム』は唯の
『世界』と言う国を掛けた『ゲーム』なのだ。
王が国を簡単に手放すはずがない。
そう簡単に手放しているのなら、暴君なんて存在していないだろう。
この『ゲーム』の参加者は、殆どがコレを理解していた。
皇帝が、こうも簡単に王の座を譲る筈が無いと、常に気を張らせているのが当たり前。
だからイレギュラーが入れられたとしても、馬鹿みたいに慌てる様子はなく、受け入れた訳。
むしろ。こんなイレギュラーで負けるぐらいなら、それは『王』には到底相応しくなかった。それだけである。
何にせよ。だからこのイレギュラーは甘んじて、嫌々と受け入れる。
問題はこの後。この
でもこれも簡単。「8」が示した通り。
『イレギュラーはあってはならない存在。この度の『ゲーム』は、勝者一人の所謂デスゲームですが。この存在だけは共通の敵となりましょう。――協力して壊してしまっても、だれも文句は言いません』
彼女の言葉に、誰もが思い悩むように口を閉ざす。
誰もが考える。それは、つまり今ここで。
ゲームが始まる前に、
イレギュラーを取り除くための「休戦協定」
――正解だ。
『――……言い出しっぺは
「8」……。『
『
と、休戦の断言をするのである。
ここで漸くと理解した。
今宵。『
最初こそ下らない論争が起こったが、これが目的であったかと。
2人の『王』の死が世に出て直ぐ。『
そして彼女は、一番にイレギュラーの排除を思い立ったのだろう。
だが皇帝が差し向けた猟犬。そう簡単に排除は出来ないとも読んだはず。そうなれば考え付く答えは一つ。
――他の『王』との協力を仰ぐと言う事。
そうなれば急がなくてはいけない。悩んでいる暇はない。
だって猟犬はこの間も動いているのだから。
だからこそ、これ以上減らされる前に。忠告も兼ね、同盟を申し込むためにこの協議を開いたわけだ。
ゲーム前の『王』同士の殺し合いは危険でも。
『
映っているのは、グーフェルトただ一人。他の文字は、点滅もしていない。
彼も何も言わない、ただ笑みを僅かに湛えるだけ。
だが、唐突にその手が静かに
そして彼が映っていた画面は、暗い物へと変わるのだ。
『
『この提案は『
話し合いをスムーズにしたいので。そう『
その言葉で十分だ。つまりは『十の王』は賛同しなかった。
それでも、と『
『強制はしません。ですが彼の者と同じです』
彼女の声は何処までも、凛と真っすぐに。響き渡る。
その、正面から突き刺すような声色で、彼女は最後の言葉を放った。
『妾と共に戦う方は此処に残り、拒む者は今すぐ去って頂きたい――』
◇
ぷつり、小さな音が響く。
しわが刻まれた手が、機械の電源のボタンを押した音。
真っ暗な画面に映る自身の姿を見つめながら男――。『二の王』は小さく息を付いた。
深く椅子に腰かけ、机に在ったグラスを手に取る。
つい今しがた、『八の王』が出した休戦協定。
あの場には一体、何人が残ったのだろうと。僅かに思い描く。
「3」、「4」と「5」も。あそこら辺は賛同しそうだ。
あと、あの正体不明の女を引き連れていた「6」もか。「9」だけは謎だが。
そう、思考を巡らせて、『二の王』はグラスの酒を飲み干す。
ウイスキーの香りが鼻を抜ける。
――彼は、あの提案に賛同しなかった。
『
何故か?簡単だ。
くすんだ翠の目が、机の上の新聞に目が行く。
2人の王が殺された事を記す2つの記事。
それを前に『二の王』は、乾いた笑みを一つ。
椅子から立ち上がり、机に背を向ける。
彼の視線の先には沢山の乱雑に並べられた銃。
それを手に取り、小さく息を付く。
この『ゲーム』。最初に予想した通りイレギュラーが出て来た。
それも、飛び切り危険な存在が。彼が待ち望んでいたような存在が――。
だからこそ『二の王』は協定を蹴った。
何故か?簡単だ。
それが『王』としての彼の望みであるから。
手にする狙撃銃を握りしめ、その口元に笑みを讃えさせ。
『二の王』はポツリと、まるで自分に言い聞かせるように呟く。
「ああ、やっとゲームが開始されたか」――と。
かの王は『二の王』。
この国で、何よりも、誰よりも。
武器の取り扱いに長けた「商人」である。