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27話『10の王』中編




 『十の王グーファルト』を前にして、今まで煩く騒いでいた他の『王』は口を閉ざした。

 誰も、何も口にはしない。口に出来ない。そんな圧をグーフェルトは放っている。


 その様子に『十の王』は呆れたように溜息を一つ。

 前かがみになると、前にある机に肘を付き、手を組んで口元へ。

 その体制で、ジトリと画面越しで此方を見据える。

 まるで此方が見えていると感じる程。鋭く真っすぐな眼であった。


 数人の息を呑む音が聞こえる。

 彼の視線だけで言いたいことは嫌でもわかった。

「何のために今日集まったんだ」――と。


 コホンと、咳を零したのは誰であったか。

 咳払いは兎も角、おずおずと口を開いたのは「3」である。


 『さ、先の話とは、ジョセフ殿下とバーバルさんの事で……?』

 『それ以外の何がある』


 問いに、『十の王グーファルト』は、視線を机の端にある新聞へ投げた。

 画面内でも分かるほどに、デカデカと『一の王ジョセフ』の事故の事が新聞には記載されている。

 ――そうだ。それが、今の問題だ。


『でも、レベッカの言う通りよ』


 しかしと言うべきか。食い下がったのは「4」だ。

 声色からでもわかるほどに不服と苛立ちが混ざる。

 まだ先程の話に納得がいっていないらしい。


『皇帝からは私たちの情報が流されたわ!』

『そ、そうだ!その結果我々は貴様らなんぞに自分のデータを――!』

『そのデータとやらは自己申告だろう。現に『六の王』や『二の王』はどう見ても虚偽申告じゃねぇか』


 その小うるさい話を、「10」はいとも簡単にへし折るのだが。

 この言葉に男は口元に笑みを湛える。まぁ、確かに名前以外は何も報告していないのだから当たり前か。

 ソレは不平等だって?嫌。使いに来た皇帝の使者も、この件に関しては何も言わなかった。


 皇帝は言った。「流したい情報を流せ」と。

 つまりは「情報を寄越せ」――真意は此方。

 平等に。しかし不平等に。あの方は昔から、こんなゲームが好きだった。


 彼の真意に気が付き、嘘の情報を流すか。将又敢えて本当の情報を流すか。

 それか、何も気づかずに脅しに屈するか。


 見る限り「4」と「5」は後者中の後者と言う奴か。

 いや。男は手元にある『王』の情報を見て目を細めた。

 それはグーフェルトも同じであったらしい。


『そもそも「4番」。お前、虚偽の報告してるじゃねぇか。』

『っ――!』


 グーフェルトの指摘を受け、「4」から、がたりとモノが倒れるような音がした。

 指摘を受け、動揺したか。

 画面の先でグーフェルトが僅かな笑みを湛ええる。


『実名か本名知らねぇがな。ドライシャスなんて貴族は『城下町』に住んでねぇよ。皇帝にも見放された田舎貴族じゃねぇか』


「4」からは何も反応も無い。

 画面の先で銀色の眼が細くなる。


『「5番」も同じだな。――虚偽でも許されるって気が付いてるだろ?』


「5」もこの言葉に押し黙る。

 見栄だったのか。わざと気が付かないふりをしていたのか。

 それこそ真意は分からないが、虚偽を申告し。

 見逃して貰っているのに、よくあそこ迄威勢を張れたものだ。


 画面の先でグーフェルトが笑みを浮かべる。

 まだ続けるか?まるで、そう言いたげに。


『そんな、真意が。――僕には分かりませんでした』


 話の腰を折る様に、ボソリと呟いたのは「3」

 ふむ。後者の後者まぬけは此方だったか。思わずと笑み。

 コホンと、咳払いを零したのは誰か。


 『……そ、そうね。今は此方に話を戻しましょう』


「10」に完全に気圧されたのか、事実にこれ以上踏み込まれたくないのか。「4」は白々しく話を変えた。

 それに続けるように、「3」と「5」も承諾したように声を漏らす。

「9」は何も言わない。「8」も同じ。何も言わない。


 ただ、何も言わないと言う事は、承諾も同じだろう。

 グーフェルトは口元に僅かな笑みを湛えて問いただした。


 『――。で、お前らは、どう思っているんだ。此処一連の事件について。答えてみろ』


 皆の了承を得て。再度、今度こそ、『王暗殺本題』へと進む。



 ◇



 『どう、と言われても……』


「10」の問いに、「3」が口籠る。

 少しの間。また、おずおずと口を開く。


 『ぼ、ぼくは、その……。殺されたのだと、思っています』

 『正解だ。「三番」』


 その答えを、本名を持って。「10」は返す。

 言葉を詰まらせる「3」に、彼は続けた。


 『じゃあ、誰が殺した?』


 この問いにも、誰もが言葉を噤ませるのだが。


 ジョセフ、バーバル。

 『一の王』と『七の王』。

『ゲーム参加者』であったこの2人。この2人が、この一ヶ月の間に死んだ。

 コレは「3」の言う通り、「殺された」のは違いない。

 では、誰が殺したか?――簡単だ。


 『――皇帝よ。他に誰がいると言うの』


「4」が冷徹に言い放つ。

 ――正解だ。他に誰がいると言う。


「6」が息を詰まらせるのが分かる。

 ガタリと音を立てて、誰かが立ち上がった。

 画面の「6」が点滅する。


 『なぜ!何故です!?何故、皇帝は『ゲーム参加者』を殺したのですか!玉座を譲ると。そのゲームでは無かったのですか!』


 聞こえて来たのは女の声。

 怒りが混ざった、勢いのまま。その勢いに誰もが口を閉ざし。

 しかして唯一。『十の王グーファルト』だけは小さく笑った。


 『部外者のくせに、一番話が早い』 

 と、一言前置きして。続ける。


 『簡単な事だぜ、奥方』

『簡単……?』

 『端から皇帝様は、俺達に玉座なんて譲るつもりはねぇんだよ』


 答えに、誰もが息を呑み詰まらせる。

 いいや。予想していた事であったからこそ。皆、何度も口を閉ざす。


 ゲーバルド。そう呼ばれる暴君が引き起こしたこの『ゲーム』

「自分が王と思うのなら、名乗りを上げろ。名乗りを上げた者全員で殺し合え。最後の一人に王冠をくれてやる」

 そんな、下らない『ゲーム』に乗りかかったのが、今此処に居る『参加者』我々

 殺される覚悟で、手を上げ。皇帝から赦された存在だ。


 手を上げて置きながら、誰もが不快感を思えた筈。

 あの皇帝が、自分達の反逆とも呼べるこの行為を赦すとは。

 それも本気で『ゲーム』を始めるのを決定するなんて。

 知らせを受けた国民たちは、どれほど活気だったか。


 ――ただ、分かり切っていたが。そんな簡単に皇帝が、王が無償タダで玉座を譲る筈も無いのだ。

 自分が王で無くなるゲームだぞ?むしろ、抵抗する。当たり前。

 男は静かに、卓上の新聞に視線を送る。


 『あの野郎、イレギュラーバグを仕込みやがったのさ。それも飛び切りのな』


 画面の向こうで、同じ新聞を手に振りながらグーフェルトが言う。


 『これは、俺達への宣告だ』


 一呼吸も置かずに彼は、最後に続けた。


 『“そんな簡単に玉座をやるか、こっちからはを仕込んだ。――ほら、『ゲーム』はもう始まってるぞ。好きに動け、自分を楽しませてみろ”、てな』


 先程、誰かが問いかけた筈だ。

「これは、何の宣戦布告なの?」

 簡単。コレが、答えである。


 ◇



 ――その場が静寂に包まれる。

 だれかが「そんなの有り得ない」

 とでも発言しても良さそうだが、誰一人として声を上げない。


 部外者と後ろ指を指された女でさえ。グーフェルトの言葉に言葉を詰まらせ、息を呑む。

 誰もが思ったのだろう。

「ああ、やはり。そうなのか」――と。



 『――……だったら、どうするのだ?』


 重い静寂を破ったのは「5」。

 苦々しい口ぶりで、この場にいる皆に問いかける。


 『皇帝は最初から。我々を狩るつもりだった。それは、仕方が無い。だったらどうする。我々はどう動くべきだ』


 あの最初の短気さからは嘘のような言葉。

 まるで、それが「あのお方だ」と言わんばかりに溜息。其々の答えを待つ。


 『――このゲームにルールと言うルールは設けられていません』


 最初に答えたのは「8」

 苦悩を上げた「5」とは違い、まるで最初から知っていたかのように言葉を紡ぐ。


 『例えば。今から我々が殺し合っても、ゲーバルドは何も言わないはずです』

 『え?じゃあ、今から殺し合っちゃう?』

 茶化す様な「9」


 『――いいえ』

「8」は否定する。


 『それはゲーバルド皇帝は赦しても。何も知らない多くの国民たちの目から見れば、それはルール違反に映ります。我々は大人しく『ゲーム』開始日を待つべきです』

 『だったら、どうすんのさ。ゲーム開始前にイレギュラーに皆殺しかもよ?』


 また「9」が茶々を入れる。

 しかし、それもまた事実だ。


 皇帝は『ゲーム』にイレギュラーを入れた。コレは違いない。我々を狩る、此方の敵だ。

 だが、この事実に気が付いたのは、今この場にいる『王』だけ。


 『国民に告発するべきです!皇帝陛下はズルをしていると!』

「6」の女が声を張り上げる。


 『むり、では?』

 否定したのは、以外にも「3」


 『この『ゲーム』を開催したのは皇帝です。『ゲーム』のルールは彼にある。まだ、この国は彼の物です。非難を上げられるのなら、暴君はいません。それに、彼は奪われる前に抗っただけ。……抗う権利は、十分あります』


 と、皇帝側の権利をズルではない、と主張したのだ。

 続けてグーファルトが言う。


 『ソレにだ、奥方。送り込まれたのは犬一匹だ。猟犬一匹で死んじまうならな。王の座は相応しくねぇよ。つーか、殺し屋が差し向けられた……。この可能性を考えない奴は、ゲームが始まっても直ぐに死んじまう。――ジョセフだって考慮していたはずだ。その為の影武者だろ?』


「6」の女が黙る。

 反対に代りにもう一人の「6」が、口を開く。


 『――では、我々は、コレからどう動けと……?』

 他の王と同じ答えに辿り着くわけだ。


 『簡単ですよ』

 その問いに「8」が答えた。


 『協定を結べばいい』


 少しの間が空く。

 『協定……?』

 だれかが、口に零した。「8」が肯定する。



 『イレギュラーを殺す間だけの協定です』




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