『
誰も、何も口にはしない。口に出来ない。そんな圧をグーフェルトは放っている。
その様子に『
前かがみになると、前にある机に肘を付き、手を組んで口元へ。
その体制で、ジトリと画面越しで此方を見据える。
まるで此方が見えていると感じる程。鋭く真っすぐな眼であった。
数人の息を呑む音が聞こえる。
彼の視線だけで言いたいことは嫌でもわかった。
「何のために今日集まったんだ」――と。
コホンと、咳を零したのは誰であったか。
咳払いは兎も角、おずおずと口を開いたのは「3」である。
『さ、先の話とは、ジョセフ殿下とバーバルさんの事で……?』
『それ以外の何がある』
問いに、『
画面内でも分かるほどに、デカデカと『
――そうだ。それが、今の問題だ。
『でも、レベッカの言う通りよ』
しかしと言うべきか。食い下がったのは「4」だ。
声色からでもわかるほどに不服と苛立ちが混ざる。
まだ先程の話に納得がいっていないらしい。
『皇帝からは私たちの情報が流されたわ!』
『そ、そうだ!その結果我々は貴様らなんぞに自分のデータを――!』
『そのデータとやらは自己申告だろう。現に『六の王』や『二の王』はどう見ても虚偽申告じゃねぇか』
その小うるさい話を、「10」はいとも簡単にへし折るのだが。
この言葉に男は口元に笑みを湛える。まぁ、確かに名前以外は何も報告していないのだから当たり前か。
ソレは不平等だって?嫌。使いに来た皇帝の使者も、この件に関しては何も言わなかった。
皇帝は言った。「流したい情報を流せ」と。
つまりは「
平等に。しかし不平等に。あの方は昔から、こんなゲームが好きだった。
彼の真意に気が付き、嘘の情報を流すか。将又敢えて本当の情報を流すか。
それか、何も気づかずに脅しに屈するか。
見る限り「4」と「5」は後者中の後者と言う奴か。
いや。男は手元にある『王』の情報を見て目を細めた。
それはグーフェルトも同じであったらしい。
『そもそも「4番」。お前、虚偽の報告してるじゃねぇか。』
『っ――!』
グーフェルトの指摘を受け、「4」から、がたりとモノが倒れるような音がした。
指摘を受け、動揺したか。
画面の先でグーフェルトが僅かな笑みを湛ええる。
『実名か本名知らねぇがな。ドライシャスなんて貴族は『城下町』に住んでねぇよ。皇帝にも見放された田舎貴族じゃねぇか』
「4」からは何も反応も無い。
画面の先で銀色の眼が細くなる。
『「5番」も同じだな。――虚偽でも許されるって気が付いてるだろ?』
「5」もこの言葉に押し黙る。
見栄だったのか。わざと気が付かないふりをしていたのか。
それこそ真意は分からないが、虚偽を申告し。
見逃して貰っているのに、よくあそこ迄威勢を張れたものだ。
画面の先でグーフェルトが笑みを浮かべる。
まだ続けるか?まるで、そう言いたげに。
『そんな、真意が。――僕には分かりませんでした』
話の腰を折る様に、ボソリと呟いたのは「3」
ふむ。
コホンと、咳払いを零したのは誰か。
『……そ、そうね。今は此方に話を戻しましょう』
「10」に完全に気圧されたのか、事実にこれ以上踏み込まれたくないのか。「4」は白々しく話を変えた。
それに続けるように、「3」と「5」も承諾したように声を漏らす。
「9」は何も言わない。「8」も同じ。何も言わない。
ただ、何も言わないと言う事は、承諾も同じだろう。
グーフェルトは口元に僅かな笑みを湛えて問いただした。
『――。で、お前らは、どう思っているんだ。此処一連の事件について。答えてみろ』
皆の了承を得て。再度、今度こそ、『
◇
『どう、と言われても……』
「10」の問いに、「3」が口籠る。
少しの間。また、おずおずと口を開く。
『ぼ、ぼくは、その……。殺されたのだと、思っています』
『正解だ。「三番」』
その答えを、本名を持って。「10」は返す。
言葉を詰まらせる「3」に、彼は続けた。
『じゃあ、誰が殺した?』
この問いにも、誰もが言葉を噤ませるのだが。
ジョセフ、バーバル。
『一の王』と『七の王』。
『ゲーム参加者』であったこの2人。この2人が、この一ヶ月の間に死んだ。
コレは「3」の言う通り、「殺された」のは違いない。
では、誰が殺したか?――簡単だ。
『――皇帝よ。他に誰がいると言うの』
「4」が冷徹に言い放つ。
――正解だ。他に誰がいると言う。
「6」が息を詰まらせるのが分かる。
ガタリと音を立てて、誰かが立ち上がった。
画面の「6」が点滅する。
『なぜ!何故です!?何故、皇帝は『ゲーム参加者』を殺したのですか!玉座を譲ると。そのゲームでは無かったのですか!』
聞こえて来たのは女の声。
怒りが混ざった、勢いのまま。その勢いに誰もが口を閉ざし。
しかして唯一。『
『部外者のくせに、一番話が早い』
と、一言前置きして。続ける。
『簡単な事だぜ、奥方』
『簡単……?』
『端から皇帝様は、俺達に玉座なんて譲るつもりはねぇんだよ』
答えに、誰もが息を呑み詰まらせる。
いいや。予想していた事であったからこそ。皆、何度も口を閉ざす。
ゲーバルド。そう呼ばれる暴君が引き起こしたこの『ゲーム』
「自分が王と思うのなら、名乗りを上げろ。名乗りを上げた者全員で殺し合え。最後の一人に王冠をくれてやる」
そんな、下らない『ゲーム』に乗りかかったのが、今此処に居る
殺される覚悟で、手を上げ。皇帝から赦された存在だ。
手を上げて置きながら、誰もが不快感を思えた筈。
あの皇帝が、自分達の反逆とも呼べるこの行為を赦すとは。
それも本気で『ゲーム』を始めるのを決定するなんて。
知らせを受けた国民たちは、どれほど活気だったか。
――ただ、分かり切っていたが。そんな簡単に皇帝が、王が
自分が王で無くなるゲームだぞ?むしろ、抵抗する。
男は静かに、卓上の新聞に視線を送る。
『あの野郎、
画面の向こうで、同じ新聞を手に振りながらグーフェルトが言う。
『これは、俺達への宣告だ』
一呼吸も置かずに彼は、最後に続けた。
『“そんな簡単に玉座をやるか、こっちからは
先程、誰かが問いかけた筈だ。
「これは、何の宣戦布告なの?」
簡単。コレが、答えである。
◇
――その場が静寂に包まれる。
だれかが「そんなの有り得ない」
とでも発言しても良さそうだが、誰一人として声を上げない。
部外者と後ろ指を指された女でさえ。グーフェルトの言葉に言葉を詰まらせ、息を呑む。
誰もが思ったのだろう。
「ああ、やはり。そうなのか」――と。
『――……だったら、どうするのだ?』
重い静寂を破ったのは「5」。
苦々しい口ぶりで、この場にいる皆に問いかける。
『皇帝は最初から。我々を狩るつもりだった。それは、仕方が無い。だったらどうする。我々はどう動くべきだ』
あの最初の短気さからは嘘のような言葉。
まるで、それが「あのお方だ」と言わんばかりに溜息。其々の答えを待つ。
『――このゲームにルールと言うルールは設けられていません』
最初に答えたのは「8」
苦悩を上げた「5」とは違い、まるで最初から知っていたかのように言葉を紡ぐ。
『例えば。今から我々が殺し合っても、ゲーバルドは何も言わないはずです』
『え?じゃあ、今から殺し合っちゃう?』
茶化す様な「9」
『――いいえ』
「8」は否定する。
『それは
『だったら、どうすんのさ。ゲーム開始前にイレギュラーに皆殺しかもよ?』
また「9」が茶々を入れる。
しかし、それもまた事実だ。
皇帝は『ゲーム』にイレギュラーを入れた。コレは違いない。我々を狩る、此方の敵だ。
だが、この事実に気が付いたのは、今この場にいる『王』だけ。
『国民に告発するべきです!皇帝陛下はズルをしていると!』
「6」の女が声を張り上げる。
『むり、では?』
否定したのは、以外にも「3」
『この『ゲーム』を開催したのは皇帝です。『ゲーム』のルールは彼にある。まだ、この国は彼の物です。非難を上げられるのなら、暴君はいません。それに、彼は奪われる前に抗っただけ。……抗う権利は、十分あります』
と、
続けてグーファルトが言う。
『ソレにだ、奥方。送り込まれたのは犬一匹だ。猟犬一匹で死んじまうならな。王の座は相応しくねぇよ。つーか、殺し屋が差し向けられた……。この可能性を考えない奴は、ゲームが始まっても直ぐに死んじまう。――ジョセフだって考慮していたはずだ。その為の影武者だろ?』
「6」の女が黙る。
反対に代りにもう一人の「6」が、口を開く。
『――では、我々は、コレからどう動けと……?』
他の王と同じ答えに辿り着くわけだ。
『簡単ですよ』
その問いに「8」が答えた。
『協定を結べばいい』
少しの間が空く。
『協定……?』
だれかが、口に零した。「8」が肯定する。
『イレギュラーを殺す間だけの協定です』